mixiユーザー(id:949383)

2007年05月19日02:20

91 view

愛のイエントル

「うたい文句はこう、”バルカン半島に生き残った最後のユダヤ娘”
 口パクでバーブラ・ストライザンドの『愛のイエントル』なんかやってた」
   ―ドラッグクイーン時代のイツァークを語るヘドウィグの台詞

『愛のイエントル』(原題:Yentl)
1983年 米映画 130分
原作:Isaac Bashevis Singer (アイザック・バシェヴィス・シンガー)
製作・脚本・監督・主演・歌: Barbra Streisand(バーブラ・ストライザンド)

あらすじ)
------------------------------------------------------
20世紀初頭のポーランド、ヤネブの町。学問は男だけがするものとされていた時代、哲学者の父と二人暮しの娘・イエントルは好奇心に満ち、向学心にあふれる娘だった。
唯一の理解者だった父が病死したあと、彼女は髪を切り、男を装って遠い町の神学校へ入学する。良き学友を得て希望に満ちた毎日を送るが、次第に学友のアグビドゥに恋心を抱くようになる。
彼には美しい婚約者・ハダスが居たが、アグビドゥの弟の死因が自殺だったことが知れ、当時大変な罪悪だったそれを忌むハダスの父は婚約を破棄する。失意のアグビドゥを気遣うイエントル(男性名としてはアンシェルと名乗っている)は、ハダスの家に通い、二人の関係の修復を試みるが、皮肉なことにハダスや両親に好意を持たれ、新たな婿候補として期待される。アグビドゥに「君にならハダスを任せられる」と結婚を強く勧められ、彼をつなぎとめたい一心で結婚を承諾してしまう。
幸いにもハダスは疑いを知らず、ひたすら従順な女性で、当分は夫婦のいとなみをしないよういいくるめて日々を送るが、アグビドゥへの気持ちは日増しにつのり、ハダスが自分に寄せる愛情にもいたたまれなくなり、ついにアグビドゥに真実を告げることを決意。
最初は驚愕し、混乱し、イエントルのことを悪魔とまでののしったアグビドゥだったが、彼も彼女に惹かれている自分に気付く。しかしあくまで学び続けたい彼女に対し、彼はやはり女性に学問は必要ないとする旧い考えの持ち主だった。互いの道が分かれていることを理解したイエントルは彼をハダスのもとへやり、新天地・アメリカに旅立つ。
------------------------------------------------------
『愛のイエントル』と聞いたとき、あ、あの、バーブラ・ストライザンドが主演した男装の娘の話だな、とすぐ絵が浮かんだ。当時でももういい年になっていたはずのバーブラが、意外にも初々しく、ちゃんと娘に見え、少年に見えたことに驚き、感心した覚えがある。知的好奇心のある女性なら、イエントルに限りなく心を寄せて共感するだろう。最後まで志高く、迷いながらも自らの意思で突き進んでゆく彼女の素晴らしさ。傑作だと思う。

今回、レンタルビデオを借りてきて、ちゃんと見直してみると、
今更ながらこれもヘドウィグのアイコンにふさわしい作品。
おお、と思うところをいくつか。

・違う性を生きる
イエントルは髪を切り、男の服を身にまとい、男として生活し始める。
別の性としてやっていくには、まずかたちを変えること。
男は男として、女は女として、きちんと定められた格好をしていた時代には
外見はまず何よりも大事なものだっただろう。ことに髪型は。

・アダムとイヴ
神学校の学生なのだから、彼らの会話は聖書・経典の論議が主で、
活発な言葉の応酬がある。イエントル(アンシェル)いわく、
「ヘブライ語の”あばら骨”は”片側”の意味だ
 アダムは男と女の両性だった
 創世記5章、神は彼の”片側”から女をつくった
 男も女も人間は皆同じだ
 男女は一つ源からつくられたんだよ」

非常に意味深く聞こえる台詞。
それに対してアグビドゥはからかうようにこう返す。

「耳で女をつくると盗み聞く
 足で女をつくると遊び歩く
 心臓だと嫉妬する
 隠れたろっ骨で、女はハダスのように控えめに」

明らかに女を下に見ている意識。

「”ろっ骨”じゃない、”片側”だよ」
がんばれ、負けるな、イエントル!

・演じることの混乱
それにしても、女でありながら男として花嫁を迎えるなどという無謀!
下着をきちんとつけて、襟元までボタンをきっちりしめて、帽子をかぶって、
体をさらすことなく、全身をおおっていた時代だからこそごまかしもきいたのだろうけれど、婚礼の晩の前、仕立て屋たちに花婿衣装の仮縫いでふりまわされながら、不安にかられて歌う『Tommorow Night』。

 わたしを見て
 どうしてこんな羽目になったのか
 泥沼にはまって
 わたしは男なのか 女なのか
 …(中略)…
 男と女の芝居をやめて
 このまま姿を消してしまいたい
 …(中略)…
 汽車はもう止まらない
 後へは戻れない
 斜面を転がる雪の玉のように

なんだかところどころ『Angry Inch』を連想してしまう。

バーブラ・ストライザンドはユダヤ系アメリカ人で、政治的な主張も強い。
歌手としても女優としても才気あふれる活躍をしているが、
バーブラ好きの男はゲイである、という偏見も世間にはあるとか。
ケビン・クライン主演の映画『In & Out』では、主人公がゲイであることを疑われて、それを否定するためにバーブラ映画を必死でけなす、というまるでゲイの踏み絵のような扱われ方をしている場面があるらしい。

ヘドウィグの台詞としてはさらっと言っているだけの作品名と
役者名だけれど、そこをクリックすれば関連事項が次々出てくる。
本当にヘドウィグは隠しアイコンだらけの作品だと思う。

0 6

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2007年05月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

最近の日記

もっと見る