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日記一覧

「すまない」 黒い髭の隙間から、漏れた。 青年、コック帽を脱ぎ、調理台に置く。その傍らに焼きたてのパン。 青年は嘆いた。懺悔をしたいが、その宛先が分からない。パン、可視的な香気を窓越しの朝陽に浮かべている。「失敗だ」 感情が飽和し、爆ぜた。

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1分小説『おとしもの』
2022年06月29日05:43

「落としましたよ」 声を掛けられた。「貴方の絶望でしょ?」「確かに、でも要らないので」「え?」「そのままにしておいてください」「駄目ですよそんなの!」「は?」「街を汚さないで!」「いいだろ別に、絶望なんてもうそこら中に落ちてるし」「駄目です

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 海面が遥か下に見える。「どうして……」 いつものように水中から飛び出しただけなのにどうして?いつものように海に戻れない。延々と空を飛び登っていく。飛び魚は考えた――きっと、僕は死んだのだ。 海神が僕の魂を呼び戻しているんだきっと――いや、

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1分小説『田』
2022年06月22日13:02

「上のもんを出せ!」「すいませんでした」「お前の謝罪なんかどーでもいいんだよ。早く上のもん呼べよ」「あのー、クリーニング代はこちらで負担させて頂きますので――」「あー?、しつけーなテメェ!上のもんだせって言ってんだろ!」「上の者と言われまし

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3分小説『Dog day』
2022年06月10日16:46

「さぁ、匂いを嗅いで」 ”被害者が見つけていた”という想定で下着を鼻に押し付けられ、僕は――「これを着ていた女性の年齢は?あと、容姿的にはどんな感じの人だったのでしょうか?」 尋ねた。婦警さんの前髪の隙間で、眉間に小さな皺が寄る。「はぁ?犬

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『詩は罫線を待たない』
2022年06月10日14:45

 可愛い子はたくさんいるけど 「好き」って言葉はキミにしか言わない 。 "愛してる"より重い想い。そっけなく言うけど 実は毎回ドキドキしてる 。 気付いて欲しいけど、気づいて欲しくない―― 透明なひとりごと 。 詩なんて書くつもりじゃなかったのに、

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 学生の頃、今から二十数年前、自分が書いた詩を誰かに読んでもらうことができるのは、”詩人”と呼ばれる一部の限られた人だけだった。 同人誌というものもあったけど、やはり作品を広く世間に知らしめるには、職業詩人になる必要があって、その為にはある

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『コロッケ戦争』
2022年06月10日02:00

 前行くババアの曲がった肘が皿の縁を強襲した。惣菜トレーの縁でビバレッジして、宙へ飛ぶ――コロッケ、滞空している、惑星のように、何故か時間がmatrix。僕の目の前で滞空している、ソースの弾丸、キャベツの編隊。宇宙戦争、敵は人類。デススター化した

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 蕎麦が好物だ。低脂質、痩せ効果も期待して、行きつけの店。 小盛りを頼もうとして頭上に”?” 特盛りの横に、”メメント盛り”の文字。 メメント・モリ――ラテン語で”死を忘れることなかれ” か、そうだよな。今を生きなきゃ、体より先に心がくたば

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 *注意!性的表現を含みます。(ただしすべて昆虫によるものです) 湖上を彷徨っていた。後数時間の命、実在を疑われるほど透明な翅、僕はウスバカゲロウ。 卵から出た産まれ、羽化して生まれる。 心が発生した瞬間にカウントダウンが始まる。死への秒読

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「こんな田舎に?」 駅を降りて思わず呟いた。1年ぶりの帰省。駅前の風景、基本的には何も変わっていない。ただ以前は無かった店が、道路向い、ビルの一階に出来ている。ここからでは店名は読めないが、大きく”インド料理”の文字。「やってけんのか?」 

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