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2012年10月02日01:41

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朗読劇 「不帰(かえらず)の初恋、海老名SA」(DDD青山クロスシアター)

9月28日19:00〜公演。
http://www.gingeki.jp/other_theatre.html#kaerazu

朗読劇はもともと想像する余地が多くて好きなのだが、
これは何と言ってもあの『Mother』や『チェイス』の作者、
坂元裕二氏が脚本と演出を手掛けられるということで、
期待して足を運んだ。
受付には現在放映中のNHK土曜ドラマ
『負けて、勝つ』スタッフからのお花も。

三日間の公演で、男女二人の組み合わせは日替わり。
28日は高橋一生くんと酒井若菜さん。
会場はこの7月にオープンしたばかりというDDD青山クロスシアター。
http://www.ddd-hall.com/
持ち運び出来る椅子を並べたフラットな客席だったが、
幸いわりと前の方に座ることが出来て、演者の姿はよく見えた。
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
【あらすじ】(公式HPより)
初恋の人からのふいの手紙。
東京に向かう高速バスの車中で書かれた手紙。
彼女は東京で結婚し、相手はこのバスの運転手だと書いている。
しかしその手紙が僕の元に届く頃、僕はあるニュースを目にしていた。
東名高速道路高速バス横転事故。死者8名。運転手は逃走中。
生き残った彼女は婚約者の行方を捜しはじめた。
僕は彼女を救えるだろうか。
僕たちは再びあの海老名サービスエリアで交錯する。
幾つかの悲しみの川がより深い悲しみの海に流れ込む。
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

男女二人の、手紙(後半はメール)のやりとりで進む、
手紙文学のかたちをとった物語。
形式としてはちょっと宮本輝氏の『錦秋』などを思わせる。
交換ノートだとか、旅先から便りを送ったりする時の、
ゆるやかな交わりの感覚を久しぶりに思い出した。

同じクラスだった中学1年生の頃に始まった文通は、
彼女の転校によりいったん途切れ、
20代後半頃にふたたびやりとりが始まる。
ここからは主にメールとなるので、
リアルタイムの電話のような時もあるけれど、
二人の返事にタイムラグもあるので、どちらかというと手紙的。
回想の過去と現在を行き来しながら高まってゆく緊迫感。

先生やクラスメイトに無視され、
透明人間のようになっていた彼(タマノ)に、
力になりたいと手紙を書いた彼女(ミサキアキ)。
手紙のなかで、彼女自身、育児放棄され、
悲惨な幼年時代を送ってきたことが記される。
『Mother』の怜奈を思わせる胸痛むような過去。
最初は反発しながらも、やがで心を開いてゆく彼。
学校図書室にある分厚いホロコーストの本を借りたのが、
彼と彼女だけだったというくだりも心に染みる。
図書カードの名前を見るときめきと感傷。
『Love Letter』や『耳をすませば』を思い出す。

生は死と隣り合わせ。
川はずっと繋がっている。
断片的なイメージが、深く沈んで世界をかたちづくる。
現実に起きた夜行バスの悲惨な事故や、
逃走と追跡が妙にリアルで臨場感があり、手に汗握った。
東京の地名や店名も具体的で、
なにか現実のことを見ているような不思議な感覚。
ちょっと村上春樹の『海辺のカフカ』も連想した。

2人の座る椅子は長めのソファ。
下手側の青いソファに一生くん。上手側の紅いソファに若菜さん。
ぶっきらぼうなくらい淡々とした口調が、
思春期の子どもや、大人になっても生きることに不器用な二人に似つかわしい。
最後まで「タマノくん」「ミサキさん」の距離感の、いじらしい二人。
何よりも清潔感に好感が持てた。

中学校時代の頃の、教室の窓枠のようなシルエットや、
切り替わるピンスポットなど、照明の演出はさりげなくも細かく、
時に立ちあがったり、椅子の後ろに回ってソファの背に腰かけたり、
動きがあったのも印象的。
多少つじつまがあわなくても、物語のうねりに引き込まれる吸引力は、
まさに坂元ワールド。
ただ朗読というより、ドラマを見ているようで、深く心に刻まれた。

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