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2021年09月19日12:06

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ドラゴンとギャオス、その3

 ドラゴンが梨のなくなった皿を眺めながら、小さく呟いた。筆者はそれをなくなった梨に対する未練の言葉でも吐いたのかと思ったが、違っていた。
「お前、どうしてギャオスたちが地球に来たのか知ってるか」
「ああ、地球を守るためだろう」
「どうして、宇宙の彼方にいる生物が地球を守らなきゃならないんだよ。そんなことのために、遠くの星から、わざわざ来ないだろう。地球に来る生物たちには、ちゃんと自分たちの都合があるんだよ」
 このドラゴンの言葉に、すぐにギャオスが反論するかと思ったのだが、意外とギャオスは静かだった。
「宇宙の星には、それぞれに寿命があるんだよ。地球にだって寿命があるんだよ。もちろん、果てしない長さだけどな。しかし、いつか寿命が
来るなら、その時にはどうなるのかを知りたいだろうし、その時にどうすべきなのかを知っておきたいんだよ。だから、いろいろな星でそれを調査しているわけよ。どうして地球を他の宇宙生物から守るのかと言えば、それは調査のためだからだよ。調査の妨害になるだろう生物を排除しているだけなんだよ。そうだろう」
 今度はギャオスを見て、しかし、小声で呟いた。
「俺には、そこまでは分からない。俺の星は豊ではないから、調査という名目で口減らしさせられたのかもしれないし」
「口減らし、ああ、そういうことか。日本語には、まだ、少し慣れてないな。アイさんも、ときどき難しい言葉を使ってたな。慣用句というのかな。口減らし。まさか。お前、宇宙の彼方に人を送るのに、どれぐらいの負担があると思ってるんだよ。まあ、それはいいとして、ギャオス。お前って、可哀想なヤツだな。地球に来て、そんな卑屈に考えるヤツになっちゃったんだな。うんうん。可哀想だ。梨を買って来てくれるほどの、いいヤツなのに、可哀想だ。お前は、ちゃんと期待されて地球に送られたんだぞ。決まってるじゃないか。口減らしって言うなら殺しちゃったほうが早いんだからな」
 なるほど、と、思ったのは筆者だけで、それでもギャオスは、まだ、自分が捨てられたのかもしれないという疑念を抱いているようだった。ギャオスは寂しそうに、その両羽根に首を埋めてしまった。
「果物の王様ってさあ」
 羽根の中からギャオスの声が聞こえて来た。
「果物の王様って、ドリアンって言うんだぞ。俺は匂いが好きじゃないけどな。俺はココナッツのほうが好きなんだ。今度来るときには、どっちも買って来てやるからな」
 ドラゴンは、そっと、ギャオスに近づき、その羽根にその顔を擦りつけた。まるで猫である。そして、ドラゴンは「お前は、いいヤツだよ」と、言い続けた。筆者には感覚的なことしか分からないが、おそらく、地球に居る今の時点だけで考えるなら、ドラゴンはギャオスよりも、よほど金持ちのように思えた。そして、そのことをギャオスは知識として知っているはずなのだった。
 二人を見ると、ギャオスは羽根を拡げ、すっかり寛ぎ、ドラゴンは、その足下で首を畳み丸くなっていた。そして、ギャオスは、自分の知っている美味しい果物の話を、まるで子供に逸話を聞かせる母親のようにドラゴンに聞かせていた。
 ドラゴンは地球に入る前に、自分の縮尺を間違えて小さくし過ぎたと言っていたが、それはわざとだったのではないかと、筆者は疑った。ドラゴン、意外とあざといヤツなのかもしれない。
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