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2021年09月30日15:21

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生涯編集者、その2

 編集者は同じであることを嫌う。もし、雑誌創刊という話になったときに、すでに前にある雑誌と同じものを作れば、それは売れないし、そもそも、 著作権などの問題にもされてしまう。ゆえに、同じ内容、たとえばそれがファッションでも、音楽でも、スポーツでも、あるいはエロ雑誌だったとしても、すでにあるものとは内容を変え、いかにも新しいもののように見せかけて作る。見せかけでいいのだ。見せかけでも違うものにしなければならないのだ。
 ゆえに、編集者は同じであることを嫌うようになるのである。しかし、あまりに特殊であることも嫌う。
 たとえば、音楽雑誌がある。ライブの情報や新譜の情報、アーティストのインタビューやグラビアがあって、誌面は賑やかだ。売れているらしい。そこに別の出版社から音楽雑誌創刊の依頼が入ったとする。そこで編集者は考える。すでにある音楽雑誌では先行している雑誌に敵わない。では、ライブに特化して、ライブ情報誌にするか、あるいは、インタビューのみの音楽雑誌にしてみるか、あえて、変化球でアーティストの趣味で雑誌を作ってみるか、いっそ暴投でアーティストのファンだけを誌面で扱う雑誌にしてみるか、と、いろいろ考えるのだ。しかし、それは先行している音楽雑誌があるからで、先行しているもののないところを掘ることを編集者はしない。それは芸術家の仕事だからだ。
 たとえば、靴の底雑誌に挑戦してみるとか、庭の池雑誌、ペットペンギン雑誌とか、月刊泥棒とか、週刊公園批評とか。そうした新しい雑誌には挑戦しないものなのだ。
 さて、そんなことはどうでもいいのだ。
 問題は、同じことをしない癖が編集者にはあるということなのだ。これは、意外と日常生活を厄介にする。
 居酒屋などでは、誰かが「とりあえずビール」と、言う。そうなると「同じで」と、それを反射的に嫌うので、言葉に詰まった上でカルピスサワーなどと飲みたくもないものを注文してしまうことがあるのだ。それが編集者なのだ。これに対する回避策は二つある。一つは、自分が最初に注文すること。もう一つは、同じビールに少し注文をつけてみるというものだ。たとえば「瓶はありますか」「大ジョッキはありますか」「生はありますか」同じビールでも、少し変えればそれでいいと思っているのが編集者なのだ。
 皆と同じ物を食べない、皆と同じところに行かない、皆と同じ歌は唄わない、皆と同じ服は着ない、しかし、特別に目立つこともしない。あくまで皆とほんの少しだけ違う、そこを求めているのが編集者なのだ。
 そういえば、筆者を音痴だと勘違いしている人がいる。一緒にカラオケなどに行った人にその傾向が強いように思う。誤解なのだ。筆者はただ、元の歌と同じであることを反射的に嫌い、音符もリズムも少しだけ変えているだけなのだ。編集者だから。
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