＜朝＞
マンション上階の友人宅からは遠く比良山脈までも見通せる。
琵琶湖の湖面がきらきらとして、本日もお天気は上々。
友人に一夜の宿と食事を感謝して出発。
南草津から京都までは普通で20分ちょうどだが、
ホームで話しかけてきた女の方と話をしていたらあっという間。
ちなみに私は旅先でもよく道を聞かれたりする。
いかにも旅行者という格好は避けて荷物は極力少なく、
出来るだけ街にとけこむよう心がけているせいだろうか。
「今、宝ケ池に鴛鴦(おしどり）の番いが何羽も来てて、
この間見に行ったんですよ」という話を聞いて、気持ちが動いた。
一人旅は心のままなのが自由で良い。
御所や二条城あたりに行ってみようかと思っていたのだが、
滅多にない機会だろうから郊外へ足を伸ばしてみよう。
＜下鴨神社＞
京都駅からまた一日乗車券で出町柳のほうへ。
二年ちょっと前の京都旅行では西陣近くに宿を取って
今出川通りを行き来し、この付近にも足を運んでいた。
鴨川べりもお散歩したし、叡山電鉄にも乗ったのだが、
肝心の下鴨神社にはお参りせずじまいだったので、この機会に。
http://www.shimogamo-jinja.or.jp/
賀茂川と高野川に両側をかこまれた下鴨はまるで島のようだ。
参道は静かな森をだいぶ歩く。日のひかりが明るい。
糺の森というこの森には細い川も流れていて、清浄な雰囲気が漂う。
大きな鳥居の内側も清々しい。境内にはいくつものお社がある。
ちいさな干支の社は一社にふたつずつの干支が祭られ、六社あった。
自分の干支である亥の社にお参りする。
奥まった御手洗社（井上社）の前のみたらしの池はお祭りの時のお祓いの場所。
この池に湧くあぶくをかたどったのが「みたらし団子」の始まりだとか。
本日1月15日は小正月。
鳥居近くのテントでは「除厄招福長寿」のご利益があるという
小豆粥がふるまわれていた。
300円お供えすると「よくお参りくださいました」と
笑顔で粥を椀によそってくださる。
お粥だけかと思ったら柔らかいお餅も入っていて美味しかった。
ふうふう吹きながら湯気のご馳走。温まる。
＜宝ケ池＞
出町柳駅から叡山電鉄で宝ケ池駅へ。
市バスに乗り継いで池まで行く。
京都国際会館という立派な建物わきを通り過ぎ、池まではさらにしばらく歩いた。
もっとひと気がない場所なのかなと思っていたけれど、
広い池の回りは整備され、犬の散歩、ウォーキングなど行きかう人は結構多い。
さて鴛鴦はどこに。池をめぐってゆくとカメラでねらっている人たちに出くわした。
あ、かたまっているあれかと思ったとたん、彼らはつい、と対岸に向かってしまった。
こちらは人間の悲しさ、突っ切ることなど出来ないので遅れをとってしまうが、
てくてく池沿いに歩いてやっと対岸でご対面。
水面からは少し距離があるところだが
日の光をあびてつやつやとした明るい茶いろや緑色の羽が輝く。
まるで作り物のように鮮やかな色。自然の中で見る野生の鳥はうつくしい。
十羽ほどはいるようだった。
鴛鴦といえば仲の良い夫婦にたとえられるほど番いでいるのが有名。
川本喜八郎氏の名作人形アニメ「火宅」の中では、
昔、小竹田男子（ささだおのこ）と血沼の大丈夫（ちぬのますらお）と言う
２人の男から同時に求愛された莵名日処女（うないおとめ）の
悲劇のエピソードのなかに、二人の男の競い合いで
生田川の鴛鴦を射るという場面があった。
風にざわめく葦の葉、柳の樹下で数珠を回しながら祈るように見守る処女、
二人の男の暗い情念に染まったような空などが鮮烈に描かれ、
鴛鴦の絆のイメージが強いだけに、その鳥をつらぬく矢は無惨だった。
それがあまりに印象的だったので、
以来鴛鴦というとそのざわざわした水辺を思い出してしまうのだが、
ここは実にのどかでのんびり。
鴛鴦たちは水辺に枝を広げた松の葉陰で仲むつまじかった。
＜京都御所・梨木神社＞
国際会館前から地下鉄烏丸線で丸太町へ。
御所はたいそう広く、水の神様・厳島神社、
火難避けの宗像神社など中にもたくさんの神社がある。
梅林と桃林はまだ花の気配もない。
健脚には自信があるけれど、
ひたすらまっすぐに玉砂利を踏んでゆくのはそう続かない。
禁門の変の際、長州の兵の撃った弾痕が今も残る蛤御門だけを見て、
建礼門の前を通りすぎ、早々に門の外へ。
すぐ近くの梨木神社には、京都三名水のひとつで唯一現存する井戸がある。
一昨年岩波ホールで見た「二人日和」という映画は、
栗塚旭さんと藤村志保さんが京都に暮らす老夫婦を演じた佳作だったが、
栗塚さん演ずる主人が毎朝ここに水を汲みに来て、
その水でコーヒーをたて二人でゆっくり飲むのが印象的だった。
http://www.futaribiyori.com/
せっかくだから汲んでいこう。
見ると平日の日中にもかかわらず、三人ほど水汲みの順番を待っていらっしゃる。
やはり有名なところなんだな。
大きなペットボトルに何本も詰めてゆかれる方も。
私は常に山用の軽い水筒を持参しているので、それに詰めた。
小さな器だけれど綺麗な水をいただけて嬉しい。
私の前にいた女性は、やはり毎日汲みに来ているそうだ。
「北海道から京都に越して来たんですけど、
京都の水は匂いがあって駄目だったんです。
ここの水は美味しいですよ。これでお茶をいれるとよく分かります」とか。
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