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2008年11月13日02:19

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「陽炎の辻2」第九回<決断>(11月1日)

演出:清水一彦

メインエピソードは、磐音の父・正睦からおこんへの、
磐音との夫婦約定の申し出。
それに続く、関前藩江戸家老・福坂利高一派の粛清も含め、
原作第十五巻『驟雨ノ町』第一章「暗殺の夜」をほぼそのまま。

冒頭、性懲りもなくおこんの見合い相手を三人も用意してはりきる金兵衛、
それを笑う今津屋吉右衛門や由蔵、怒り心頭のおこんや磐音の困惑が描かれるのは、
第十四巻『夏燕ノ道』第一章「卯月の風」。

粛清の顛末、正睦の船出を見送る場面は、第十五巻『驟雨ノ町』
第二章「暑念仏」一。

ああもうここまで来たか、との感慨しきりの回。
関前藩主・実高の磐音への思いの篤さと、磐音の不思議な立場の確認。
磐音とおこんの仲への、吉右衛門や由蔵のあたたかなフォロー。
思いもよらぬ磐音の父からの申し込みに、みるみるうるむおこんの瞳。
それに加えて、びっくり仰天の金兵衛の可愛らしさ。
この幸せの直後の、利高たちとの斬り合い。
すべてが一時にやってきたという印象。

色々と片付いて、目出度いほうへ向かっているとは見えるものの、
口に出さない分、気になるのは奈緒のこと。
今回ばかりは、おこんが彼女を気にかけている心情をあらわした、
最後のナレーションは必要だと思った。

<種々雑感>

・磐音のお着替え

関前藩下屋敷へ吉右衛門たちを案内するため、今津屋で着替える磐音。
ようやくちょっと違う姿が見られるかと思ったら、相変わらず羽織と袴は黒。
着物は紬かな。白茶の地にうっすら大き目の格子模様が入っている。
季節は夏だから、もうちょっと薄地でもと思うけれど、至ってお堅い。
正装なら白足袋が普通だけれど、こんな時でも足元まで黒。

羽織を持って後ろから着せかけるおこんの甲斐甲斐しさ。
すでに夫婦のようにも見える。
足元の乱れ箱、部屋の隅の衣桁など、なんだかなつかしい情景。

・うろたえ磐音

金兵衛さんの様子を聞かれて答えただけなのに、
おこんに見合いのことを問い詰められて、うかつなことも言えず、
「?」という顔して頭をかたむけてるのは、本当に愛らしい。
ここはなんだか磐音というより耕史くんしぐさのような気がします。
悪いことに、由蔵さんも吉右衛門さんも大笑いするものだから、
怒り心頭のおこんになすすべもなく、うろうろと手を動かしたりして、
こういうことになると、からっきしダメダメ。
はあっとため息つく姿が微笑ましい。

・おこんの身支度

磐音の着替えを手伝っていた時の、水色地の絣模様の着物に、
白地に細かい赤の格子柄が入った半幅帯も可愛いかったけれど、
正睦・磐音父子との屋形船での食事に臨む際のお着替えは、
さすがにちょっと気合の入ったものだった。
薄いピンク地に、細い黒の線のモダンな絣の紬。帯は唐草模様のような黒。
お太鼓の出来具合を確認したり、鏡に向かって髪の具合を眺めたり。
一生のうち、嫁入り前のこの時期だけの、初々しく高揚した顔に、
彼女のこれからを思ってどきどきしてしまった。

磐音の母・照埜からの贈り物は、原作では瑪瑙の帯留めだけれど、
ここでは紫の地にうつくしい花が咲きこぼれるような、綺麗な帯。
感激して何度も帯をなでさすり、正睦見送りの際に締めてくるのは健気。
ただ、この帯は紬ではなく、柔らかものの方がしっくりする気がする。
金紗とか綸子とまではいかなくとも、江戸小紋を着て欲しかったなあ。

・プロポーズ

「ご家老様。坂崎家のご嫡男には町娘にてもかまいませぬかな」
単刀直入な由蔵の台詞に、はっとしたり、
「おこんさんを磐音の嫁に貰いたい」と、正睦が金兵衛に言うのに
大きく目を見向いたり、相変わらず寡黙な磐音。
自らのことではなかなか動かない彼への、周りからの力強い後押し。
それによって、やっと約束されるおこんとの未来。

「それがし、どんなことがおころうとも
 おこんさんに誠心誠意尽くします」と頭を下げる磐音の台詞に、
「私が全力でお守りします」という、皇太子殿下のプロポーズの
お言葉を思い出してしまった。
感極まっておこんが泣きじゃくるのも無理はない。
身分制度は厳然としてあるし、上のひとから言ってもらわないと、
下からお願いできることじゃないんだもの。
「月とすっぽん、釣鐘と提灯、身分違いってやつでございますよ」と
あわてふためく金兵衛とおこんがいじらしい。

・似た者父子

普段は心中深く思いを秘め言葉少なく、言うべき時にはきちんと言う。
奢らず己の成すべきことを淡々と成してゆく誠実さ。
この父子の気質はやはりよく似ている。
にしても、無事嫁取り約束が成ったら、いとものどかに鰻に向かい、
「おお、これは美味い」(ぱくぱく)の父と、
にっこりして「はい」(ぱくぱく)の息子。
食べ始めたらいつも通りそれに没頭。
感涙で食事どころじゃないおこんたちの姿は、もはや念頭にない。
呑気というか、いかにもらしいというか。

