友人のおかげで神戸での大河トークショーに参加して来た。
すでに頼長の登場場面は撮り切っている耕史くんが、
頼長について直接語る、おそらくもう最後の機会。
遠くから駆けつけたファンも多く、会場は早くから熱気に包まれ、
その期待を裏切らない充実したトークが繰り広げられた。
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NHK公開セミナー
大河ドラマ「平清盛」スペシャルトークショー
日時：平成24年5月5日（土・祝）14：00〜15：30
出演：山本耕史（藤原頼長役）
磯智明チーフ・プロデューサー（「平清盛」制作統括）
司会：内藤雄介アナウンサー（NHK神戸放送局）
会場：西区センター大ホール（神戸市西区糀台5-6-1）
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（注）基本的に、頭からそのままの順番で書き起こしています。
キーワードについては簡単にメモを取りながら聞いていましたが、
手が追いつかず、ところどころは抜けがあることや、
言葉尻に関しては多少違っていることをご了承ください。
下手に司会者の椅子。
上手には花の飾られたテーブルとゲスト二人の椅子。
まずは司会の内藤雄介アナ登場。
首を鶏のようにカクカク動かしながら上手から下手に移動するのが可笑しく、
会場から笑いが起きる。（その後もこの方はいろいろ面白かった）
「この会場は480席なので当選枠240枚のところ、届いた応募はがきは1100通！
確率はなんと5倍。ここにいらっしゃる方々は強運です。
一番遠くの当選者は秋田でした」
と、熾烈な競争があったことを説明。
そしていよいよゲストを迎える前に、
大河テーマ曲に乗せて特別編集した頼長セレクト画像が
スクリーンに映し出された。
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*映像[特別編集・頼長ヴァージョン大河オープニング]
書物の埃を払っていたり、清盛を呼びつけて詰問していたり、
雨の廊下の信西とのやりとりや怒りの涙を湛えた目など
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頼長アップ画像のオンパレードで会場は大興奮！
…と思いきや、弓を引く清盛画像が定位置通りカットバックされるので、
思わず客席から笑いが。せっかくだから頼長だけで良かったのに。
白直衣の頼長トメ画像に「藤原頼長役山本耕史」の文字が大きく出たところで、
上手から磯智明チーフ・プロデューサーと共に登場。
白インナーにシルバーペンダント、茶色ジャケット、黒ジーンズ、
茶色のワークブーツ。黒髪。メガネはなしですっきり綺麗なお顔。
「こんにちはー。山本耕史です」と御挨拶。
内藤：
神戸とのご縁は？
耕史：
舞台の時に来ています。
大阪で舞台があった時も、足を伸ばして美味しいもの食べに来たり。
磯：
妻の実家が宝塚なのでこちらのほうには以前から縁があります。
清盛は福原遷都で本当に神戸と縁が深い。
内藤：
大河は『新選組！』以来ですね。
耕治：
『新選組！』は2004年ですが、撮影は2003年からやっていたので
ほぼ10年ぶりです。その間にもNHKドラマには出ているけれど、
大河としてはそうですね。
内藤：
最初に頼長役に決まった時どう思われましたか？
耕史：
頼長はクセのある人物で、エピソードも多い。
それをアプローチとして見せることが出来て得な役だなと。
大胆でまっすぐで自分本位で力強い役。
すごくイメージが湧きました。
内藤：
『陽炎の辻』でも武士を演じられて、
山本さんと言えば刀を振り回すイメージがありますが、今回は公家ですね。
ここから着物と麿メイクによる公家への変身のことについてひとくさり。
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対比のため、素顔の耕史くん(右）と烏帽子と直衣姿の頼長（左）写真が、
スクリーンに映し出された。
「あ、左のほうが素顔の僕ですね」
とわざと逆を言って笑いを取る耕史くん。
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耕史：
笑っちゃいますよね。さっきも客席笑ってましたが、
（註：客席が笑ったのは、頼長映像の中に突然清盛の姿が
挿入されることへの唐突感、違和感のせいだと思われる。
断じて頼長の麿メイクを笑ったわけではないと思う。
舞台袖に居た耕史くんにはそんなことまで分らなかったのだろうけど）
自分でも最初に見たとき笑いました。あ、こう見えるんだ、って。
僕のマネージャーも笑ってました。
自前の眉をつぶして上のほうに置き眉をして…
最初は口紅も塗ろうかという話だったけれど、
色々検討してそこはまあナチュラルになったんです。
でもおもてがインパクトがあるだけに、
内面というか心のうちが見えないようにするのに、逆に利用できるなと。
・頼長の存在感
内藤：
磯チーフは何故この役を山本さんにオファーされたのでしょうか。
磯：
頼長は清盛が越えなければならない壁で、
