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2014年06月02日20:55

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女による歴史観−栄花物語(02)

「栄花物語」(岩波文庫)の巻第一「月の宴」を読み終わった。
この本、藤原道長を中心として摂関政治の栄華を描いたものだが、内容の主要部分は藤原一族を礼賛するものであり、「批評精神に乏しい」などと評されることがある。そのため、読書予定の一覧の中では後順位にあったが、友人の薦めもあって読んでみた。

歴史物語であるから、登場人物が多いのは厄介だ。しかし、過度な心理描写などは無く、出来事が中心に描かれているので読みやすい。
何よりも、ここに書かれているのは源氏物語のようなフィクションではなく、(多少の誤りや脚色を含むとはいえ)「ノンフィクション」=「史実」であるというところが、この本に独特の味わいを与えている。

「栄花物語」以前の歴史書は、いずれも「男」によって書かれたものと言われている。
しかし、「栄花物語」は赤染衛門という「女」によって書かれたというのが定説となっている。このことは、この時代(摂関政治期)に、女と政治の係わり合い方に、大きな変動があったことを想像させる。(このことは、いずれ考えてみたい。)

批評精神に欠けるとは言え、この物語は単なる事実の積み重ねを書くだけでなく、読者に対するエンターテイメントとなることを意識して書かれているような気もする。きっと、読者としては「男」だけでなく「女」も想定されているだろう。「性」のどちらの側から読んでも、楽しめるような叙述を心がけているようだ。当時の女たちの中に、「歴史から学ぶ」という意識があったのかも知れない。

小学館版「栄花物語」(新編日本古典全集)の月報の中で、中沢新一が、この時代の政治と女について次のように書いている。

「政治の表面で活躍するのは、あいかわらず男たちだ。しかし、歴史の深層を動かしているのは、けっして表面に現れてくることのない、娘や妹たちの存在なのだ。彼女たちの生殖力やエロスの力こそが、歴史の深層をつくるのである。」

当否についてはともかく、面白い見方だと思う。
この本を読むことによって「日本の女性」に関する不思議の一端が明らかになるかも知れない。

まだ、道長が出てくるところまで至っていないけれど、もう少し読み進めてみよう。

■栄花物語(01)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1927375498&owner_id=2312860

■「無名草子」の女性(大和撫子)論(1)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1927277155&owner_id=2312860

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