堅気仕事の人間ばかりの金兵衛長屋に越してきて、
波風を立てる茶屋女・お兼の話がメインエピソード。
原作では第五巻第五章「両国春風一陣」と、
それに続く第六巻第一章「隅田川花火船」の部分。
このタイトルは、果敢ない運命だったお兼のイメージなのだろうか。
冒頭の、佐々木道場での磐音がとても好き。
次々と何人もの相手をして、渡り合ってゆく時の真摯な顔。
剣はやはり、彼の拠りどころなのですね。
そして愛弟子の太刀筋を見れば、心のうちの迷いも決意も
すべて見通してしまう玲圓先生が素敵。
そのあとの二人の会話など、まるで禅問答めいているけれど、
お互いはちゃんと分かり合っている。
「磐音、
（↑余談ながら、先生の呼びかけのアクセントに 意表を突かれた。
これが本来のものなのでしょう。印象的）何かあったか」
（少し伏目がちに、やや逡巡して）「…はい」
「もはや、何の迷いもないようじゃな」
（まっすぐに見返し、決意をこめて）「…はい！」
「己の信じた道を進むがよい」
（少し微笑み、かみしめるように）「はい…」
この、短い「はい」だけで、繊細な感情の動きをきちんとあらわす
山本耕史という役者の素晴らしさ！
以心伝心の師弟が麗しい。それにしても磐音の瞳の綺麗なこと。
今回も可愛い寝顔登場。これも恒例になったのでしょうか。
しかも母上の夢を見るなど子どものようで、いじらしくてたまらない。
母・照埜役は美人女優・香野百合子さんだけに、
磐音を見つめるアップも品がよくてうつくしい。
その前に柳次郎宅で、柳次郎の母・幾代にあたたかくもてなされ、
ちょっぴり里心がついたという感じかな。翌日も続けて行っているし、
幾代さんのことを「母上」と呼んでいるし。
ちょっとあれ？と思ってしまった。
全体を通して「母」がメインテーマになっていたように思う。
原作のお兼はもっとしたたかで、
不貞腐れたような図太さがあったけれど、
ドラマのほうはあきらかにお人よしで、結構呑気な感じ。
幸吉の亡くなった母親に似ているという設定や、
磐音に言われたからとはいえ、幸吉に言葉をかけてやったり、
幸吉やおそめにかりんとうを出してもてなすのは、
すべてドラマのオリジナル。
自分が亡くした二人の子どもを思い出して泣いたりするのも、
母性を強調したつくり。
原作ファンとしてはちょっと甘すぎて気恥ずかしい気はするものの、
うなぎを取る幸吉に笑顔で「全部お前が取ったのかい？」と
話しかける場面は、緑一色の川辺の風がこちらにまで吹くようで、
目に爽やかだった。
でも亡き女房に似てるというだけで、いやに親密に意見する磯次など、
少し不自然に思えるところが目に付いたのも確か。
つきまとわれる磐音の女難振りも、お兼にあまり嫌味がない分、
それほど深刻に思えなかった。
でもおきねちゃんは思い入れが強いから、
ほんとに涙ぐんでなじってましたね。
「なんであんな女と帰ってくるの？」も涙声。
「ばか！」と投げるように言って引っ込む時、
睫いっぱいにもりあがった涙がぱらりと落ちる。
彼女も恋する乙女そのもの。
そしてこういう時、磐音は為すすべもない。
戦わせたら天下無敵なのに。
「いつか坂崎さんと一緒に行きたいな」と花火見物を誘うおこんに、
「ええ、いつか」と答えるのは社交辞令だけれど、
おこんちゃんは色めき立つ。
「ほんと？嘘つきは泥棒の始まりですよ！」
彼女は言質をとったら必ず実行しますよ。分かってないな、磐音。
その場面に呼応する、今津屋夫妻のむつまじさ。
「来年は二人だけで見よう」「嘘ついたらいやですよ」
微笑ましいけれど、このあとの展開を知っていると切ない。
あ、お艶の壇れいさん、以前吉永小百合さんを連想しましたが、
この場面の表情を見ると、八千草薫さんのほうが似てるかも。
はっきり言って花火船は物足りなかった。
花火数発と、吉右衛門さん、由蔵さん、笹塚さまの喜ぶ顔だけでおしまい。
他のお客様の存在もまるで感じられないし、
騒ぎも何も起こらないので、よそごとで終ってしまったような。
まあ、船への襲撃を大車輪で打ち払う磐音の雄姿は、
第二話でもう見せているし、端折ってしまったのだろうけど、残念。
賑わう川辺、すれ違う船など、華やかな絵になるはずだけれど、
考えたら撮影は大掛かりで大変そうだ。
あっという間に、お土産をいただいて帰る磐音と柳次郎。
でも、お金や食べ物ならともかく、「ではそれがしの分も」と
浴衣まで一緒くたに柳次郎に渡してしまっちゃ駄目でしょう！
手縫いというのは、一目一目が愛なんです。
おこんちゃんが心こめて縫ってくれたのに、
そんな簡単に手放すなんて、あとで知れたら大変ですよ。
これまたこの御仁は分かってない。はがゆいこと。
通して見ると、お兼の設定をいじった分、
ところどころ破綻してる気がして、完成度はいまひとつかな。
もちろん細部は楽しんだのだけれど。
来週は緊迫した事件も起きるし、ようやく心を通わせた
中井半蔵とのつながりで、藩のほうにも進展があるだろうから、
立ち回りも含めて期待したい。
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