いわば敵キャラの一番強い役です。ハードルは大きいほうがいい。
山本さんは役をきちんと分析なさる頭の良い方なので、是非お願いしたかった。
なにしろ頼長はエリートの摂関家。
中国語にも堪能、ありとあらゆることが出来るスーパーエリート。
単純ではない役です。気品も必要。
あの『新選組！』の山本さんに出ていただけるかどうか、
どきどきしてました。僕自身ファンなので。
耕史：
うれしいですね。そんなふうに思っていただいて。
歴史には詳しくないので知らなかったんですが、やってから分った。
やってみたらすごく良い役で。
磯：良い役ですよ！
耕史：
調べたらやっぱり若くして亡くなるんですよね。
清盛にとって大きな壁となる、すごく良い役です。
ライバルは他にいるけれど頼長は次元の違う”敵”。
8話で初めて登場するんですけど、やたら「粛正」「粛正」と言うんです。
清盛は打ちのめされる。この人を超えて行かなくてはならないと。
力をこめて演じられる役ですね。
磯：
当時は武士なんて犬とか虫と同じ扱いで、見下してる時代。
それを表現するのはむつかしい。
でも山本さんは魅力的に演じて下さってるから、
見下すだけの内面を持っているのが感じられる。
型ではなく人間性があるので、敵役でも感情移入してしまうんです。
・メイクと衣装
耕史：
眉をつぶすのは、あれは蝋（ろう）なんですかね、
スティック状の肌色のものがあって、熱すると溶けるのでそれでつぶしてゆく。
最初は、剃ってもらえますかと言われて、僕は剃るつもりだったんですが、
考えたら他の役もやるしね。
あ、あれもあるな、これもあるな、ということで、ちょっと…
内藤：
人相の悪い役しか出来なくなりますね（笑）
耕史：
その上から白っぽいドーランを塗ってます。
実は武士とか浪人を演じる時は、影をたくさん入れるんです。
鼻筋に沿ってとか、目のまわりとか。
でも今回はめりはりつけず、つるんとしたまま。
で、置き眉をして、お歯黒して。
これも最初は溶かして塗ってたんですが、しゃべってるうちに取れてしまう。
歯が白いためにNGが出てしまって。
それで二回目からは黒いマウスピースをつけるようになりました。
付けると今度は滑舌が大変。
舌の当たる位置がわずか1ミリ手前に来ただけで発音しづらくなる。
特にサ行が抜けやすくて、「しゅくせい」は本当に言い辛かった。
ここまでのメイクで30分くらいかかります。
次に衣装。これもたくさん着込みます。
まずおなか、というかタオルを当てて、襦袢をつけて、
着流しのようなのを来て、オレンジ色のを羽織って、きれいに整えたあと、
さらに紫色のを上から着る。これで45分くらい。着込んでるので暑いです。
袖が長くて、垂らすと手より30cmくらい先にある。
当時の貴族は手を隠すようにするので。
だから撮影合間にご飯を食べる時は大変ですね。その時は脱ぎます。
烏帽子もね、つけると2m以上になるので、トイレに行くにも上にぶつかる。
磯：
頼長の衣装は有職故実に基づいて、左大臣はこの色、というように
カラーが決まっているんです。まあその中で多少個性をつけている。
頼長は貴族の美の基準です。
・所作
耕史：
手の出し方ひとつでもたいへん。
この時代はまだ今思う和の文化ではなくて、中国の文化が入ってますよね。
座り方もあぐらで、正座じゃないし。
磯：そうですね、過度期ですね。
耕史：
菊酒の中の花弁を取るところ、
脚本では”手で取る”と書いてあったんですが、
さわりたくもない菊の花なんだから、
直接手をつかわないほうが良いんじゃないかと思って、
ディスカッションして、扇子で寄せたり、押しのけたりしました。
内藤：
頼長は神経質だから、盃の位置も直しそうですね。
磯：
そういうところを細かく押さえてもらっています。
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*映像[第8回の頼長映像ダイジェスト]
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耕史：
「粛正」って言ってますね。この時はもうマウスピースです。
台詞が長いシーンでは10分くらいしゃべり続けてる。
それを四回くらい繰り返して撮っていますから大変で。
僕のマンションの管理人さんが、「やな奴だね〜」って言うんですよ。
このドラマ観てるみたいで。それまでわりと友好的だったのに。
内藤：
それだけインパクトが強くて印象に残るんですね。
・役づくりについて
耕史：
取材でも言ってるんですが、あまり人間的な振り幅を見せず、
ロボットのように別次元で演じたほうが面白いと思いました。
バックボーンがなく突っ走っている感じ。
普通は降り幅があったほうが役の深みが増すんですが、
この役に関しては二面性ではなく片方だけでいい。
人間ではなくキャラを演じる。
だから心が震えたりしない。何をされても動じない。
振り幅をとめて、それで演じきる。
清盛はとても人間らしく揺れ動く。対照的に人間では敵わないような敵。
何かね、”島のボス”のような。そういう役もやりましたけど（笑）
（註：言わずと知れた『彼岸島』雅役。やはり意識してたんですね）
頼長は保元の乱で命を落としますが、
そのあと彼がやりたかったことが初めて分る。
