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2014年05月18日00:46

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『ロング・グッドバイ』最終回

「私(わたくし)はいったい何を失くしたのでしょうか。
時代と月日に押し流されるうちに」
(亜以子)

『ロング・グッドバイ』最終回。
最後まで馥郁とした薫り高い余韻を残し、素晴らしかった。
最終回タイトルが「早過ぎる」ってまさに!
もう少し浸っていたかったなあ。

詩的な映像は、まるで映画のよう。
逆光を巧みに使った見事さ。
南国台湾での、神話的ともいえるような少年少女の恋の回想場面は、
舞台設定や風俗から、トラン・アン・ユン監督の佳作
『青いパパイヤの香り』(1994年)を連想した。

告白の代わりに差し出される白い蘭の花。
受け取って髪に簪す少女の喜び。
少女時代の亜以子役・中村ゆりかも、
少年時代の誠一(保)役の征木玲弥も、
各々成人後の面差しに似通って、ちゃんと気持ちがつながって見えた。
それだけにあの顛末は切ない。
最後に再びインサートされる少女時代の亜以子の映像は、
カタカタと音たてて回る昔のフイルムめいて、
愛しさを込めて眺める恋人の視線を感じさせる。

悪女と思われた亜以子の心の底の純情。
初恋の思い出の蘭の押し花。
それを綺麗な缶に納めていたのが、いかにも少女趣味で泣かせる。
そのあたりは韓国映画『スキャンダル』(2003年)のラストも思い出したが、
思えばあの映画もフランス小説の翻案である傑作だった。

ラスト近く、語り部である森田記者の語りにもはっと胸を突かれた。
語りが流れる場面の映像が感覚を強く刺激するのだ。

「時代の底ではいつもいくつかが潰れている
上井戸亜以子であり、原田保であり、俺の親父だとも言える。

増沢磐二もまたやがて潰れるだろう
いや、つまり、増沢磐二のような男、という意味だが。

来る新たな時代に、こんな男はもう居ないのだろう。
さらば増沢磐二。
この国はゆくよ。
時代の底に幾千の哀しみを抱いて。
輝く未来へ」

籠の底で潰れて地面にしたたり落ちる卵の生々しさ
「東京オリンピック、開催決定!ばんざーい!」
と万歳する闇市の人々。

”原子力の平和利用” 
”平和と豊かな未来”
という原田平蔵のポスターの文字に痛烈な皮肉を感じていたら、
「この国はゆくよ。輝く未来へ」
の言葉に乗せて”TOKYO 2020”の巨大なオリンピックポスターが。

この作品は単にレトロを懐かしむのではなく、
そこから現代を照射しているのだった。
見事!
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