mixiユーザー(id:949383)

2012年08月26日01:01

28 view

ヘルタースケルター

8月1日、渋谷シネクイントにて鑑賞。
http://hs-movie.com/index.html

観る前は、もっとエグくて痛いかと覚悟していたのだけれど、
挑発的でめくるめく映像に幻惑されつつも、
意外なほど自然にするりとこの世界に入り込み、
主人公りりこに魅了された。
だって本当に完璧に綺麗だから。

全身整形の過去を隠してトップに登り詰めながら、
心身ともに崩壊してゆく彼女が痛ましく、愛おしい。
頂点にいる傲慢さを見せつけられながらも、
手術後遺症のハンディや不安と孤独をも垣間見ると、
こんな事態にたった一人で立ち向かう壮絶に圧倒されてしまう。

「キレイになれば強くなれる」
ほとんどすべての女性が持っているであろう美への信仰に、
身も心も捧げつくした彼女は、称えられるべき殉教者かもしれない。
それを貫き、一人でオトシマエをつけたと言える記者会見の彼女は、
潔くうつくしかった。聖者のイコンと化していた。

彼女にカメラのフラッシュを浴びせ続けるマスコミ、
狂信的なまでにもてはやしながら手のひらを返す大衆の
俗さ、愚かさが際立つ。
これも祭りなのか。
最高の獲物が屠(ほふ)られるのを見物する興奮。
『薮原検校』のラストを連想してしまった。
狂わないほうがおかしいような異様な世界。

とにもかくにもりりこを演じた沢尻エリカが素晴らしい。
彼女自身のスキャンダルとも二重写しになって圧巻。
清楚可憐で日本人形的な美貌と見事な肢体が、
相当愚かでイヤな女であるはずのりりこを魅力的に見せずにおかない。
繊細に揺れ動く表情は、内面のナイーブさを思わせて余りある。
このひとでなければりりこを好きになれなかっただろう。

周りを固めるキャストも綺麗で実力のあるひと揃いだけれど、
りりこに翻弄される付き人役が寺島しのぶなのにはやや違和感。
その恋人役の綾野剛も、ちょっと勿体ない使われ方のような。
メイク担当のおかまの錦ちゃん役の新井浩文は意外だったが良かった。
りりこにとって代わる後輩モデル役の水原希子は臆せず自然体でぴったり。

蜷川実花監督の画面作りは『さくらん』も面白かったし、
このくらい徹底して作りこんでくれれば文句のつけようがない。
虚構世界としてゆるぎなく素晴らしかった。

個人的に感動したの後半に流れた戸川順の『蛹化(むし)の女』。
ゆっくりと水中に沈むりりこ、水のなかでたゆとう布切れの映像に、
こんなにふさわしい曲もまたとない(メロディはパッヘルベルのカノン)。
やっぱりアルバム『玉姫様』は大傑作だったなと今更ながら痛感し、
帰宅してから十数年ぶりに聴き返したほど。
よくこの曲を知っていたなと思ったけれど、
その後演劇誌で蜷川幸夫氏の談話を読むと、
氏も舞台演出で使ったことがあるし、
家で繰り返し流していたので、実花さんもなじんでいたとか。

想念世界のなかで大森南朋演じる検事とりりこが向かいあう劇場も良い。
紅い布張りの椅子がずらりと並ぶ客席はパルコ劇場だと一目でわかった。
ひとの背に擦れて、どれもがハートのようなかたちに見えるのだ。
堺雅人さんもエッセイのなかでそう書いていたなあ。

渋谷の街、ことにスクランブル交差点や、
それを見下ろすTSUTAYAのビル2階のスターバックスの席が
何度も写されるのも臨場感があった。
私も通勤でいつもここを通っているし、
渋谷はミニシアターが多いから昔からなじみがある。
なんだかんだ言っても愛着があるこの街の映画館で、
この作品を観られたことが感慨深かった。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2012年08月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 

最近の日記

もっと見る