9月7日初日 19：00〜 東京グローブ座にて観劇
http://www.stagegate.jp/performance/2007/last5years/index.html
ああ、やっと本来のL5Yを見ることが出来た！
二年ぶり再演の耕史くんに関しては、何も心配していなかったけれど、
なんといっても井手麻理子さんがとても良かった。
これでこそキャシー。
ほぼ同じ演出、同じ振り、同じ歌詞でもこうも違うものか。
以前は珍妙にしか思えなかった、ほうきを使った振りですらOK。
深みのある声がパワフルに湧き上がる。
表情もはっきりとして、大人の女の深みが出た。
すごく当たり前のことだけれど、歌が上手いって素晴らしい。
加えて、とても人間的な、肉感的な、温かみのある存在感。
そのキャシーが悩み、怒り、力いっぱい嘆き、
憧れを歌い上げるのに圧倒される。
この、たった二人だけのステージでは、
お互いの力量のバランスが成否を分ける。
初演のキャシーはほんとに一杯一杯で、少しの余裕もなく、
まるで悲鳴を上げてるみたいだった。
ああ、大丈夫？ここの音、ちゃんと出る？と
はらはらしながら聴いていた。
客にこんなことを思わせるなんて、はっきり言ってプロじゃない。
だいいち、キャシーはジェイミーより少し年上の設定と思えるので、
細身で年下の、お嬢さんお嬢さんしてる前・キャシーは
矛盾だらけだった。
10曲目の「Audition Sequence」でオーディションに来ている
ライバルたちを「みんな若くて細い」と引け目に感じる
彼女自身が若くて細かったのだもの。
ジェイミーに置き去りにされるような不安感も、年上なればこそ
リアルなのに、どうにも説得力がなかったのだ。
今回のキャシーはそれらを全部払拭してくれる出来だった。
初めてキャシーに感情移入して、涙が出そうになった。
彼女にも夢がいっぱいあったのに…
田舎から出てきて成功を夢見てたのに。
専業主婦はイヤ！輝いていたい！
成功したあなたに寄り添うだけじゃイヤ！
その気持ち、意地、切なさが痛いほど分かる。
安心して歌を堪能できるって、なんて素敵なんだろう。
彼女の一曲ごとに、ああ！とか、おお！とか、感激し通し。
それだけ前回のトラウマが強かったということだけれど…。
井手さんの舞台に接するのは初めてだったけれど、とても素敵。
チャーミングで愛嬌がある。
笑顔がちょっと田畑智子さんに似てるかな。
さて、今度はジェイミーを褒めよう（笑）。
同じナンバーでも、歌は前回より格段に上手い！
彼は留まることなく進化している。
ことに英語の発音のキレの良さと言ったらない。
クリアに耳に入ってくる。
ヘドウィグ公演の歌を全部英語で通したことで、
ますます磨きがかかったのでは。
ジェイミーの二曲目「Moving Too Fast」の大胆な動きには、
ちょっとヘドを思い出したし、
憧れの作家からの電話に出た時の「ウィックフィールドさん？！」
と声が裏返るような動転の仕方には、ttBのジョナサンを連想した。
役者人生の転換点となった『RENT』作者の
ジョナサンを演じた『tick.tick…BOOM!』や、
自分のなかの全てを使い、魂を注ぎ込んだという
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』を経てきた今、
それら舞台の蓄積が、一段と厚みや深みを持たせている気がした。
今現在、耕史くんはあごが少し尖り気味に鋭くなって、とても綺麗だ。
前回と比較しての演出改良点。
お召し替えがあるのは良いなあ。こうでなくては。
５年間の時の流れを描くのに、最初から最後まで同じ衣装だった
前回にはいくらなんでも不満があった。
小道具ひとつでも使えば印象は変わるのに。
ことに時間軸を遡るキャシーが着たきり雀なのは
なんとしても苦しかった。
濃いワインレッドのドレスからベージュのドレスに
色合いを変えるキャシーは素敵。
その上に羽織るものも、ヴァリエーションがあって良い。
最後のキャシーはちゃんと若く見え、少女のように輝いて可愛かった。
それがまた切なくて。
ジェイミーも成功者となってからは、
グレー系のスーツに着替えて登場。
次第に落ち着きを見せ、翳りを帯びてゆく表情はもちろん素晴らしい。
一番の聞かせどころ「The Schumuel Song」で、
語り手であるジェイミー、物語の主役シュムール、
不思議な時計（の精？）の三者の声を
驚異的に切り替えて歌うのは彼の独壇場だけれど、
今回は帽子という小道具を使って、その三者の切り替えの違いを、
見せていたのが目に分かりやすかった。
ショーアップされたという感じ。
舞台は前より少し立体的で起伏があり、距離感を持たせている。
下手寄りは床、上手寄りは外の道に見えるような質感。
以前は下手奥に位置した奏者たちは、今回舞台上手下。
おなじみの前嶋さんの顔が見えるのが心強い。
彼らが客席右手のドアから登場して着席したら、舞台の始まり。
歌詞に英語オリジナル部分がちょっと増えたのも良かった。
ジェイミーの一曲目「Shiksa Goddess」の歌い出しが、
以前は「♪祟りがあるぜ」だったのを、今回はオリジナル通り
「♪I'm breaking my mother's heart」としている。
一瞬、全部英語で歌うのかな？とどきっとしたくらい、素敵だった。
二人のうつくしいデュエット曲「The Next 10 Minutes」でも、
「♪次の10分」としていたのが、「♪For the next ten minutes」
となっていた。せっかくの繊細なメロディーも、日本語をのせると
妙に間延びしてしまいがちなので、こうしたサビの部分だけでも
英語で聴けるのは気持ちよい。
ともかく、初日にしてこの完成度。
これからどんどん良くなってゆくに決まっている。
本当に大人の作品。若々しく、同時に大人なジェイミーとキャシー。
このあと、なか日あたりと、楽に観るのが本当に楽しみだ。
進化のほどを見届けたい。
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