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2012年03月10日13:54

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サド侯爵夫人(世田谷パブリックシアター)

3月6日18:00〜21:40 プレビュー公演観劇。
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2012/03/post_268.html

この三島由紀夫の傑作戯曲の上演は、今まで何回も観ている。
緻密に組み立てられた言葉だけで空中楼閣を築いてゆくような緊迫感が魅力。
昨年のシアターコクーンのオールメール公演は未見だが、
玉三郎さんがタイトルロールのルネを演じられた1983年の公演や、
サン・フォン夫人を生き生きと演じられた再演は印象的だったし、
2008年に篠井英介さんのルネ、加納幸和さんがモントルイユ夫人の
スズカツさん演出の舞台でも台詞に酔い、堪能した。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=975724472&owner_id=949383&org_id=974651845

その時の感想にも書いているけれど、女性役六人で演じられる戯曲ながら、
実のところすべて男性か、女形混じりの舞台ばかりを見て来たことになる。
三島自身が女形に演じてもらいたい希望をもっていたように、
普通に女優が演じたのでは物足りないようなイメージがあった。
さて今回私としてはお初のオール女優劇は如何?
そして萬斎さんの演出は?
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ルネ(サド侯爵夫人) 蒼井優
シミアーヌ男爵夫人 神野三鈴
アンヌ(ルネの妹) 美波
シャルロット(モントルイユ夫人家政婦) 町田マリー
サン・フォン伯爵夫人 麻実れい
モントルイユ夫人(ルネの母親) 白石加代子
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<キャスト>
私の好みから言えば、
サン・フォン夫人を演じた麻美れいさんが際立って素晴らしかった。
潔いほどきっぱりとした魅惑的な悪女。幕開きからぐんぐん引っ張る。
麻美さんの舞台にハズレはない。この役もぴったり。
神野三鈴さんのシミアーヌ夫人も好対照の好演。
可愛らしく、ちょっと滑稽味も感じられて良いバランス。

白石加代子さんのモントルイユ夫人は怪物的でこれもお似合い。
おそらく意図的なものだろうけれど、他と違う異物感がすごかった。
彼女の台詞だけまるで義太夫の語りのように聞える。
衣装も黒一色の着物っぽく、どこまでも和のイメージ。
ただ言葉尻がところどころあやうく、ちょっとはらはら。
三島の台詞は一か所でも詰まると総崩れになる恐ろしさがある。
実質初日のプレビュー公演だったせいもあるだろうが。

さて、主役である蒼井優さんのサド侯爵夫人ルネ。
声もよく通り、延々と連なる台詞もしっかり入っていて感心したが、
最初から最後まで少女のように見え、
美波さん演ずる妹のアンヌのほうが世間慣れした年上のように感じられた。
舞台女優としての彼女の活躍は、『オセロー』のデズデモーナ、
野田マップの『南へ』、亀治郎さんと共演した『その妹』などを観てきた。
舞台度胸は充分だし、堂々として不安感はないのだけれど、
役によってがらりと変わる、という鮮烈さではなく、
何故か一貫して不可思議な少女、という印象を受けてきた気がする。
どこまでも共通したイメージ。それがちょっと食い足りないような。

美波さんは翻訳劇によくはまる雰囲気なので、
これは翻訳劇ではないけれど西洋っぽい感じがお似合い。
でも可愛いけどしたたかというより、最初からしたたか感が勝っていたかも。
町田マリーさんの女中シャルロットについてはまずまずという印象。
戯曲では「年より」と言われている役なのに、
何故か若い役者にふられることが多いようだが、
最後を締める不可欠な役どころであることは間違いない。
一幕、二幕の幕あきにも重要な役割を担っていたが、これは演出の項にて。

<演出・美術>
舞台装置は能舞台のようにシンプル。
中央に丸舞台。そこに通じる左右の橋のような黒い通路。
通路以外の部分には砂がひかれているようだった。
砂上の丸盆で繰り広げられる象徴的な芝居。
全体に半円形の石積みの壁のように見える背景
(実際にはビニールのような素材?)が、まるで石牢の中のよう。

象徴的で簡素なだけに、照明で表情ががらっと変わって効果的。
冒頭、青い光のなか、
おそらくサド侯爵逮捕の知らせと思われる早馬の蹄の音が響いたり、
また折々に炎の赤が透けてみえたり、背後からスモークが流れてきたり。

舞台道具としては、武骨なまでに簡素な木製テーブルと椅子しかないが、
中央のシャンデリアが非常に意味ありげで目立った。
大小の車輪ふたつを連ねただけのようなこの簡素なシャンデリアは、
全三幕の幕開き時、床付近にまで低く下がっていて、
一幕、二幕の幕開きの際、家政婦シャルロットがやや奥手のほうから、
釣瓶をあげるようにそれにつながるロープを引っ張って高く吊り下げる。

二幕の最後のルネとモントルイユ夫人との丁々発止のやりとりの場面では、
照明によってルネにピントを合わせるごとく、
彼女がシャンデリアの影の円内に入っていたり、角度が変わったり。
そしてフランス革命後の第三幕では高く掲げられることなく、
それどころか幕切れ間際にガシャン!と音立てて床に落ちるのだ。
世の中の規範の象徴ででもあったのだろうか。

”お帰ししておくれ。そうして、こう申し上げて。
「侯爵夫人はもう決してお眼にかかることはありますまい」と。”

ルネは訪ねてきたというサド侯爵を拒絶したあとぱっと微笑み、
ほぼ同時シャンデリアと照明が落ち、
「ラ・マルセイエーズ」が高らかに鳴り響くという幕切れは鮮やかというべき。
彼女は犠牲者ではなく、むしろ勝利したかに見える。
一幕で彼女が凛として言う
”女が男にだまされることなんぞ、一度だって起りはいたしません。”
という台詞を思い出してしまった。

これまで見て来た舞台では、装置はシンプルでも、
コスチュームプレイとしての衣装は結構豪華だったのだが、
髪もかつらなしの地毛だし、ドレスもぎりぎりに削ぎ落されているように思える。
サン・フォン夫人の黒のドレス、アンヌの紅のドレスはともに、
短めのワンピースの腰回りにぐるっと布を回したような感じで、
正面から見るとストッキングを履いた足はむき出しに見える。
二幕目ではサン・フォンとアンヌはその大仰なスカート部分は取り去り、
すっきりと現代風なワンピースで魅惑的な足を見せていた。

淑女然としたシミアーヌ夫人は一幕はそれらしいドレス、
三幕には修道女の格好だから一番分りやすいけれど、
ルネもモントルイユも最初から最後まで同じモノトーンのドレスで通している。
戯曲では一幕から二幕の間に6年間、
二幕から三幕の間の12年間という歳月が流れたことが書かれているけれど、
二人の印象が変わらないのは演出的な狙いなのだろう。
総じてなかなか斬新な演出で新鮮。
ただ私としては、篠井さんのルネで見た時の時間の経緯や、
その確かな重みに感動した記憶が鮮明なので、
コスプレ的な楽しみという意味では、少々物足りなかった。
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