mixiユーザー(id:949383)

2014年05月01日23:52

63 view

映画『そこのみにて光輝く』

4月30日、テアトル新宿にて鑑賞。
http://hikarikagayaku.jp/

佐藤泰志の作品を知ったのは、
2010年に映画化された『海炭詩叙景』がきっかけ。
・映画『海炭詩叙景』
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1668385241&owner_id=949383
静かに深く心を揺さぶられる作品で、
そののち「佐藤泰志作品集」(クレイン)も全部読み、
この若くして命を絶った函館生まれの作家は、私の中で特別な存在となった。
どうしようもない苦しみや悲しみをかかえながら、
それを心にたたんで生きてゆく人々の姿。
やるせなく、身につまされるようなことばかりだけれど、
ぎりぎりに追い詰められた人間の切実感があふれていて心に染み入るのだ。

唯一の長編『そこのみにて光輝く』が綾野剛主演で映画化されると知った時から、
それは絶対良いものになるだろうと確信し、公開を待ちわびていた。
そしてこの映画はやはり期待を裏切らない、屹立した作品となっていた。
小説の持つ雰囲気と、出来事の痛ましい感じは覚えているのだが、
読んでから3年もたって細部は良い具合に忘れているから、新鮮に観た。

仕事をやめ、無為な時をパチンコでうめている達夫が、
パチンコ店で妙になつっこい若者・拓児と知り合い、
誘われるままに海辺にある彼の家に赴き、彼の姉の千夏と出会う冒頭から、
少しも無理なく、本当にそこで彼らが暮し、生きているようで、
すんなりと作品世界にひきこまれた。
世の中すべてから見捨てられたようなバラック小屋の存在感も特筆もの。
脚本は小説よりも時代設定を現代に近づけていて、茶髪や携帯なども出てくるが、
今現在ではなく、いつの時とも知れないような感じもあった。
その昔観て来たような、昭和の映画の懐かしい匂いもする。

それにしても役者たちの本気度がすごい。
無精髭を生やし、泥酔してふらふら歩く綾野剛はかっこよさを封印して
無口で不器用で繊細な達夫を生きているし、
身を売って家族を養い、寝たきりの父の性の始末までしてやる千夏役の池脇千鶴は、
本当に大変だったろうけれど、潔いほどその身をさらけ出している。
どこにも嘘が感じられない、あるがままの彼らがそこにいる。

拓児役の菅田将暉はこれが初見だったが、その活力に心底驚いた。
しゃべりまくり、動きまくる拓児は、無軌道なようでまるで無邪気でスレていない。
尻尾を振りまくっている犬のような、野生の小動物のような愛らしさ。
口ではぽんぽん言いながら、彼がいかに家族を、姉を愛しているか痛いほど分かる。
それゆえに彼がおかしてしまう罪に、涙がこぼれた。

腐れ縁と嫌がられながらも千夏を愛人としている中島役の高橋和也も、
達夫を仕事に戻るよう促しに来る松本役の火野正平も、
実のある大人の深みを感じさせて秀逸。
愚かかもしれないが、決してさもしくはない、必死で生きる人々。
行き詰った悲惨な世界のようでありながら、どこか生命の尊厳を感じさせる。

スタッフも一丸となってこの作品に寄り添っていたということも、びんびん響いてくる。
あんなに肉薄したラブシーンや、ラストの朝陽の輝きは、本気でなければ絶対撮れない。
ほのぼのして好きだった『オカンの嫁入り』の呉美穂監督が、
こんな作品を見せてくれようとは。

個人的には、エンドロールの始まる一瞬前、
作品タイトルがもう一度出た時にああ!と衝撃を受けた。
この手書き文字は、まごうことなき佐藤泰志の自筆。
独特の金釘流の文字だけれど、作者の生きたあかしのようで、何ともいとおしい。
2 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2014年05月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

最近の日記

もっと見る