第28回東京国際映画祭
『ボディ』(ワールド・フォーカス)
肉体と精神のバランスは誰しもが上手く取れているとは限らない。
それに家族関係が重なれば、なおさら難しい。
オルガは自分の肉体を嫌って摂食障害になっている。
母親が亡くなってから父とはうまくいかない。
父は検察官という仕事がら死体に慣れていて、それゆえ母の死を即物的に捉えるため隔たりが出ているのだ。
いやそれ以上の反感を抱いている。
そこに割って入るのがキーマンとなるセラピストのアンナ。
霊媒師でもある彼女の存在が二人の関係性に変化をもたらす。
両親が揃っていた時に働いたバランスは取り戻しようがない。
摂食障害でガリガリの娘とアル中気味で太っている父の体系が逆なのも比ゆ的である。
セラピーを行うクリーンルームのような白い室内が印象的。
死を論理的に考える父と、反対の立場とも取れる霊媒師では永遠に平行線に思えるが、着地点の軽やかさに笑みがこぼれてしまう。
女性監督らしい視点と柔らかさを感じた。
ベルリン映画祭、監督賞受賞
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『神様の思し召し』(コンペティション)
今年のTIFFで観客賞を受賞しただけあり、とても楽しい映画。
エドアルド・ファルコ―ネ監督はこれが初めてとは思えない手慣れたものを感じる。
主人公のトンマーゾ医師は腕はあるが性格は最低の心臓外科医。
謙虚さのかけらもない偉ぶって高慢ちきな嫌なタイプ。
どれほど難しい手術に成功しても、これっぽっちも神に感謝なんてしない。
一方で、家族間には問題を抱えている。
妻とは距離を感じていて、二人の子どもも心もとない。
それでも息子に医師としての跡継ぎさせる計画をしている。
そんなある日、息子の思わぬ告白から人生を大きく省みる羽目に…。
ファルコ―ネ監督は脚本家出身だけあり、人物造形が巧み。
畳みかける軽妙な会話劇に大爆笑。
奇跡を信じない現実主義者のトンマーゾの心の変化がじっくりユーモラスに描かれる。
キリスト教関係の出来事と<父と息子>という構図はどこかつながるようでもある。
一般公開になったら、ぜひまた見たい一作である。
おそらく…だが、昨年の上映作品が9〜11月ごろに多く上映されているから、これも来年の秋じゃないかな?
そして劇場はシネスイッチ銀座あたりの匂いがする。
監督がゲストで登壇。
イタリア人らしく陽気で気さくそうな方。
グランプリ上映の最終日(午前中に観客賞の上映があった)にロビーでお見かけしたのだが、サインをねだればよかったかな?
ただ、最終日のパーティー会場に向かう様子だったから足止めするのも…と思ったけど、たぶん気安く受けてくれたはず。
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