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2006年11月12日11:36

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「tick, tick...BOOM!」(光が丘IMAホール)

山本耕史くん主演、ジョナサン・ラーソン作のロックミュージカル
「tick, tick...BOOM!」を光が丘IMAホールで見た(11日昼)。
東京公演の世田谷パブリックシアターでの初日ほかも見ているので、
もう感じはつかめているのだが、
会場が違うと見る方の気持ちもまた違ってくる。
練馬区だから一応都内ではあれど、ここからは地方公演。
確かに都心ではないので、客席の年齢層も若干高いし、
雰囲気はなんとなくゆるやか。
ダイエーの入っている総合ショッピングセンターの上だから、
行き着くまでは思い切り日常的な買い物風景で、
非日常世界への道筋にはちょっと…

この作品は「RENT」という出世作を生み出す前の
ジョナサンの自伝的な物語。
「RENT」は大成功したけれど、ジョンはそれを見る前に急死してしまった。
その5年前の、30歳になる直前のジョンの、
まだどうなるか分からない自分の、
未来に漠とした不安とあきらめきれない希望を抱いて
揺れ動く心が丹念に綴られてゆく。
叙情的なバラードはとても美しく、はじけた曲はかっこよくて楽しい。

前から3列目のやや上手寄りという良席だったので、
彼の表情がはっきり見える。
色白だから一見すずやかに見えるけれど、
スポットがあたると流れる汗はすごい。
シャイでナイーブな役だから、相手の言葉に反応して
さざなみのように波立ち、眉が上がったり、口元がほころんだり、
目が見開かれたりする綺麗な顔。
ジョナサンの気持ちが手に取るように分かる。
自分で作品を生み出すアーティストの、
希望と絶望が表裏一体となった苦しみ。
間近に見つめていると同化して喜んだり悲しんだりしてしまう。

他の共演者二人が初舞台ということで、初日前には
期待と不安が半ばしていたが、歌に関しては二人とも素晴らしく、
三人のハーモニーは気持ちよくてうっとりする。
でも台詞に関しては、やっぱりゲイリーさん演ずるマイケルの
日本語は聞き取りにくい。
初日よりはこちらが聞き慣れてきたとはいえ、
イントネーションが英語そのままだから、
一瞬日本語ではなく英語をしゃべってるように思えてしまう。
受ける耕史くんのほうが実に自然体で上手いから、
よけいにギャップが目立つのだ。

英語と日本語のちゃんぽんで、なんとなく雰囲気は出ているけれど、
いっそ彼は全部英語でもよかったのに、とすら思う。
だってこの作品は予想以上に台詞劇だから、言葉はとても大事。
ことにマイケルがジョンに「エイズなんだ」と自らの死病を
告白するところはひとつの要なのだから、きちんと聞きたい。
ニュアンスが伝わらなければ駄目。
こちらのほうでいつも緊張し、
集中して聞かねばならないのはいささか疲れる。
でも全体的な雰囲気としては好感度大。
見栄えもよく、ジョンと仲のよい親友らしく見える。
二人並んでるといかにも人種の坩堝のニューヨークという感じ。
大人で、紳士で、とってもいい人。
多分恋人のスーザン以上にジョンの心の支え。
「友達が死にかけてるんだ!」と取り乱すジョンの気持ちがよく分かる。

愛内里菜さんは可愛くてパワフルで芯のつよい感じ。
スーザンだけでなく、マイケルの会社のジュディーや、
舞台女優のカレッサなど思い切り弾けた演技で笑いを誘う。
劇中ミュージカルでカレッサが歌うソロナンバー
『Come to your senses』は、何度聴いても感動的。
彼女の歌の素晴らしさと共に、舞台上にたたずむジョナサンに、
あなたの音楽はなんて素晴らしいんでしょう、と讃えたくなる。
あなたは自らの命を削るようにしてこれらの音楽を残した。

スーザンという女性像は、しっかりとした自我があって好感が持てる。
「このままでは私たち駄目になるわ」と、決断し去ってゆくけれど、
それでもジョンを理解し、彼の背中を押して励ますことは忘れない。
冒頭の『30/90』ではこのままでいたい、大人になりたくない、という
30歳を目前にしたジョナサンのピーターパン願望が歌われるが、
「ピーターパン症候群」に対しては
「ウェンディズ・ジレンマ」という言葉がある。
いつまでも夢を追う少年につきあうウェンディは
「お母さん」としてお世話せざるを得なくなってしまうから。
私はそんなのいやよ、と去ってゆくスーザンはとても正しい。

それにしてもいつも思うことながら、
観客はそれぞれの立場、それぞれの環境や体験のうえに立って
舞台を見ているから、ある人には涙がとまらないような場面でも、
ある人にはあくびの対象になってしまう。
全体に暗く、ピンスポットが多いせいか、数回の観劇中、
近くでいびきが聞こえたこともあり気になった。
この作品は自伝的でそれほど派手な山場というものもないから、
登場人物に共感できるか出来ないかで可否がはっきり分かれてしまうかも。
今までにあった挫折や裏切りや身近な者の死などの有無で、
身にこたえるかどうか違ってくるのだろう。

観劇後、会場で出会ったKさんと、ジョナサン・ラーソンにちなんで(?)
一階のファミりーレストラン「jonathan's」でおしゃべり。
ただよってくるケチャップソースの香りとざわめきに、
「おお、ダイナーの感じだね」「日曜の午後はこんな感じ?」と臨場感にひたり、
二人してニューヨークチーズケーキなんぞ注文してその気になる。

ジョナサンが生活費のためウェイターをしていた
ダイナー(レストラン)の情景を歌った『Sunday』は好きな曲。
うつくしくてちょっとさみしげなメロディーだけど、
歌詞は、ダイナーで美味しくもないランチを食べて
コレステロールがたまって、ふくれあがるように太ってゆくお客たちへの
皮肉があって、ちょっとブラック。

やっぱり一度全部英語のオリジナルで聴いてみたいな。
日本語訳だと状況説明に忙しく、抜け落ちているものも多い。
青とシルバーのダイナーに、緑、紫、黄色、赤の椅子が置かれてる
色のイメージまで盛り込まれてないから。
『30/90』でも、出てくるのはピーターパンやティンカーベルだけじゃなく、
『オズの魔法使い』のエメラルドの都や、ドロシーのルビースリッパなど
ファンタジー作品のツールやオブジェがちりばめられてるというのに、
素通りしちゃって勿体無い。
児童文学ファンのKさんとはもっぱらそういう話をした。

手先が器用な彼女は、いつもドラマや舞台の小道具にインスパイアされて
実に精巧なそのミニチュア版を手作りする。
今回の舞台にちなんだ小道具もさっそくストラップに仕立て上げ、
私もおすそ分けに預かった。いつもありがとう。

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