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2012年08月26日22:43

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井上ひさし「せりふ」展(紀伊國屋画廊)

こまつ座の公演時にはいつもアンケートを書いているせいか、
お知らせのハガキが来たので拝見。
http://www.kinokuniya.co.jp/label/20120724112836.html

紀伊国屋書店4階、紀伊国屋ホール手前の画廊。
思ったより狭いスペースに入ると、
四方の壁にずらりと台詞の一部が入った額がかかっている。
よく賞状を飾るのに使うような、昔ながらのつましい感じの額。

額の大きさは一定なので、
切り取られた言葉が短いものは文字が大きく、
長目のものは小さめとなっている。
それらの台詞を発する声も聞こえてくるのにどきっとする。
部屋の一角から録音の音声が流れているのだ。
実際の上演舞台の録音らしく、
その場のBGMや観客の笑いなども混じって臨場感がある。

今聞こえているのはどの額のどの台詞なのか、
最初はきょろきょろ探してしてしまったが、
台詞はどれもごく短いので、二巡もすると場所もわかってきた。
その言葉をじっと見つめながら音声も聞くのは不思議な迫力。

井上ひさし氏の書いた芝居はとてもたくさんあるから、
もっと網羅的にいろんな作品がとりあげられているのかと思ったが、
わりに限定されていて、一作品からいくつかの台詞が出ていた。
去年今年と続けていくつかの舞台を観たから聞き覚えあるものもいくつか。

「人生はね、
 自分でつくるものでしょう。
 前へ進むんですよ、
 振り返らず。」

あ、高畑敦子さんの声。
2月に観た『雪やこんこん』だ。

「辛くても独立することです」
1月の『十一ぴきのネコ』。有起哉さんの声。

「おれはもっともっと
 やりてえことがあるんだ。
 この世の中を登れるところまで
 登ってみてえのさ」

記憶に新しい6月『薮原検校』の萬斎さんの声。
なんだかシェークスピアのマクベスを思わせるような発声。
どちらかというとテンションの高い台詞が多い中で、
すっと平明に聞こえてくる声にはっとする。

「あなたの「金への執着」も
 わたしの「学問への執着」も
 所詮は悪あがきかもしれません」

ああ、小日向さんの保己一の台詞。やはり良い。
この静かで明晰な声がどれほど染み入ることか。

「ひとはもともと、あらかじめその内側に、
 苦しみをそなえて 生まれ落ちるのです。」

段田さんの声!
観ていない作品だけど声はすぐ分かる。
これは『ロマンス』の台詞なのか、と
額のなかを覗き込む。

浅野和之さんの声、木場勝巳さんの声、
なんてぜいたくなんだろう。
画廊の真ん中に置かれた椅子に腰かけて、
聞こえてくる台詞と目に見える文字にひたっていると、
舞台のあれこれが立ち上ってきて、
ぐっと感情が動き、涙ぐんでしまった。

本当に生きているといろいろ苦しいことはあるけれど、
それでもこの場所で一所懸命やっていかなくちゃならない。
そんな気分にさせられる。

「だって生まれてくることは
 奇蹟なのだもの。
 その奇蹟がなにかまた
 新しい奇蹟をおこすかもしれなくてよ。」
(「きらめく星座」)

置いてあったパンフレットの説明によれば、
展示してある77個の額装「せりふ」は全て購入可能とか。
一点五千円也。
額のそばに赤いピンがあるのは注文のあったものらしい。

ちなみに一番ピンの数が多かったのは、
「絶望するには
 いい人が多すぎる。
 希望を持つには
 悪いやつが多すぎる」
という『組曲虐殺』の台詞だった。

「人の心と言葉、
 これはそうやすやすと
 変わりませんよ。」
という『黙阿弥オペラ』の台詞だとか、
注文のお好みはひとそれぞれ。

シンプルな展示ながら、お芝居の記憶がよみがえり、
舞台を何本か味わいつくしたような気分。
来てみて良かった。

大竹しのぶさんと藤原竜也くんツーショットの
『日の浦姫物語』(シアターコクーン、11月〜)ちらしがあったので、
いただいて帰った。これも観たいなあ。
井上ひさし作品の豊穣をつくづく感じた。
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