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2018年07月02日23:39

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派生歌-世の中を何にたとえん(1)

「世の中を何に譬へむ朝開(びら)き漕ぎ去(い)にし船の跡なきごとし」(351) 
(世間乎何物尓将譬旦開榜去師船之跡無如) 

満誓沙弥の歌 『萬葉集』巻第三(新日本古典文学大系)より 

「【主な派生歌】 
・世の中を何にたとへん秋の田をほのかにてらす宵の稲妻(源順[後拾遺]) 
・世の中を何にたとへん風ふけばゆくへもしらぬ峯のしら雲(〃[続古今]) 
・にほ照るや凪ぎたる朝に見わたせば漕ぎゆく跡の波だにもなし(西行) 
・跡もなくこぎ行く船のみゆるかなすぎぬる事はこれにたとへん(慈円) 
・これも又なににたとへむ朝ぼらけ花ふく風のあとのしらなみ(鴨長明) 
・とほざかる人の心はうなばらの奥行くふねの跡のしら浪(藤原定家) 
・花さそふ比良の山風吹きにけりこぎゆく舟の跡みゆるまで(宮内卿[新古今])
・朝ぼらけ沖行く舟のほのぼのと霞にのこるあとのしら浪(正徹) 
・行く舟のあとの白浪かすむ日はこの世の中をなににたとへん(〃) 
・春のはて花の湊や尋ぬともむなしき舟の跡のしらなみ(心敬) 
・浪の上をこぎ行く舟の跡もなき人を見ぬめのうらぞ悲しき(賀茂真淵) 
・何事かおもひのこさん朝びらきこぎゆく舟の真帆のおひかぜ(加納諸平) 
・世の中は何にたとへむ弥彦にたゆたふ雲の風のまにまに(良寛)」 

http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/manzei.html 

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万葉集が後の歌人にとっての規範、精神的な拠り所となっていったことについては、もちろん知っていた。それゆえ、万葉集に載っている歌を模範として、多くの歌が作られたことを知らないわけではなかった。 
しかし、満誓沙弥の歌が、これほど多くの「派生歌」を生んでいたとは知らなかった。 
「世の中を何にたとへん」という満誓沙弥が提起したテーマは、時代を超えて、多くの歌人の心を捉えたということなのだろう。 

「万葉集」の中の「漕ぎ去にし船の跡なきごとし」というのは、やや直接的な表現だ。「拾遺和歌集」および公任の「新撰髄脳」のように「漕ぎ行く船のあとの白浪」という方が余情が残る。いずれにしても、これらは「すぐに消えてしまう儚(はかな)いもの」を表している。後年の人は、「世の中」や「儚いもの」について思うとき、満誓沙弥の歌を踏まえつつ、自分の感慨を記す。 
(もっとも、後年の人が、「万葉集」を読んだのか、それとも「拾遺和歌集」などを読んだのかは分からないが。) 

儚いもの。 
「秋の田をほのかにてらす宵の稲妻」 
「風ふけばゆくへもしらぬ峯のしら雲」 
「花ふく風のあとのしらなみ」 
「とほざかる人の心は」 

現代の我々は、「世の中を何にたとへむ」と問われたら、何と答えるだろうか。 

◆沙弥満誓(千人万首) 
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/manzei.html
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