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2020年02月18日23:56

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新・音盤雑談帖(その81)―From the first night of The Proms 1943

さて少し前に、英国ロンドンの夏の音楽祭であるプロムスの創立者である、サー・ヘンリー・ウッドが1943年のプロムスの初日を指揮した、色々な意味で恐るべき実況盤が発売されました。恐らく、プロムスの音源としては最古の物ではないか、また創立者であるサー・ヘンリー・ウッド自身の指揮で聴けるプロムスの音源としては、唯一のものではあるまいか、と発売されるやいそいそと購入した次第。その感想文を少々。

生憎当夜の曲目が全部収録されているのではなく、サン・サーンスのピアノ第2協奏曲は第一・第三楽章のみ、ベートーヴェンの第五交響曲に至っては第一楽章のみ、と物足りなさが先に来てしまうのでありますが、まあ収録されていないものをとやかく申し上げても仕方のない所。
サー・ヘンリー・ウッドの音楽作りは、19世紀的装飾過多の、無闇にグラマラスなごてごてした音楽、と評される事が多い様で。確かに以前プロムスで演奏された(CDにもなっていますが)、バッハの有名なトッカータとフーガBWV565を聴いても、ストコフスキーの華麗なる響きに対して、よく言えば古色蒼然とした重厚長大な、悪く言えばモソモソ・ドタドタした響きが聴こえて来て、先ほど紹介した評は当たっているかな、と首肯させるものが。

で、ありますが、時代錯誤的音楽嗜好の持主であるわたくしとしましては、昨今大流行の古楽器系の、ペランペランな癖に妙に刺々しい演奏よりは、まだ聴いていて違和感が少ないですね。ベートーヴェンの第五交響曲も、全曲がないのが痛恨の極み、というべきか。音の重心の低い、お相撲に例えると十分に腰を割った、ずしりとした音楽が聴こえてきて、サー・ヘンリーの音楽を殆ど知らないわたくしとしては大いに満足させられました。
が、更に驚いたのがデュカの『魔法使いの弟子』。わたくしこの曲の刷り込みは、御多分に漏れずストコフスキーの『ファンタジア』でありますが、それ以降仏蘭西風のエスプリとファンタジックに満ちた曲、とイメージでありました。
これがサー・ヘンリーの演奏で聴くと、原作のゲーテの独逸語のバラード、という色彩が表に出てきて、おや、この曲にはこんな独逸音楽的な堅牢な響きが秘められていたのか、と非常に新鮮でありました。

生憎さー・ヘンリー・ウッドはこの翌年に没して居りまして、残された音盤は当然の事ながらSP録音のみ。しかも生前より既に、晩年は時代遅れの音楽づくりと看做されていた様で、復刻も殆ど進んでいないのではないか、と。この辺りは彼より前に他界した、マックス・フォン・シリングスと共に、今やその演奏は骨董品扱いなのでありましょうが、個人的にはもう少しあれこれ聴く機会があればなあ、今回のプロムスの古い実況録音盤を聴いて思う次第であります。

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