「機械だからこそ、手づくりの味こだわりたかったんです」 そう言ってタオルで汗を拭い、浅い皺深い皺を重ねて笑う男性、内田謙三さん58歳。油汚れのしみこんだ作業着、小さな町工場、窓から夕焼け、工場の器具類を一時的にオレンジにカラーリングしている。
僕らはセカイを切り裂くコトバは透明なバタフライナイフ鞘がないから心嚢に突き刺してんだ普段はねセカイよ油断するな僕らはお前を殺せる準備は出来ている心に刺さったナイフを居合いの一撃で繰り出す準備がねお前が人を傷つけたり誰かを悲しませるようなこと
放課後の教室、怒号が飛び交う。窓際、喧嘩?あの小野さんと大野さんが?いつも一緒に登下校する仲良しコンビのはずなのに?「大野さんには、分かるはずない私の気持ちなんて」「落ち着いてよ小野さん、私、何か気に障るようなこと言った?」「態度よ。態度
今朝、預けておいた涙を取りに行ってきた、涙腺銀行に。「だいぶ貯められましたね」 窓口で言われた。3か月分、3か月我慢して貯めた涙だ。それなりの量になって当然。「全部、引き出します」「全部ですか?」 驚いた様子だ。「全部ですと、ご帰宅される
竜が銀の翼をゆっくりと伸ばす。翼の先端にある爪が天に刺さる。一息に翼を下す、風雲が起こり雷雨が地上に降り注ぐ。竜爪が天幕を裂いてセカイの素顔を暴露した――そんなシーンだ。竜は大儀そうに顎を開け、落ちてくる雷を飲み込む。じっと空を見上げ動か
「スージー、お庭にパンなんか撒いて、ネズミでも寄ってきたらどうするの?」「違うのママ、私、弟が欲しいの」「え?」「きっとこのパンを目当てにコウノトリさんがやって来るわ。弟を連れて」「まぁスージーったら、パンなんか撒いてもコウノトリさんは来な
ベッドの上で俺は、女を待っている。シャワーの音が止まり、雫の跳ねる音、間隔を広げて最後の一音、静寂、衣擦れ、部屋の入口にシルエット、バスローブを纏っている。手には銃、カチャリ撃鉄が鳴く。俺の銃は鞄の中。「お別れよ」 女が言った。俺は深くた
肉汁を宿したコトバはなにもハンバーグという単語だけではないそうだそうに違いないそれこそが世界の摂理重ねて言う「ハンバーグだけではないのだ」
壁のペンキ所々剥げ落ち、かつて体をくの字に曲げて微笑んでいたはずのアシカの絵、今は一つしかない眼で凄みを利かせ、蒼天を睨んでいる。閉鎖された水族館。 飼育員はとうに引き払い、漁師や他の水族館の職員、ボランティアといった面々によって、水族館
「ボク……ボク…………」「さぁ、思い出して」「ボク……ダメだ思い出せないよ。ボクは一体何者なんだ?」「……」「教えて。ボクは誰?」「自分で思い出すんだ。いいね?さぁ、もう一度やってみよう」「うん……ボク……ボク……」「そう、続けて、声高らか
子供貝「こないだ人間が『私は貝になりたい』って言ってたよ」 お母さん貝「へー、あ、そー。まぁ人間からしたら気楽に見えるんだろうねぇ、私たちの暮らしが」「結構大変なのにね。ブランクトンが少ないときはお腹ペコペコだし、ネコザメが近づいてきたら
ニーチェは言った「豆腐は死んだ」豆腐は6日かけて世界を創造し、7日目には休まれた。アインシュタイン曰く「豆腐は絶対にサイコロを振らない」「豆腐は細部に宿る」全知全能の豆腐勝利の女豆腐緒方監督「豆腐ってる」豆腐の審判豆腐はご自身の姿に似せて人
「銃は?」「携帯しています」「弾は」「弾倉に6発」「それだけ?」「はい」「足りるかな?」「十分かと」「だといいけど」 回転ドアを通り抜ける。受付のカウンターまで30歩といったところか。淡いブルーのベレー帽、同じく淡いブルーの制服、ぴっちりと身
キミに触れる キミの体温を知りたくって 棘にそっと指押し付ける キミは棘をびくりと立てる 悲しいほど身を縮こまらせて 僕の指は引かない 初速度のまま キミの肌を目指す 小さな穴があく ぽつり 血のしずくが穴の脇から隆起をつくる ぽつり ぽつり 指 それで
僕ら透明な櫂握りしめそらふねを漕いだ掛け声はいつしか歌になり僕らは産まれて初めて声を出して笑ったそらふね雲を乗り越え乱気流を切り裂き気がつくと宇宙ただただ地上から逃れたかっただけの僕ら辿り着いたのは生命を拒絶する世界僕らの笑顔は真空のなかで
むかーしむかし或る処に…… いや、昔と言ってもそれ程昔ではありません。いや、だからといってそりゃあ2ヶ月前とか3ヶ月前とか、そんな最近では当然ありません。だって日常会話で、「昔さー」って会話するとき、2カ月前のこと言う?言わないよね普通。じ
壁に掛けられた木札を順に目で追う。キツネ蕎麦、タヌキ蕎麦、大ザル蕎麦、アナタの蕎麦。 老夫婦二人きりの蕎麦屋、私はキツネ蕎麦を待っている。お婆さんが音も立てずにスーと寄ってくる。なんだかスターウォーズに出てくるロボットの動きに似ているな。
ワタシは黄色いプラスチックを口にくわえ あの人を想い 溜息を吐きました プラスチックの先端 空間が歪んで現れたのは 虹色の輪郭を与えられた溜息 波打ちながら大きくなって そっとワタシから離れてく ワタシの溜息よ どうか優しい上昇気流にヒッチハイクし
「ナニヲシテイマスカ?」「仕事だよ」「スマホデ遊ブノガ仕事?」「違う。サイトを管理してるんだ。しっかしインスタントラーメンのレビューサイトなんて、永遠に管理する価値があるものなのかな」「依頼サレタ『トラスト』ヲ永遠二存続サセルコトガワタシタ
「永遠……」 車椅子に乗った男が呟いた。車椅子の後ろに、少女が立っている。男の向かいには女。座っている。黒いレースの帽子、帽子の奥の小さな闇、女は表情を闇に紛れさせ、男が言葉を継ぐのを待つ。長い沈黙に耐えかね女、軽く尻を上げ座り直す。車椅子
今私の願い事が叶うならば白い翼をもいでくださいこの背中にある鳥のような白い翼引き裂いてくださいアナタの空へ堕ちてゆきたいよ仮死の悲しみ 偽りの自由鉛色の日々を日に煌めくたくさんの白い羽に変え堕天使を何匹も追い抜きながらアナタの空をきっと生ま
或る処に、二人の涙が居ました。涙の一人が言いました。「僕はドウシテ生まれたんだろう?」 「え?」「生まれた理由さ、知りたくはないかい?」「私たちが生まれた理由なんて、どうせ……」 透明な身体を捩らせ、溜息のイントネーションで「ありふれた悲