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2014年06月16日00:25

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カラシニコフ不倫海峡(坂元裕二 朗読劇 二〇一四)

坂元裕二脚本・演出の朗読劇第二弾。
6月3日19:00〜 草月ホールにて鑑賞。
http://www.ntv.co.jp/event/stage/sakamoto2014.html

一回目の「不帰(かえらず)の初恋、海老名SA」に感銘を受けて、
今回も是非にと思っていた。坂元さんの作劇はやはり引き込まれる。
・朗読劇 「不帰(かえらず)の初恋、海老名SA」(DDD青山クロスシアター)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1873811600&owner_id=949383

昼の回が前作、夜の回が新作という二本立て。
三日間の公演中、男女ペアは日替わりというのは前回と同じ。
少し迷ったが、結局前回と同じく高橋一生×酒井若菜ペアによる新作を選んだ。
(6月4日 風間俊介×谷村美月/ 6月5日 満島真之介×倉科カナ)

舞台装置はモノトーンでごくシンプル。
背景は黒っぽく、床には白いゆったりとしたソファのような椅子二脚があるのみ。
現れた二人も上は白いシャツ、下は各々黒ズボンと黒スカート。
下手側に一生くん、上手側に若菜さん。
それぞれ手にした白い表紙の台本を持って、それを見ながら語ってゆく。

前作「不帰(かえらず)の初恋、海老名SA」では、
手紙による男女のやりとりだったが(後半はメール)、今回は最初からメール。
お互い顔を合わさないままの、どこかかみ合わないやりとり。
二人は交互に口を開き、しゃべっている側にのみスポットが当たる。
直接会話ではなく、文字を通してのやりとりだけに、同時にしゃべることはない。
だいたい順番に男、女、というふうに進むのだが、
一方から返事がない場合、口を開かない側はますます濃い闇に沈んで、
何があったんだろう、と観ているほうもどきどきしてしまう。

やりとりの中から、男性のほうは、
”妻が突然「地雷撤去のボランティアをする」と宣言してアフリカに行ったが、
彼女が現地で少年兵に撃たれた映像が公開され、
世間の注目を集めた悲劇の夫”であることが分かり、
突拍子もないメールを連続して送りつけて来た得体のしれない女性の方は、
”あなたの奥さんは生きてます。アフリカの地で私の夫と暮らしています。
私たちは捨てられたのです”という驚くべき事実を語り始める。

最初はとても信じられなかった男が、繰り返されるやりとりのうちに、
お互いの配偶者たちが長い間不倫をしていたという事実を受け止め、
捨てられた同志、お互いの間に情が生まれてゆくのは、
トリッキーな状況ながら、自然なこととして共感できる。
どちらかというと男性(マチダケンジ)の方が常識的な感じで、
女性(タナカフミコ)はちょっとエキセントリックな感じで始まるけれど、
いつのまにかその心情に寄り添っていた。
二人とも傷ついて孤独だったのだ。

お話はどこへ向かってゆくのかわからず、
ダークな世界の存在も感じられ、
状況的には非常にスリリングな展開なのだが、
二人のやりとりは、現代の東京に生きるものにとっては、
具体的な地名やネット検索のことなどがとてもリアルで、
思わずくすっと笑ってしまうことが多かった。

「渋谷円山町の喫茶ライオンでお会いしましょう」という女に、
「僕は渋谷には行きたくありません。うんざりします。
つい先日もライムをわざわざ東急に買いに行ったのになくて、
大変な思いをしました。東急線が地下に移動したせいです。
もし、お身内に東急関係者がいらしたら申し訳ないのですが、
あの東急線の設計をした人は、馬鹿です。
いままで5分で行けていたところまで15分もかかります。
ヒカリエは僕にとって光っていません。
僕にとってはカゲリエです。
渋谷以外でしたら、あなたのご自宅の近くでも何でも出向きますので、
そちらにしてください」
「私は小竹向原です。東急線との乗り入れで、とても便利になりました。
渋谷まで乗り換えなしの一本で行けます。
円山町の喫茶ライオンでお待ちしています」
(*言葉尻はちょっと違うと思うけれど、だいたいこんな会話)
このあたりは、客席もずいぶんあちこちで笑っていた。
まさに今の渋谷のリアルで、わかるわかる、というところだろう。

ネット検索にずいぶん通じているらしい女性が、
ライムがなぜ今、流通していないのかという説明のために
「○○と○○という語で検索してください」と指示のもおかしみがある。
世界の食物連鎖のことから、惨殺死体を見せられた男性が、
「何ですか、これは。気分が悪いです。眠れそうにありません」と返すと、
「それではYou Tubeで、ハリネズミ、お風呂、で検索してみてください」
「…検索しました。ハリネズミ、可愛かったです」のあたりも、
ネット世界の今を感じて、共感の笑いが起きていた。
こういうやりとりのおかしみは、坂元脚本の『最高の離婚』の、
かみ合わない会話のコミカルさにも通じるような。

二人はお互いの配偶者が逢っていたという
円山町のラブホテル「カテドラル」で落ちあい、
たびたびそこで会うするようになって、新密度を増してゆくのは、
磁石が引き合うような自然の流れ。
「さわって、さわってもらって、します」
「さわって、さわってもらって、します」
けれど最後の一線はあえて超えない。
これもまた不倫ではあるのだけれど、二人のやりとりは瑞々しく、
むしろ初恋の男女のように微笑ましく可愛らしい。
その果ての急転直下の展開に、こころが持っていかれた。
強引ではあるものの、いつもながらの坂元マジック。
「世界のどこかで起きていることは、日本でも起こり得ること」
深い余韻が残った。

前作「不帰の初恋〜」では、夜行バスの事故、
今回は紛争地で撃たれる女性という、
現実に起きた事件を取り込んでいるのは、同時代性を感じさせる。
でも結局描かれているは、ナイーブでさみしい男女が惹かれあってゆくさまだ。
一生くんと若菜さんの、淡々とした口調が良かった。清潔感がある。
他の二組だとまた印象がだいぶ違うのだろうな。

個人的には、通勤で毎日のように通っている円山町、百軒店などの地名が、
とても身近でなんだか嬉しかった。
ドラマ『Mother』や『Woman』でも東京のいろんな場所が登場して、
あちこちロケ地をめぐったことを思い出す。
私はやはり東京という町に愛着があるんだなあ。

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