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2007年12月17日02:10

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幕末ニッポン(たばこと塩の博物館)

吹く風も冷たくなって、年の瀬を感じる一日。
先月から末から始まって、気にしていた展示をようやく見ることが出来た。
「幕末ニッポン〜 ハリスと黄昏(たそがれ)の大君(たいくん)の都」
2007年11月23日(金・祝)〜2008年1月14日(月・祝)
於:たばこと塩の博物館
http://www.jti.co.jp/Culture/museum/tokubetu/eventnov07/index.html

題名通り、初代駐日総領事をつとめたタウンゼンド・ハリスに関する資料や、
幕末の世相を描いた浮世絵や幕末の状況を写した古写真など、
多くの興味深い資料が並び、激動の時代だった幕末の世相―
急激に入ってきた異国文化への反発と好奇心、攘夷派と開国派の
激しいぶつかり合いなどがまざまざと迫ってくる。

12月の歌舞伎座で、横浜岩亀楼を舞台にした
『ふるあめりかに袖はぬらさじ』を見たばかりだし、
『新選組!!〜土方歳三最期の一日』が再放送され、
来年から始まる大河ドラマ『篤姫』を控えたこの時期、本当にタイムリー。

浮世絵や写真のみならず、衣服など、復元された実物があるのがありがたい。
たとえばハリスが安政4年(1857)10月に江戸へ出府する際、
従者に着用させたという白頭鷲の紋のついた半纏。
白頭鷲はアメリカのシンボルなのだと言う。
もはや擦り切れてぼろぼろ状態の実物も、参考のために陳列されていたけれど、
復元された黒紋付の半纏はなかなかすっきりと良い感じだった。

残された日記によれば、
ハリスは日本の役人や食事などに大変好感を持っていたようだが、
江戸に到着した際、十三代将軍・家定から送られた接待菓子も
復元展示されていて、目を奪われた。なんて立派で綺麗なこと!
それは檜の重箱に四段にびっしりと詰められていて、実に繊細でうつくしい。
淡い紅色の金平糖だの、赤と緑の鮮やかな筒型の飴細工だの、
上品な紅白の牛皮だの、茶巾絞り型の餅だの、
綺麗な紅色のカステラ巻きだの、切り口が木目模様の、たいへんモダンな羹だの。
「形、色合い、飾りつけなどが、すべて、ひじょうに綺れいであった。
その重量は70ポンドほどであった。私は、それらを合衆国に送ることが
できないことを、大いに残念に思う」とハリスは書いている。
この繊細きわまる職人芸を喜んでくれたのかと思うと嬉しい。

横浜の外国人居留地に暮らす異国人の風俗を描いた浮世絵は、
描き手の興味津々の視線が強く感じられて、とても面白い。
おや、「岩亀楼子供手踊之図」なる絵がある!
有名な横浜の妓楼の、遊興のさまを描いたもの。
舞台裏側から描いた踊りの舞台。
「子供」とはもちろん遊女のことだが、
後姿の傾城と大鉞を持った男が見えるのは、
『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』の、
傾城墨染実ハ小町桜の精と関兵衛実ハ大伴黒主と思われる。絵師は歌川芳員。
座敷には洋服姿の外国人たちが、ずらりと並んだ椅子に座って見物している。
先日舞台で岩亀楼を見たばかりだし、なんだか親しみを感じてしまった。

外国人が自由に歩き回ることができる遊歩範囲は、
開港場から10里四方だったとのことで、東は多摩川、西は酒匂川、
南は三浦半島中央、北は八王子や日野辺りまでとなっている。
日野までは行けたんだね、見物しに行ったりしたのだろうか、と
ついつい気になってしまう。
人気の観光スポットは、浅草、王子、愛宕山だったらしいけれど。

