＜バス車窓からの路上監察＞
さて次はどこに行こうかな。
お餅の入った小豆粥のおかげでまだそんなにお腹は空かず、
進々堂で買った栗あんぱんなどかじりながら考えていたら、
205系統のバスが来たのでとりあえず乗る。
このバスは河原町通りから北大路、西大路から七条通りと
ぐるっと回って京都駅へ向かう。
今朝ほど参った下鴨神社のわきを再び通り、広い北大路へ。
この通りは初めて。
歩くのと違ってバス車窓からの眺めはあっという間に移り変わってしまうけれど、
それでもこんなところにこんなものが、という発見はある。
植物園はこのあたりにあったのか、と位置が飲み込めたり、
和菓子の抜き型のような意匠がある白い建物に目を奪われたり。
「復活幼稚園」という看板の名称にちょっと意表をつかれたが、
よく見ると教会付属の幼稚園で、教会の名が「復活教会」なのだった。
一番インパクトが強かったのは千本北大路交差点近くの、火の用心の看板。
「幸せを焼きほろぼさせない」というスローガンとともに、
三角巾とエプロンをつけた生真面目そうな若奥様（？）が、
唇を引き結び、片手のこぶしをあげて決意表明している。
ちょっと離れた背景に”幸せを焼きほろぼしてしまう”炎が描かれている。
言いたいことは分かるけれどなんとなく妙。
「焼き滅ぼす」ってすごい表現ですね。
最初は途中下車して北野天神にでも寄ろうかとも思っていたが、
どうせ梅もまだだろうし、ちょっと気を抜いて座ったまま街を眺めるのもよいか、
と気が変わり、１時間近くかけてゆらゆらと町並み見物しながら京都駅へ。
＜油小路〜西本願寺＞
のんびりしていたら短い冬の陽は早くも傾きだした。
気分を変えて駅前の中央郵便局わきから細い油小路へ向かう。
途中、塩小路通りの手前に明王院不動堂がある。
新選組の三番目の屯所が置かれた不動堂村の地名のもとになったお堂とか。
屯所は現在のリーガロイヤルホテル京都あたりにあったらしく、
ホテル前に近藤勇の歌碑が立っている。
塩小路通りと大きな堀川通りを行き来するのは、
いちいち歩道橋に登らねばならずちょっと大変。
油小路は本当に人が通るだけの道幅でひっそりと細い。
昔と同じ幅なのだろう。
伊東甲子太郎が粛清された本光寺前も、うっかり通り過ぎそうなほど目立たない。
でも間違いなくここで当時、惨劇が繰り広げられたのだ。
遺体が置かれたというのは、もう少し先の七条通りとの四辻。
道向かいのお肉屋さんは、なかなか味わいのあるレトロな二階建てなので
写真を撮った。
広い堀川通りを渡り、興正寺前から西本願寺の外壁をぐるっと回る。
新選組二番目の屯所だった古めかしい太鼓楼が見える。
石垣に沿って回ってゆくと大宮通り。道沿いに見える蔵が目立つ。
道を渡って向かいの平安中学校・高等学校との境の路地辺りが、
戊辰戦争終了後京都に戻り、西本願寺の警備などをしていた新選組古参の隊士・
島田魁が暮らしていたところらしい。
＜島原＞
いよいよ近づいてきた夕暮れの中、ノスタルジックな街並みが続く。
平安中・高校側から細い路地を折れ、島原商店街へ。
呉服屋さんだの自転車屋さんだのタバコ屋さんだの、
何十年か前の時代にタイムスリップしたような眺め。
私にとっては猫にかつぶし状態で、あちらにもこちらにも吸い寄せられる。
食堂も和菓子屋さんも皆古びて良く、お値段も安い。
とあるお店のウインドウに見える六方焼きが美味しそうで、
声をかけたのだがお店の人はいっかな現れない。
古めかしい土間にまで入って「ごめんくださーい」と呼ばわったのだが
お留守だったのだろうか。残念。
そのまままっすぐ行くと、時代がかった島原大門。
慶応三年に建てられたものとか。
門の手前には柳が立ち、消火用の桶も積まれて
いかにも花街への入り口にふさわしい風情。
ここをくぐって右手に入ると太夫をかかえる置屋・輪違屋。
もう少し行った左手に揚屋（料亭）だった角屋。
どちらも江戸時代からそのままの格子戸の細かさ、風格あるつくりが素晴らしい。
本物の持つ存在感。
一昨年５月にグループでこのあたりを巡った時は、
公開されている角屋内部にも入って、たっぷり見学させてもらったが、
街そのものが博物館のようにも思える。
＜誠の湯＞
大門近くのここは以前通った時も気になっていた。
その時は団体行動だったので後ろ髪を引かれながら通りすぎたものの、
銭湯好きとしては是非立ち寄りたかったので今回来ることは決めていた。
この名はもちろん新選組の隊旗から取られている。
http://homepage2.nifty.com/shoei/bath/index.htm
建物は三階建てで、一階は喫茶やマッサージ室、二階はお食事処、
三階が浴槽でサウナや露天風呂もあり。
湯だけなのかと思ったら、宿泊部屋もあるらしい。
入ってすぐの自動販売機で入浴券を買う。
タオル持参なら九百円、タオル（バスタオル＋フェイスタオル）を借りるなら千円。
フロント係は下足札を預かり、代わりに脱衣所のロッカーの鍵を渡してくれる。
エレベーターで三階に上り、渡された番号のロッカーに荷物を入れ、浴槽へ。
総ひのき造りの広い浴槽が気持ちよい。
小ぶりの「イベントの湯」というのは日替わりの薬湯。
本日はどくだみの湯。のんびりとあたたまり、疲れた足をほぐす。
サウナは脱衣所に出てもうひとつ階段をあがる。露天もこの階。
富士山の溶岩が入っているという浴槽で、熱い湯に浸かって極楽気分。
きちんとした昼食もとらずじまいだったので、
湯上りに二階レストラン「花車」で天丼を頼んだ。
窓際の席からもう暮れなずんだ外が見える。
京都で湯に入って古い街並みを見下ろしながら食事なんて贅沢だ。
向かい側にも銭湯らしき高い煙突が見える。
あとで確認したら「島原温泉」という名の銭湯。
脇に書いてあった旧名の「千鳥湯」というのも良い名前だなあと思う。
＜帰途＞
樹齢三百年という大銀杏のわきを通り、島原住吉神社に手を合わせる。
丹波口駅から山陰本線に乗って京都駅に戻り、18時35分発のひかり号で東京へ。
最後をこんなにゆっくりのんびりと過ごしながら、
今日中に東京に帰れるのがなんだかとても不思議。
昔なら何日も何日もかかって歩いた距離なのに。
肉体のあまりに早い移動に追いつきかねた心は、
まだ数日このあたりに遊んでいることだろう。
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