mixiユーザー(id:44534045)

日記一覧

2分小説『剣の皇女』
2022年12月03日02:11

「私が死ねば戦争は終わる」 馬を降り一人、散歩でもするかのように、剣と剣がぶつかる音のアーチをくぐり、開けた原っぱに立ち尽くす。「お前たちが殺したい私はここにいる」 静寂、戦場にまったくそぐわない静寂。「殺しなさい。そうして兄さんに言って、

続きを読む

「ゴーレムビューティートーク!皆さんこんにちは。アイアンゴーレムです。本日はストーンゴーレムのビューティー・メガ・ストーン先生にお越ししただきました。先生、宜しくお願いします」「宜しくお願いします」「早速ですが先生、最近の若いゴーレムのメイ

続きを読む

 日常を踏み外さないように踏み外さないように踏み外さないように歩いてる柴犬、飼い主引き連れ今日も同じ道。 嗅いだことの無いニオイにぶち当たり、驚愕する顔、歪む、別犬種のように。 破綻した日常、嘲笑うように空高く高くやや高く、電車の音が駆け抜

続きを読む

1分小説『nuance』
2022年09月03日00:06

「いや、そんな訳ないだろ?本当に俺が言った通りにやった?」「やったよ!お前が言った通りやったらなんか空気になっちゃって……どうしてくれんだよ!?」「そんな怒んなよ」「怒るよ!鉄板の口説き方教えるって、お膳立ても全部してやるって、そいでお前の

続きを読む

3分小説『toxic』
2022年08月25日02:10

 尾の先端がぶつ切れた蠍だ。 国道の脇、縁石の影に身を縮こまらせ、「今日こそは太陽が昇りませんように」と居留守が上手なカミに祈る。「ニンゲンに見つかれば間違いなく殺される」 安全の為にと尾を切られた挙句棄てられてからずっと恨んでいる。もしも

続きを読む

30秒小説『カオ』
2022年08月25日01:32

 所々欠けた頭皮から餡が露見している。普段は赤らんで艶やかな頬、既にして生彩を失い。溌剌とした声はもはや、蚊のひそひそ声。 疲弊した背中見つめ、申し訳なさで涙目になったのも束の間、背越しの台詞で心臓が凍る。「じゃあカバオ君、今度は僕が君の顔

続きを読む

『black black blood』 第1話
2022年08月12日01:28

 私は今、瞼を金具で固定され、眼球に針を突き刺されている。が、誤解しないで欲しい。これは私が望んだことだ。 眼に猫の入れ墨を彫って欲しい――と、お願いしたのは私なのだ。「ねぇ……後どれくらいかかるの?」「話し掛けるなよ。手元が狂うだろう」静

続きを読む

2分小説『くらげとす』
2022年08月01日02:10

 クラゲに刺されたらしい。腕がヒリヒリする。今年はカツオノエボシという猛毒クラゲが大量発生してるってネットで見た。刺されると危険らしい。万が一を考えて応急処置をしたい。「クラゲに刺された時は、刺された所を酢で洗うといいっておばあちゃんが言っ

続きを読む

(嘘だろ……) 面接にて私は戸惑う。(こんなこと……あってはならない) これは運命なのだろうか?だとしたら、あまりにも無価値な運命だ。幸いにして面接官は私一人、軽く咳払いして呼吸整え、なるべく優しい口調を選び話しかける。「面接を始めるわけに

続きを読む

 御社を志望した動機は、豆腐メンタルを改善する為です。 "豆腐のように精神が脆い"と言われ続け早24年、忸怩たる毎日でした、でも、それも今日まで。 御社に入ればきっと変わります。 そうです!私は御社の下で、”鋼の様に固い豆腐”を作りたいのです!

続きを読む

『夏い暑空』
2022年07月09日11:25

映画館の帰り道艦隊のような入道雲喫茶店へ逃げなきゃふざけて小走り手繋ぐ勇気なく軽く指触れさせる(バカ!何でこんな痴漢みたいに)恥と怒りで耳がぢんぢん彼女の顔見れない二度と見れない視界がブラックアウトした瞬間小さな感覚彼女の指が触れてきた一瞬の

続きを読む

2分小説『夏空の味』
2022年07月09日00:51

 一瞬で笑顔が消えた。 多分暑さのせいだろう。笑った拍子。棒の先からキャンディーがもげて砂場に落ちたのだ――サンダルでワンバンして。 あの透き通る青、砂に半分埋もれて夏、日差しが宝石のように照らしている僕にはそれが、とても美しく見えただから

続きを読む

「はい、トド」「ウァーウァー」「アザラシ」「アーアー」「オットセイ」「オウオウ」「セイウチ」「グアーグアー」「はい、山田さんっ!」「……」「山田さんっ!「……」「山田っさんっ!ちゃんと鳴いて!」「……」「どうして鳴かないの?」「……」「鳴き

続きを読む

 人の懐事情に一切斟酌することなく、「回らない寿司を食わせろ」などと抜け抜けとほざく君へ、一つ確認したい。「君は、この惑星が自転、公転という運動を常に行っているという事実を認識しているだろうか?」 学生時代に習ったはずだが、敢えて説明をして

続きを読む

 ”悲しみを写すカメラ”を買った。メルカリで。意外に安かったから、そして、悲しみ――もしもそれが目に見えたらどんなだろうという好奇心。「須らく、感情というものは透明であると、そう思っていたんだがな」 箱も説明書も欠落している。古めかしいデザ