・奈緒の存在

原作では正睦がおこんと金兵衛父娘に会うまえに、
「小林奈緒のこと、もはやそなたの心中にないな」と念を押し、
「ないと言えば嘘になりましょう。ですが、奈緒どのも私も
関前を出た時、別々の道を歩く宿命を負わされたのです」との
磐音の覚悟を踏まえたうえでの、おこんへの申し込みとなっている。
奈緒さんのことも大変気になる私としては、
彼女への言及が一言もないのは、いささかさみしい。

もちろん磐音が忘れているわけはないし、あの複雑な表情には
彼女のことや、父の深い思いやりに対する感謝、家名が絶たれることへの
申し訳なさなど、いろんな思いがこめられていると推測は出来るけれど。
「おこんは奈緒のことを思った。
 磐音の心に奈緒はどう映っているのか、おこんの不安はそこにあった」
という最後のナレーションは、時間的な制約を考えると
ぎりぎりの表現だったかもしれない。

・金兵衛さん絶好調

相変わらずの駄洒落連発は、毎回の楽しみ。
鼻歌まじりのご機嫌で「何かいいことでもあったのかい」と言われると、
「おおあり(=尾張)名古屋の金の鯱(しゃち)」
「鉄砲数打ちゃ大当たり!」
「言わぬが花の吉野山」と次々繰り出すのは、
調子の良いタンカバイを聞いてるかのよう。
嫁に欲しいと言われて泣きじゃくるおこんに向かって、
「泣きながら食べなさい」というのは絶妙。
これは小松政夫さんのアドリブなのかしら。

・尾口と利高

幸せな夜を過ごした帰り道での襲撃。ついに牙をむき出した利高たち。
「我が志のために邪魔なものは斬る。実高とても同じこと」
「やくたいもないことを。志とはお家の金子を私することではあるまい」
「政のためであった。それが分からぬ阿呆どもは残らず成敗してくれよう」
ここでの緊迫したやりとりは、原作を踏まえながらもふくらませてあって、
聞き応えがあった。

尾口と利高のキャラクターや関係性も、ドラマ独自のもの。
まじろぎもしない尾口の不気味な存在感と、「利高さま命」の純情は、
この役を忘れられないものにした。
本気になった磐音の剣に胴斬りされ倒れる尾口に、
「はっ」と目を見開く利高のリアクション。
自ら磐音に向かってきた利高も瞬時に斬られて、
どっ!とばかりに尾口に打ち重なって倒れるのにはしびれた。
尾口、良かったねー(違)。
でもわざわざもう一度俯瞰で重なる二人を見せていたのだから、
ここはかなり意図的。心中者のようにも見えた。
一緒に旅立てた尾口も本望だったことでしょう。成仏して下さいね。

利高は原作だともっとパターン化した悪役で、年もいっていたけれど、
演じたデビッド伊東さんの持ち味もあり、敵役ながら独特の魅力があった。
コントグループで出てきた方だけれど、なかなかの二枚目で素敵。
『新選組!』では土佐藩の武市半平太役でしたね。 
http://talent.yahoo.co.jp/talent/19/m97-0267.html

・粛清の夜

「磐音、この場で引導を渡すが良い」
「磐音、此度のことそなたに関わりなきこととは言わせん。
 半蔵と同道いたし、一統を捕縛いたせ」
父の命、藩主の命に「はっ!」と応える磐音。
今度ばかりは峰に返さず、刃をむける彼の脳裏に浮ぶのは、
藩騒動の犠牲となって命を落とした琴平、舞、慎之介の位牌と、友の顔。
なんと辛い、損な役回り。

尾口と利高を斬り捨て、他の者たちに「引かれい!」と一喝した時の顔は、
まるで阿修羅だった。普段は見せない鬼の顔。
人を斬ることは辛いこと。鬼にならねば出来ない修羅道。
確かに磐音でなければ出来ないことだけれど、
藩騒動の犠牲者である彼に、その重責を負わせるのはむごいなあと思う。

粛清の夜の雷鳴、激しい雨に打たれて揺れる白百合の花が
ドラマティックで、とても印象的だった。

・正睦出立

実高の裁きも終わり、おこんへの申し込みも済み、
まずは肩の荷を降ろして船出する場面は、おだやかでほっとする。
舞うかもめやとんびの声ものどか。きらきら照りかえす水面。
それは良いのだけれど、前回書き損なったので、ここでは言わせて欲しい。
CGの海は、安っぽい!
せっかく岩手県大船渡市まで行って海岸でロケしたというのに、
上にかぶせて合成したばかりに、まるで書割のようになってしまった。
多少の島影が見えてもいいじゃないですか。
空気感、臨場感が台無しです。
殆どは丁寧なつくりなのに、第二回の「姉妹」の時の鎌倉の海と言い、
このドラマにCGの海は鬼門らしい。

<ゲスト俳優>
・若狭屋利左衛門は森下哲夫さん。
http://www.iijimaroom.co.jp/profile/morishita_tetsuo.html
利左衛門のおだやかそうな人柄を感じさせて良かった。
NHK大河、朝ドラ、必殺シリーズなどの時代劇にも多数出演されてるベテラン。
所属事務所は渡辺いっけいさんと同じなので、今津屋若狭屋打ち揃った場面も、
気心しれてなごやかだったのでしょうか。

小比木平助は関貴昭さん。
http://talent.yahoo.co.jp/talent/14/m98-0263.html
利高側近として、いつも側にひかえていたけれど、
ぎょろりとした目付きの面構えがひとくせありそうで、印象的でした。
劇団円の所属の方で、舞台も数多く踏まれているとのこと。
時代劇への出演も多いようですね。
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