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2018年12月04日21:41

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川端康成と湖月抄(2)

「たとえば大木は『源氏物語』を註釈本や小型文庫本、つまり今のこまかい活字本で読んで来たが、ある時、北村季吟の『湖月抄』の木版本で読むと、ずいぶんと印象がちがった。さらに遠くさかのぼって王朝のころにあの美しい仮名書きの筆写で読んだ印象はどうであったろうかと考えてみた。また、『源氏物語』は現代では千年前の古典であるが、王朝時代には現代小説であった。『源氏物語』の研究はいくら進んでも、今ではもう現代小説として読むことはできない。それでも木版本で読むことは、活字本で読むよりも恍惚が増した。高野切の『古今集』の歌なども、これとおなじであろう。ずっと下って西鶴本なども元禄の木版本(複製であろうとも)で読むことを、大木はつとめた。懐古趣味ではなく、いくらかでも作品のまことに近く触れるためであった。しかし、今の作品は原稿の複製で読んだりするのは数奇に過ぎなくて、活字本で読むものである。味気ないペン書きで見るものではなかった。」

川端康成『美しさと哀しみと(新装版)』(中央公論・1973年)p.37より

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川端康成と源氏物語について調べていたら、川端の『美しさと哀しみと』という作品に行き当たった。
wikipediaの「美しさと哀しみと」の項には、山折哲雄の「川端は『美しさと哀しみと』を書くにあたり、『源氏物語』を念頭に置いていたのではないか」という説が紹介されていた。

図書館で借りて読んでみると、なかなか面白い。その中に、上に引用した文章があった。
ここでは、大木という小説家でもある主人公の言葉として記されているが、ここに描かれている古典に対する姿勢や見方は、ほぼ川端自身のものであったと思われる。昨日の日記で引用したように、川端は、戦時中に「湖月抄」を読んで、「恍惚と陶酔」した。

「木版本で読むことは、活字本で読むよりも恍惚が増した」

これは、どういうことだろうか。
読書にも、いろいろなタイプがある。
単に文字を追うだけの読書もある。そういうものであれば、紙の媒体である必要もなく、パソコンや携帯端末の画面でも、充分に楽しめる。

しかし、ある種の読書の楽しみには、それに留まらないものがある。
本の体裁・装飾、紙の質、文字の大きさ、字体など、そうした「形」を含めて味わう「読書という体験」もある。川端が源氏物語から得た「恍惚と陶酔」の大きさには、そうしたことが関係していたのだろう。
源氏物語を木版本の『湖月抄』で読むことによって、川端は「いくらかでも作品のまことに近く触れる」ことが出来たと思ったのだろう。

僕の手元には、古典文庫版で、木版本をコピーした『好色一代男』がある。
また、藤原定家の筆になるという『古今和歌集』と『更科日記』の複写本がある。
僕の読書力は、まだこうしたものから充分な「恍惚と陶酔」を味わえるまでには至っていない。

余談だが、江戸時代の木版本の湖月抄を入手しようと思ったら、いくらくらいなのか調べてみた。
そうしたところ、ときどき寄ることのある「日本書房」で

150,000円
https://www.kosho.or.jp/products/detail.php?product_id=68808107

で出ていることが分かった。
意外と安いような気がするのだけれど、どうだろうか。
もちろん、買えないけれど(笑)。

『美しさと哀しみと』の面白さについては、またいずれ。

◆高野切(こうやぎれ)
http://www.kanashodo.jp/kanashodo-files/kouyakire.html
◆日本書房
http://nihon.jimbou.net/catalog/index.php
◆「源氏物語湖月抄」価格:194,400円(税込)
http://www.rinrokaku.co.jp/catalog/product_info.php/products_id/89638
◆「源氏物語湖月抄」(題簽一冊欠 書入多数)販売価格\100,000(税込)
http://gayudou.com/0025202.html

◆『美しさと哀しみと』についての書評など
・『美しさと哀しみと』 川端康成
http://www.tokyobookgirl.com/entry/beauty-and-sadness
・川端康成著・美しさと哀しみと
https://y-kyorochann.at.webry.info/200912/article_3.html
・【書評】 美しさと哀しみと
http://rollikgvice.hatenablog.com/entry/20170911/1505125610
・美しさと哀しみと 川端康成
http://pione1.hatenablog.com/entry/2018/01/02/104414

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