続きを読む

『海の無い鮪』
2022年07月05日02:43

 指絡め、笑顔くっつけ、内臓晒した末路といえば、相も変わらず、2つ並びの寂しい死体。 与えもせず奪いもせず、ただ果てては果て、天井で地平線と水平線が交差するのを眺めている。市場のコンクリに打ち捨てられた、四つ目の怪魚、透明を濁らせた瞳。 作

続きを読む

「ところでさぁ――」 調味料ラックで、醤油が話しかけた。「お前らって、”柚子”なの”胡椒”なの?」「え?」「え?」「だからさぁ、お前らって柚子胡椒なわけじゃん?結局、柚子なの?胡椒なの?」「そ…それは――」 言いよどむ柚子、いきり立つ胡椒。

続きを読む

「すまない」 黒い髭の隙間から、漏れた。 青年、コック帽を脱ぎ、調理台に置く。その傍らに焼きたてのパン。 青年は嘆いた。懺悔をしたいが、その宛先が分からない。パン、可視的な香気を窓越しの朝陽に浮かべている。「失敗だ」 感情が飽和し、爆ぜた。

続きを読む

1分小説『おとしもの』
2022年06月29日05:43

「落としましたよ」 声を掛けられた。「貴方の絶望でしょ?」「確かに、でも要らないので」「え?」「そのままにしておいてください」「駄目ですよそんなの!」「は?」「街を汚さないで!」「いいだろ別に、絶望なんてもうそこら中に落ちてるし」「駄目です

続きを読む

 海面が遥か下に見える。「どうして……」 いつものように水中から飛び出しただけなのにどうして?いつものように海に戻れない。延々と空を飛び登っていく。飛び魚は考えた――きっと、僕は死んだのだ。 海神が僕の魂を呼び戻しているんだきっと――いや、

続きを読む

1分小説『田』
2022年06月22日13:02

「上のもんを出せ!」「すいませんでした」「お前の謝罪なんかどーでもいいんだよ。早く上のもん呼べよ」「あのー、クリーニング代はこちらで負担させて頂きますので――」「あー?、しつけーなテメェ!上のもんだせって言ってんだろ!」「上の者と言われまし

続きを読む

3分小説『Dog day』
2022年06月10日16:46

「さぁ、匂いを嗅いで」 ”被害者が見つけていた”という想定で下着を鼻に押し付けられ、僕は――「これを着ていた女性の年齢は?あと、容姿的にはどんな感じの人だったのでしょうか?」 尋ねた。婦警さんの前髪の隙間で、眉間に小さな皺が寄る。「はぁ?犬

続きを読む

『詩は罫線を待たない』
2022年06月10日14:45

 可愛い子はたくさんいるけど 「好き」って言葉はキミにしか言わない 。 "愛してる"より重い想い。そっけなく言うけど 実は毎回ドキドキしてる 。 気付いて欲しいけど、気づいて欲しくない―― 透明なひとりごと 。 詩なんて書くつもりじゃなかったのに、

続きを読む

 学生の頃、今から二十数年前、自分が書いた詩を誰かに読んでもらうことができるのは、”詩人”と呼ばれる一部の限られた人だけだった。 同人誌というものもあったけど、やはり作品を広く世間に知らしめるには、職業詩人になる必要があって、その為にはある

続きを読む

『コロッケ戦争』
2022年06月10日02:00

 前行くババアの曲がった肘が皿の縁を強襲した。惣菜トレーの縁でビバレッジして、宙へ飛ぶ――コロッケ、滞空している、惑星のように、何故か時間がmatrix。僕の目の前で滞空している、ソースの弾丸、キャベツの編隊。宇宙戦争、敵は人類。デススター化した

続きを読む

 蕎麦が好物だ。低脂質、痩せ効果も期待して、行きつけの店。 小盛りを頼もうとして頭上に”?” 特盛りの横に、”メメント盛り”の文字。 メメント・モリ――ラテン語で”死を忘れることなかれ” か、そうだよな。今を生きなきゃ、体より先に心がくたば

続きを読む

 *注意!性的表現を含みます。(ただしすべて昆虫によるものです) 湖上を彷徨っていた。後数時間の命、実在を疑われるほど透明な翅、僕はウスバカゲロウ。 卵から出た産まれ、羽化して生まれる。 心が発生した瞬間にカウントダウンが始まる。死への秒読

続きを読む

「こんな田舎に?」 駅を降りて思わず呟いた。1年ぶりの帰省。駅前の風景、基本的には何も変わっていない。ただ以前は無かった店が、道路向い、ビルの一階に出来ている。ここからでは店名は読めないが、大きく”インド料理”の文字。「やってけんのか?」 

続きを読む

3分小説『Insecticide』
2022年05月31日02:32

「おはようアントン」「おはようプルース」「気分はどうだい?」「普通さ」「そうか、それは良かった」「悪い夢は見なかったか?」「……見ていない」「good!じゃあ朝食に行こう」「ああ」 俺は嘘を吐いた。悪い夢、見たさ昨夜もね。というより毎晩だ。悪夢

続きを読む

「見てしまったのね」「ああ」 波止場に男女。濁った海のうねりを見つめる女。何を語るべきか迷っている男。沖に一艘の小舟。「じゃあ、知ってしまったのね私の正体を」「すまない。詮索するつもりはなかったんだでも――」「いいの孝彦さん。いずれはこうな

続きを読む