a.世[の]中を何にたとへん朝ぼらけこぎ行[いく]舟の跡の白浪
b.かぞふればわが身に積る年月を送りむかふと何いそぐらん
c.散りぬればのちはあくたになる花と思ひしらずもまどふてふ哉
『公任歌論集』(古典文庫)所収「新撰髄脳」より
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古典文庫は、原文を忠実に翻刻することを主たる使命としていて、注などはほとんどついていない。注が無くとも本文(原文)を読むことができる読者を想定しているのだろう。この『公任歌論集』も同様で、公任が撰んだ歌が載っていても、その歌の出典や作者については記されていない。
こういう場合、調べる方法がいくつかある。
ひとつは、岩波書店から出ている「新日本古典文学大系」の『八代集総索引』などで検索してみる方法だ。そして、もうひとつは、ネットで検索する方法だ。
「新撰髄脳」で気に入った歌(a、b、c)を『八代集総索引』で調べてみると、いずれも出典が載っていた。
a.「拾遺和歌集」1327
b.「拾遺和歌集」261
c.「古今和歌集」435
「拾遺和歌集」は「新日本古典文学大系」の中にあるので、図書館で読むことができる。
aは、沙弥満誓(さみまんせい)の歌とのこと。ただし「拾遺和歌集」の注によれば、沙弥満誓(満誓沙弥)は万葉歌人であり、この歌も元は「萬葉集」巻第三の中の次の歌によるものだとのこと。
「世の中を何に譬へむ朝開(びら)き漕ぎ去(い)にし船の跡なきごとし」(351)
(世間乎何物尓将譬旦開榜去師船之跡無如)
「拾遺和歌集」および「新撰髄脳」では、冒頭のように少し改変されて掲載されている。
この歌は公任によっても高く評価されているが、それ以外の多くの歌人にも影響を与えたようだ。そのことについては、いずれ記してみたい。
bは、平兼盛(たいらのかねもり)の歌とのこと。
cは、僧正遍昭(そうじょうへんじょう)の歌とのこと。
これらの歌についても、いずれ考えてみたい。
◆公任歌論集
(1)新撰髄脳(2018年06月25日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1967197394&owner_id=2312860
◆『八代集総索引−新日本古典文学大系101』(岩波書店)
https://www.iwanami.co.jp/book/b259612.html
◆藤原公任「新撰髄脳」原文と朗読
https://mukei-r.net/waka-kintou/sinsen-zuinou.htm
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