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2007年01月04日00:20

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麦の穂をゆらす風

http://eiga.com/movie/1550/
有楽町シネカノンにて鑑賞。本日は水曜日につき千円。
この三が日は映画三昧だなあ。
映画は出来うるかぎり映画館で見たいもの。

ケン・ローチ監督の作品はそう数多く見ているわけではない。
「ケス」(1969)「レディバード・レディバード」(1994)「カルラの歌」(1996)
の三本しかないけれど、
悲惨な暮らしや、どうしようもない闘争に巻き込まれてゆく弱者に寄り添いながら、
淡々とけれん味なしに描くその姿勢は一貫していてすごいと思う。
孤独な少年ビリーのただひとつの希望、ハヤブサとの交流を描いた
「ケス」だけでも私にとっては忘れがたい監督。

この新作は見る前から内容の厳しさは承知していたが、それでも見たかった。
イギリスからの独立戦争から内戦に至る1920年代のアイルランド闘争。
もともとアイルランドという国にはとても興味がある。
独特の神秘的なケルト文化。日本の八百万の神に通じるようなアニミズム。
映像の風景はたいそううつくしい。
水彩で描いたような緑の野の色。どっしりした石造りの家。
きちんと帽子をかぶり、沈んだ藍色の衣服を身に着けたひとたち。
この、落ち着いた美しい風景の中で繰り広げられる人間たちの悲劇。

冒頭、植民地アイルランドに対するイギリス軍の弾圧の激しさに胸が痛くなる。
民族の言葉を取り上げ、固有の文化活動を禁じ、自国の文化を押し付ける。
戦時中、朝鮮や台湾など、アジア諸国に対して日本がしてきたことも同じ。
その国の言葉、名前をとりあげるのは本当にひどいことだ。
それはその国の歴史、アイデンティティそのものなのだから。
そんな傲慢が許されてよいわけはない。断じて。

密告。拷問。幾多の無念の死。
ゲリラ闘争の果てに、ようやくイギリス軍が撤退するかと思いきや、
条約は大いに問題があり、アイルランドの完全な自由独立には至らなかった。
条約支持派と反対派に分かれ、
もとは仲間だったもの同志の悲惨な内戦に突入してゆく。
良かれと思ってやってきたことが変質していく瞬間の、
その分かれ道は誰にも見えない。
朝鮮半島の悲劇、今現在のイラクの混乱も、すべて重なって見える。

まるでドキュメンタリーのように淡々と、近々と迫ってくる描写に、
あっという間に引き込まれ、自分自身のことのように痛く、苦しく、
はらはらし、怒りを感じて一体となっていった。
最初、闘争に加わる気はなく、引き気味に見ていた理知的な若者が、
いやおうなく巻き込まれてゆく過程が手に取るように分かる。
彼の気持ちに同化し、最後は敵となってしまった兄・テディとのやりとりでは、
私も力いっぱいテディをにらみつけてしまった。

華奢ながら芯のつよい青年・デミアンを演じたキリアン・マーフィは素晴らしかった。
「プルートで朝食を」(予告編しか見ていないけれど)の女装青年を演じたひとと
同一人物とはとても思えない。役者さんはすごいな。
彼自身、舞台となったアイルランドのコーク地方出身で、
この役には思い入れがあったとか。
その地ではいまだに語り継がれ、決して過去の物語ではない歴史なのだ。

大事なひとを殺されてしまった女たちは悲痛に叫ぶ。
「二度と私の前に現れないで!」その言葉は繰り返される。
主題歌である「The wind that shakes the barley」が胸に突き刺さる。
忘れてはならない。考えなければならない。

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