夏目漱石の原作をもとに、
一話ごとに違う監督が演出したオムニバス作品。
http://www.yume-juya.jp/
初日初回に池袋シネリーブルにて鑑賞。
オムニバスというのは苦手です。
だって映画は何をおいても監督で決まるのだから、
その世界観がてんでばらばらなものの寄せ集めとなるとなると、
合う人もいれば全然合わないひともいる。
合わないものも我慢して見なくてはならないのが困る。
過去にやはり10分ごとの話を集めた「10ミニッツ・オールダー」を観たときも、
うんざりして苦痛な時間が長く続いた。
http://cinema.wonderland.at.webry.info/200607/article_3.html
ましてや「夢」の話である。なんでもありで好き放題しがちな素材。
案の定、原作となんの関係もない話が続出。
許せるもの、許せないものにはっきり分かれてしまった。
大雑把な私的採点。十のうち半分は受入困難。
一夜→○ 二夜→○ 三夜→△ 四夜→○ 五夜→×
六夜→△ 七夜→○ 八夜→× 九夜→○ 十夜→×
漱石の原作はシンプルだけれど、細部はとてもリアルで、
夢の脈絡のなさがよく現れていると思う。
でも同時代の内田百�里呂發辰般�絡もない奇妙な話をたくさん書いていた。
＜第一夜＞は、その百�里痢屮汽薀機璽討糧廖廚鮖廚錣擦誅辰肪屬�換えられ、
漱石かと思ってみていた机に向かう作家は「百�寮萓検廚噺討咾�けられている。
バックに流れるのはサラサーテ演奏のツィゴイネルワイゼンだし、
どうしたって鈴木清順監督の名作「ツィゴイネルワイゼン」を連想させられる。
比べればだいぶ安っぽいけど。
http://www.minipara.com/movies2000-4th/zigeuner/
傾いたカメラ、逆光のシルエット、謎めいた雰囲気の実相寺色全開。
ああ、脚本の久世さんも実相寺さんも世を去ってしまったな。
全体の中の出来栄えは上の部だけれど、
原話のシンプルさが好きだっただけに
関係ない話になってしまったのが残念。
小泉今日子は好きなのだけど、あまり生かされてないような。
松尾スズキさんは明治の作家の格好が似合うな。
＜第二夜＞いじらずに原作そのままなのがとても清々しかった。
頭も終わりもない夢そのもの。これでいいんですよ。
モノクロームの無声映画スタイル。短刀の鞘の朱色だけが
うかびあがっていて効果的。何故だか「怪談」を思い出した。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=86862
うじきさんが普通のお侍らしくってはまっている。
和尚の梅之助さんもさすがの貫禄。
＜第三夜＞
負うた子が変化するこの話は、原作では大変こわくて印象的なのに、
つくりものの顔がチープで一気に興をそがれてしまった。
自分で本を読むのが一番良いなあと再認識。
作家漱石の実生活とからめたのは悪くなかったのだが。
堀部さんの漱石もまずまずだったし、奥さんの鏡子役の香椎由宇さんに感心。
着物が似合うし大人っぽい。とても十九に見えません。
＜第四夜＞
これも原作とはほとんど関係ない話になっていたけれど、
山本耕史ファンとしては、レトロな背広や山高帽を身に付けた彼が、
古風なバスに乗ったり、時のとまったような街を駆け抜けたりするのを
見ているだけでもわくわくして楽しめた。時の狭間の迷子。
それにしても若くてハンサムな漱石だこと。
口調としては特に時代がかって演じた感じはなく、
ごくふつうの、現代のしゃべり方だったと思う。
ノスタルジックな世界観は好みなのだが、
飛行機まで出さなくてもよかったのでは。
最後の海の場面、つげ義春の世界を思い出した。
過去映画化された「ねじ式」や「ゲンセンカン主人」も
このオムニバスに通じる匂いがするかと思う。
＜第五夜＞
これがもっとも肌に合わなくて拒絶反応！
原作にない現代の場面をもってくる演出というのは大嫌い。
市川実日子さんの顔は大好きだし、大倉孝二さんだって好きなのに。
どうして鶏の鳴くまでに馬に乗って駆けて来る女の話だけじゃ
いけないんだろう。交通事故も若夫婦の心の闇も余計です。
天邪鬼の造形も気持ち悪い。私はホラー調の映画がまったく駄目。
＜第六夜＞
うーん。安部サダヲさんは好きなのですが、
運慶のダンスパフォーマンスが好みじゃなくて、引いてしまいました。
群衆もワンパターンでつまらない。
評価が×じゃなくて△どまりなのは、ひとえにサダヲさんが可愛かったから。
彫れたのが仁王じゃなくて鮭をくわえた熊っていうのは彼らしいオチで可愛らしい。
＜第七夜＞
うつくしい。天野喜孝さんの造形と美意識がすみずみまで。
全編英語のナレーションもよくはまってた。
どこへ向かうかも分からない大きな客船に乗った若者の孤独。
ゆらゆらとした水のような動き。淡くはかなげな色彩の娘。
凝ったつくりのアニメーションを堪能するには
このくらいの時間がちょうど良いと思う。
＜第八夜＞
これまた駄目。これも原作とまったく関係ない話になっている。
何がしたいのかさっぱり分からない。あの未知の生物は何なのでしょう。
B級特撮もの的というか、ゲテモノ映画臭がぷんぷん。
まあ、考えたら「真夜中の野次さん喜多さん」にだって
そういう部分はあったけれど。
藤岡弘のように恰幅のよいひとがカイゼル髭はやしても
胃弱の漱石には見えません、断じて。
＜第九夜＞
これは良い！
これも原作とはちょっと違うけれど、何が良いかというと
主役の緒川たまきさんの風情です。顔です。
体に着物がしっくりなじんでいる。
幼い坊やを神社の柱につなぎ置いて、さっと素足になって
お百度を踏む若い母の情念。清冽な色気。なんとも好みだ。
全十話見終わって、私のなかには
闇に浮き上がるたまきさんの顔が一番残っている。
さすが「ゆれる」の西川美和監督。きわだった世界が確立されていた。
＜第十夜＞
これまた悪ふざけ満載の漫画的世界。
もっと本筋にそって奇妙に怖い感じにも作れたはずなのに。
まあ着流しにパナマ帽の松山ケンイチくんには独特の色気があって悪くないし、
本上まなみさんも好きなのですが他が嫌。
十人十色というように、やっぱりいろんな個性のものを一時に見るのは疲れる。
好きなものだけ見ていたいものだ。
結局一番肌に合ったのは西川美和さん。
西川さんはパンフレットでの対談で「夢十夜」でよく覚えていたのは
第一夜、第三夜、第十夜と語っていらしたが、私もやっぱりそうですね。
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