＜金村別雷神社への道のり＞
いよいよ次に向かうは、金村別雷（かなむらわけいかずち）神社。
しかしここにたどりつくまでは、いささか大変だった。
車はここまで小貝川を渡り、鬼怒川を越えてやって来た。
今度は引き返すようなかたちで鬼怒川のやや上流を渡り、小貝川の方へ。
目指す金村別雷神社は、小貝川の東岸に鎮座している。
じゃあ川のそちら側に沿ってまっすぐ行けば良いんだな、
と単純にイメージしていたのだが、そうは問屋がおろさない。
道が川にきれいに沿っているわけではないのだ。
実は何処で回り込み、どこから入って行くのか、よく分からない。
あまり大きな表示もなくて、かなり心細いありさま。
なるほど、Nさんが「迷ったらごめんなさい」と事前に言っていたのも納得。
「うちの車はカーナビじゃなくて紙ナビなのよね」と、
前途があやしくなると路肩に停めて道路地図と首っ引き。
連れていってもらう我等は「どうかお導きください」と神に祈るのみ。
ぐるっと引き返したりしながらも、小さな「金村別雷神社→」の看板を見つけ、
やったー！と狭い道を進んで行って、対岸に大きな鳥居が見えたまでは良いが、
なんと橋は通行止めになっていた！
これさえ渡ればすぐそこが鳥居なのに。明らかに神社参拝用の橋と見えるのに。
先ほどの表示看板は、この橋を渡る道筋を示していたと思われるが、
通行禁止では致し方ない。
せっかく川に近づいた道をもとにもどって、渡れるところをめざす。
ぐっと下流のほうまで下り、大きな橋から対岸に渡り、先ほどの鳥居の方角へ。
我等の軽自動車は田圃道のような細い路をくねりつつ、
ようよう神社の一の鳥居のわきに辿りついた。一同ほっと息を吐く。
ぐるっと大まわりの運転をしてくれたNさんに感謝！
＜福雷橋＞
あとで調べてみると、渡れなかった橋は福雷橋(ふくらいはし）と言う。
昭和3（1928）年4月の竣工だというから、すでに85年を経ている老橋。
昔はこの付近では小貝川を渡る唯一の橋だったとのこと。
この橋は常総市とつくば市を結んでいる。
6基の橋脚に支えられ、欄干は石造りで鄙びた風情。
Nさんによれば昭和のドラマの撮影などにもよく使われていたらしいが、
2011年の震災により、ゆがみが生じてしまったらしい。
茨城にもあの大震災の痛ましい爪跡は多く残っている。
なんとか修復されれば良いのだが。この趣ある景色が失われるのは惜しい。
ちなみに渡ってきたのは約1km下流の新福雷橋（しんふくらいはし）で、
昭和60（1985）年7月に新たにつくられたものとか。
＜消えてしまった『新選組！』ロケ地の橋＞
神社を目の前にして話がわきに逸れるけれど、橋つながりでもうひとつ。
小貝川をめざす車中でNさんから聞いた残念な話。
ここ茨城では大河ドラマ『新選組！』のロケ撮影も結構行われていて、
初期の多摩篇で、多摩の風景のいくつかはこのあたりで撮られている。
第8回「どうなる日本」で、お琴と見合いをした歳三が、
「夫婦になる気はない」と断りながらも、ついつい手を出してしまう河原の場面。
それに続く第9回「すべてはこの手紙」での逢い引きといざこざ、
つまり、一緒になってくれるものと信じて疑わない彼女に対し、
「俺と所帯持ってもいいことなんかひとつもねぇぞ」と振り切った後、
彼女の兄の手下たちに袋叩きにされる橋の上の場面は、
いずれも小貝川にかかる小さな橋のあたりで撮られている。
ここでの歳三の色っぽさと男っぽさといったらなかった。
逆らわず、されるがままに黙って殴られたあと、
お琴に向ける顔、視線の揺らぎは忘れ難い。
以前、撮影地が小貝川の橋だと聞いてから、
出来ればいつか行ってみたいと思っていたのだが、
Nさんによれば、この橋は洪水で流され、消えてしまったとのこと！
え〜っ！？そんなー…
組！ファン、土方ファンとしては愕然。もっと早く行っておけば良かった。
聖地のひとつがまた失われてしまったのか。
＜小貝川の沈下橋・水和橋＞
帰宅してから調べてみると、この橋は「水和橋」。
http://loca.ash.jp/show/2004/t2004_sinsengumi.htm
・新選組！ロケ地ガイド→主なロケ地003☆木製の橋
茨城県常総市水海道淵頭町：小貝川の水和橋
※橋脚が破損したため廃橋、とある。
利根川水系利根川の支流である小貝川は、くねくねと蛇行する狭隘な河川。
幾度となく洪水被害を繰り返す”暴れ川”として知られる。
そのため、この川には恒久的な橋だけではなく、
洪水の際には水に沈んでしまう「沈下橋」も存在する。
沈下橋は、橋の上に欄干がないか、あってもかなり低いものだったり、
増水時に取り外し可能な簡単なものしか付いていないのが特徴。
これは増水して水面下に没した際に、流木や土砂が橋桁に引っかかり、
橋が破壊されたり、川の水がせき止められ洪水になることを防ぐため。
つまりは逆らって傷を深めるより、流れに身を任せるという体の橋だ。
壊れても再建が簡単で費用が安いという利点もあり、
実際に流されることを前提としているものは「流れ橋」とも呼ばれる。
増水時に流木などが橋脚・橋桁を直撃して損害を与えることを防ぐために、
上流側に斜めに傾けた丸太・鉄骨などの流木避けが設置されているケースも。
水和橋はこの沈下橋のひとつだった。
確かに、第8回、第9回のその場面を見返してみると、
欄干のほとんどない、ごく簡素なすとんと見通しのよい木造の橋。
上流側に斜めに傾けた丸太の流木避けもあるし、まさしく沈下橋のつくり。
そういえば歳三がお琴の膝枕で横になっている河原にも、流木が見えている。
素朴な良い味わいの橋だけに、
かつては「いばらきフィルムコミッション」のロケ地リストに入っていて、
映画『真夜中の弥次さん喜多さん』（2005年）の撮影にも使われたとか。
しかし2006年6月の増水の際に橋桁が流されただけでなく、橋脚まで損害を受け、
国土交通省が橋脚の補修に難色を示したことから、廃橋とされたとのこと。
ああ、勿体ない。国土交通省のしみったれめ！
今は橋脚も何もあとかたもないそうだ。一度でも渡ってみたかったなあ。
ちなみにその少し上流の「小目沼橋」は同じく木造の流れ橋。
こちらは健在で、今もロケ撮影に使われることがあるそうだ。
水和橋よりは橋幅も広く、長さもあるようだけれど、
いつか渡ってみたいものだ。手遅れにならないうちに。
ご参考までに「防災・災害情報 下館河川事務所」サイトの、
鬼怒川と小貝川の水位観測地点の図をあげておく。
この二つの川が、いかにうねるように蛇行しているか分かると思う。
http://www.ktr.mlit.go.jp/shimodate/bousai/suii/03.htm
（次回「金村別雷神社」に続く）
*写真は左から順に
『新選組！』第9回の場面より
・歳三とお琴の逢い引き
・袋叩きにされた歳三を見つめるお琴
・ありし日の水和橋
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