『死んでもいい』
死んでもいい、、って、ほんとに死んじゃったのかな、、タナトスという名の欲望、名美。プラットホームから改札口へと平野を追う浮遊するカメラアイ、そして名美との出会いでその眼はステアブル。ある種の衝撃。気付かぬフリか、思わせぶりな欲動は男を導く。しらけた時代の反抗と違い、男は90年代のリベラルなラベル。不動産にメタファーされるバブルに反抗する。温泉宿の妻を必死で探す社長のカメラアイ、浮遊する。バブルは翻弄される。木場港のふたりを追う浮遊するカメラアイ、この都市空間で取り残された男と女を捉える。浮遊だけではなく、水もドラマを与える。冒頭の雨、水道、温泉、モデルハウスに流れてくる雨、エモーションをねっとり、或いは衝撃として表している。ふたりが夜を過ごす宿の窓から見える川、その長回しのなかで、しっとりとした切なさはやがて殺意の芽生えへと生成する。蛾が光へとからみつくように、タナトスはそれを抑えることができないでいるのだ。車中、社長は名美を愛しているがゆえに受け入れる。そこにも奥景は川が流れ、悲しく光っている。万国がサスペンスの定番とするラブ・トライアングル、しかし石井隆は日本の情緒的な、主体性をもたないように見えながらもその欲動に正直な激しさを名美に捉える。バブルの時代、彼女は平和な日常に抗っている。
彼女は目を覚ます。彼岸と此岸の間に、或いはふたりの男の間を彷徨いながらも、安堵にいるかのようにそこにいる。名美はいつも一緒にいれる、と言う、涙のしずくが頬をつたう。
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