そういうあたりはほのぼのとした気持ちで眺められたのだが、
ヒュースケン暗殺事件や、東禅寺事件、生麦事件など、
外国人襲撃事件のあれこれは生々しく凄惨。
麻布中ノ橋で討たれたヒュースケンの遺体の写真などもあり、
彼の日本人妻つると、二人の間に生まれた赤ちゃんの写真まで
添えられているのが哀しい。
イギリス2士官が殺害された鎌倉事件では、その襲撃の共犯者の処刑の様子を、
外交官アーネスト・サトウが克明に記している。

「その男は、荒むしろの上にひざまずかされた。
地面には血を受ける穴が掘ってあった。
付き添いの者がこの男の着物を下へ引っぱって頸部を露出させ、
刀のねらいを充分よくするために、罪人の髪の毛をなであげた。
刑吏は、刀の柄に綿布を巻きつけて、刃を充分に研ぎ上げてから、
罪人の左に位置をしめた。それから、双手で刀を高くふりかぶって、
これを打ちおろすや、首は胴体から完全に切り離された。…(中略)…
付き添いの者が首のない死体を穴にかかえこんで、それをもみながら
なるたけ早く血を流し出そうとしているのは、身の毛のよだつ凄惨な光景だった」
(『一外交官の見た明治維新』より)

二度と見るものか、とサトウは書いているけれど、
この描写は非常に冷静で細かい。やはり観察眼が鋭いひとなのだなあ。
淡々と書かれているだけに、斬首という刑のむごさが迫ってくる。
近藤勇の刑のこと、そのあとのさらし首のことを連想して、胸が痛くなった。
浮世絵にも血の跡も生々しいさらし首の絵はあったが、
鎌倉事件の主犯者・清水清次の、非常にくっきりとしたさらし首写真まで
残されているのは、鳥肌立つ思いがする。

鳥羽伏見の戦い、大政奉還…
敗れてゆく幕府軍の軌跡がかなしい。敗残の兵の気持ちを思いながら
絵巻物を見てゆくと、涙腺がゆるんできた。

この博物館の企画はいつもセンスが良いし、見応えがある。
だいたい入館料が100円と言うのが嬉しい。何回でも気軽に行ける。
しかも入場券とともにカラー写真満載の資料パンフレットまで無料で
もらえるのが本当にありがたいし、期間中の講演会も別料金なしで参加できるのだ。
(先着80名限定だけれど)
日程表を見てみると、興味深いものばかり。
もっと早くに、よく調べておけば良かったけれど、
もうほとんど終ってしまって残念。

展示関連講演会)
11月23日(金・祝)「ハリスへの接待菓子復元」中山圭子(虎屋文庫)
11月24日(土)「江戸後期日本の洋学事情」川副義敦(武雄市図書館・歴史資料館学芸員)
11月25日(日)「幕末の海外情報と幕府」 岩下哲典(明海大学教授)
12月1日(土)「ハリスの出府道中について」 佐々木忠夫(下田市史編纂委員)
12月8日(土)「幕末の写真技法」 三井圭司(東京都写真美術館専門調査員)
12月9日(日)「徳川慶喜とフランス料理」齊藤洋一(松戸市戸定歴史館学芸員)
12月16日(日)「幕末尊王論者の夢」 前田勉(愛知教育大学教授)
※いずれも午後2時から1階視聴覚ホールにて開催

ただ、これはまだ間に合う!
特別映画上映
12月22日(土)・12月23日(日)・12月24日(月・祝)
『幕末太陽傳』(1957年・110分)
※各上映日の14:00から上映。先着80名。(整理券配布予定)

以前一度見たことのある、川島雄三監督の傑作。
http://homepage2.nifty.com/e-tedukuri/bakumatutaiyouden.htm
落語の「居残り佐平次」をもとにした、フランキー堺主演の
大変面白い作品で、品川の「土蔵相模」まで出てくるのだ。
幕末、勤皇の志士たちが密議を重ねた場所として有名だけれど、
もうとうに壊されて現在はファミリーマートがあるばかり。
往年の姿を見ることが出来る資料としても貴重。
なんとか時間を作って行きたいものだ。
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