そこまで僕は絶対やさしく笑ったりしない。
磯：
保元の乱は第22回です。
キャラを演じてる、とおっしゃいましたが、本当に説得力があるから、
ああ頼長はこういう人なんだなあと納得します。
時代考証の人も、誰もが頼長はとても重要な人だと言ってるんです。
とにかくすべて分っている。
当時の貴族はこういうものだったんでしょうね。
この国の頂点に携わる人というのは。
そのツボを心得て演じて下さっています。
・松山ケンイチくん
内藤：休憩中に、松山ケンイチさんと将棋をなさったとか。
耕史：
はい。彼とは二度目なんですよね。
最初は『マチベン』の犯人の役で出会って。
僕は江角さんと一緒にやっている弁護士の役。
なんかのべっとでっかい男の子で、20歳くらいだったか、トガッた感じ。
普通はもっと「よろしくお願いしま〜す」という人が多いんですが、
自分を持っているというか「俺に触れたらケガするぜ」みたいな。
あ、この子こわいー、と。
二度目だね、って言ったら、「あ、覚えててくださったんですか。
昔、ドラゴンボールの絵描いてもらったんですよ」って。
僕はそんなことしかしてなかったのか、と。
内藤：
鳥山明と間違えてるんじゃないですか？（笑）
耕史：
彼は今26〜7歳ですよね。
僕が『新選組！』をやってた頃の年と同じなんです。
将棋はね、僕の趣味なので、國村さんにやりませんかって言ったら、
「僕は出来ない」って言われて、他の人も誰も出来ない。
松山くんだけ、「あ、やります」って。
それでこのシーン（第8回）の撮影中に、休憩しては指し、
また撮って、合間に指していたんです。
僕が詰みそうになりながら長引かせて、結局僕が勝ったら、
「あ、このシーンと一緒だ。ちまちま責められて、僕は何も出来なかった」
と言ってました。
またリベンジしたかったでしょうが、そのあと機会がなくて。
・対立
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*映像[頼長のさまざまな対決シーンの映像ダイジェスト]
重陽の節句の菊酒場面、鳥羽帝と得子を眺めながら「情けなきことよ」
義清詰問場面「それはおかしいのう」
「神輿に矢を射るなど言語道断。流罪とするが相当と存じまする」
雨の廊下で信西とのやりとり「なにゆえ我が意に逆らうことを申した」など。
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耕史：
いろんな人と対立しますが、頼長には理想があって、
良い国にしたいためにやっているんですよね。
今でもそうですが、世の中にはいろんな考え方があるから内乱になる。
行動もアクティブだから敵も増える。それを知っていてもぶれない。
突き進んでゆくのが凄さでもあるし、切ないところでもある。
そこを少し引けば、他の手段を取れば、
周りがついてきてくれたかもしれないのに、突き進んでしまう。
そこがカッコよさでもあるし、可哀想だとも思います。
ある意味不器用で、賛同してくれるように人を巻き込んでいけなかった。
亡くなっても、良いひとだったよね、とは決して言われない敵方。
でも国のためにやってたんですよ。
口だけじゃなく行動する人。信念のためなら迷いなくなんでもする。
まあね、大東くん演じる家盛を押し倒したりもしますが。
内藤：
ではその家盛との場面を観てみましょう。
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*映像[家盛の舞姿から始まる家盛関連場面ダイジェスト]
家盛一周忌の頃の忠盛とのやりとりまで（第14回〜第15回）
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耕史：
一連のシーンですが、中井さんとの場面は、
僕がインした日、最初に撮ってます。ファーストカットです。
中井さんのスケジュールの都合で、いきなり中盤の第15話の場面を。
だから、ことが起った後のシーンを、まだ起ってないのにやっていて、
今見るとまだ頼長をつかみきれていませんね。声の出し方だとか。
なにしろこれが初日ですり合わせながら手さぐりでやっていたので、
低い声でしゃべっている。ああこの時はこう思ってたんだなあ、と。
今はもっとゆっくり、トーンも二つくらい上でしゃべっています。
（そのトーンで）「家盛よ」
内藤：
うわ〜頼長だ！頼長がいる〜！（嬉しそう）
耕史：
まあ、これは亡くなって一年たった後で、時間の経過があるから、
少し大人になっているということで助かってます。
（磯さんに向かって確認）この時三十歳くらいですかね。
磯：そうです。
耕史：
第8話の登場の時は、十七歳です。時間の流れがありますね。
役は最初にイメージしたものをしぼって作っていきます。
でもとにかく僕の台詞は多いんですよ。
この初日からいっぱいしゃべらされて。
六行、六行、四行、八行、六行という感じ。
忠盛とのカットバックなんだけど、そちらは台詞がなくて、
”震えている忠盛”となっているだけで、僕ばっかりしゃべっている。
〜�△紡海�〜
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