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2022年07月15日22:00

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2分小説『しゅうかつせい』

(嘘だろ……)
 面接にて私は戸惑う。
(こんなこと……あってはならない)
 これは運命なのだろうか?だとしたら、あまりにも無価値な運命だ。幸いにして面接官は私一人、軽く咳払いして呼吸整え、なるべく優しい口調を選び話しかける。

「面接を始めるわけにはいかない」
 彼は茫然と私を見つめ動こうとしない。
「聞こえただろ?退室したまえ」
「ちょ、ちょっと待ってください!どういうことですか?
「聞こえただろ?面接は無しだ」
「どうしてですか?理由を聞かせてください」
「言いたくない」
「そんなっ!あんまりじゃないですか?数百人の応募者の中から、二次試験を通過して、面接に選ばれたのはたったの3人だと聞いています。ここまで来て落ち――いや、面接で落とされるのならまだ得がいきますが、面接すらして頂けないのでは納得がいきません」
「納得いかないか?」
「はい、理由を教えてください」
「教えたくない」
「どうしてですか?分かりました。私が帰化人だからですか?」
「違う。わが社はグローバルな企業だ。実際私も帰化人だ。同郷だよ君とは」
「じゃあ何です?まさか、産業スパイだと疑っているんですか?」
「違う。」
「じゃあ、名前ですか?私の名前が理由ですか?」
「半分は、それが理由だ」
「私の名前、私の名前が周克正だからですか?確かに就活生の名前が周克正だったら一瞬笑っちゃうというか、、ある種の可笑しみを禁じ得ないその――ユニークな現象だとは思いますが、当然この名前はふざけて偽名を名乗ってるわけではなく本名です。名前は、私の能力とは何の関係もありません!違いますか?」
「分かっている。君はとても優秀だ。わが社にとっても非常に有益な人材だと思う。しかし……」
「しかし?」
「帰ってくれ」
「不是!どうしてですか?同郷なんでしょう?そのよしみでせめて面接を受けられない理由だけでも教えてください。じゃないと国の父母に話ができません」
「なるほど、確かにな。じゃあ話そう。だが、理由を聞いて驚かないでくれよ」
「ええ、驚きませんよ。『面接をしない』といきなり言われる以上に驚くことなんてありませんから」
「そうかな?」
「……」
「では、話そう。君の名は周克正、就活生の周克正君だ。そして私の名は免摂幹、面接官の免摂幹だ」
「そ、そんなまさか」
「ああ、あり得ない偶然だろ?」
「……ええ」
「じゃあ、帰ってくれ」
「ちょっと待ってください!それが理由ですか?」
「そうだ」
「お互いの名前が、就活生と面接官というそれぞれのポジションと同じ発音だから?それが理由?」
「そうだ?」
「納得できません」
「何?」
「だってそうでしょ?こんな些細なことで人生が決まってしまうなんて、それに冷静に考えてみてください。さっき貴方は運命という言葉を持ち出しましたが、ならばむしろこの出会いはもっといい方向へと向かうべきではないでしょうか?」
「違うんだよ。違うんだ周くん。運命にもいろいろある。今回のは良い運命でない。僕らは出会ってはいけなかったんだ。もしも君を採用したら私は社内でなんと言われるか――想像できるか?免摂幹は、周克正を採用した――きっと名前に運命を感じたからだ、と。それは、私にとって耐えがたい屈辱だ」
「理解できません。まったく理解できません」
「そうかい?ま、これは私の価値観と生き方に関わることだ。理解できないかもしれないな。ともかく不採用だ。帰ってくれ」
「……」
「どうした?泣いているのか?」
「……はい」
「何故?私の言い分を理不尽と感じるからか?」
「違います」
「じゃあ、何故?」
「……実は私は帰化するタイミングで改名したのです。父母が易者に高いお金を払って、今の名前を決めてくれました。それなのにこんなことになるなんて」
「そうか……それは気の毒だったな。で、改名前の君の名前は?」
「……夫蔡陽です」
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