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2019年06月21日23:45

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新・音盤雑談帖(その78)―マーラー 第一交響曲『巨人』・ハイドン第九十六交響曲『奇蹟』 ブルーノ・ワルター/BBC交響楽団

戦後のブルーノ・ワルターの実況録音は、これまで欧州大陸のオーケストラ(ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、フランス国立放送交響楽団等)が大半でありましたが、ここにBBC交響楽団との実況録音が登場しました。曲目は何れもワルター十八番のハイドンの第96交響曲『奇蹟』と、師匠マーラーの第一交響曲『巨人』。先日聴き終わりましたので、感想文を少々。

ワルターの世代の指揮者は、左程頻繁にハイドンの交響曲を取り上げる事はなかったか、と思います。そんな中、ワルターは第96番を戦前のウィーン・フィルとのスタジオ録音を皮切りに、実況も含めるとこれまで三種類の録音が知られていましたが、ここに新たにBBC交響楽団との実況録音が登場した訳で。録音の時期はニューヨーク・フィルとのスタジオ録音の半年ほど後。
わたくしは『奇蹟』交響曲の演奏では、刷り込み盤であるジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団の透徹したアンサンブルと、白磁を思わせる様な光沢が染み付いてそれ以外の演奏は中々受け入れられなかった時代が長く続きまして。漸く聴いていて、ああ、セルならこんな事をしないのになあ、という邪念を浮かべる事なく聴き通す事が出来る様になりました。
ワルターの演奏は、よく言われる様に旋律を良く歌わせ、現代オーケストラを良く鳴らす、今日的なハイドンとは大違い、のものでありますがワルターの演奏としては完成度の高い演奏の一つではないか、と思う次第。BBC交響楽団も、よくワルターの意図を体現しているのではないか、と思います。ニューヨーク・フィルの方が、オーケストラとしての馬力がありますが、ある意味ちょっと馬力がありすげる様な節が(聞き比べてみると)なきにしもあらず、でありましょうか。
それにしてもワルターにザロモン・セットの全12曲を録音させよう、という企画はなかったものか。情緒纏綿とした、セルの端然とした佇まいの演奏と好一対の音楽を聴けた、と思うのですが。

さてもう一方のマーラーの第1交響曲『巨人』。これはもうお手の物、という感じで演奏が進んでいく様は見事というべく。客演指揮者なのに、自由自在にオーケストラをさばいていく手並みは、流石というべきでありましょう。尤もBBC交響楽団は、戦前にモーツァルトの第39交響曲を録音していたりしていますので、この時代にも御馴染の楽団員がまだ多かったのかも知れませんが。

只意外だったのは、かのワルターにして、最終楽章のコーダの最後の最後の所では、テンポを上げていて、ちょっとドカチャカ気味で終わらせている所。実演なので、テンションが上がったのかも知れませんが、ステレオ盤のテンポを上げない事で、オーケストラが存分に鳴り響くスタイルが殊の外お気に入りのわたくしとしては、些か残念な所ではありました。

他の収録曲目では、ブラームスの『運命の歌』に、ワルターの合唱曲の演奏の上手さが印象に残りました。ステレオで独逸鎮魂曲がないのが、痛恨の極みでありますね。

録音状態はこの時代を考えるとまあ水準程度かな、と。もう少し、この時代のワルターの色々な曲での実況録音も聴いてみたい、と思いますがニューヨーク・フィルとの実況は―音質の点で、これまで発売されたものが、如何にも中波ラジオ的な丸い音なのがちょっと物足りないのですが―権利関係が喧しくて、難しいんですかね。

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