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2011年12月20日01:42

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源氏物語〜千年の謎〜

12月14日、渋谷TOHOシネマズにて鑑賞。
http://www.genji-nazo.jp/index.html

もともと『源氏物語』の映像化なんて無理だと思っている。
今も昔も変わらぬ恋のリアル感、女たちの切実感に引き比べ、
光源氏はあまりに理想化された特別なひと。
生身のひとが出来るわけはない。
物語を読んで自分で想像をふくらませるのが一番。

と、分っていながらも何故わざわざ観にいったかというと、
やはり生田斗馬くんの源氏がどんなふうなのか見たかったから。
映画『人間失格』の主人公を演じた彼はとても良かったし、
次々女性と関わりながらも無垢で汚れのない印象から、
まるで源氏物語のようだな、とその時思ったのだ。
まさか本当に光源氏を演じることになるとは!
舞台『我が友ヒットラー』の演技にも感心したし、好感度は高い。

その一方で、彼をとりまく女性たちの配役は首を傾げたくなるものばかり。
知性あふれる年上の未亡人・六条御息所が田中麗奈さん?!
これも年上であるはずの正妻・葵の上が田部未華子さん?!
儚く散った夕顔が芦名星さん?…
そして薄倖の生母・桐壷更衣&運命のひと・藤壺が真木よう子さん?!!
私の感覚からすると、一様に幼く現代的に過ぎ、情緒にも欠けるような気が。
なるほど、と得心できるひとがいない。
そして出てくるのはこの四人だけ。空蝉も朧月夜も紫の上すらも登場しない。

キャストに紫式部や藤原道長もいるということは、
源氏物語そのものを描くだけでなく、外枠の現実世界をも描くということだ。
いったいどんな塩梅になるものかと思っていたのだが、
この外枠は予想以上に大きく、むしろその部分が強く出ている気がした。
道長の娘彰子も一条天皇も現れ、道長や式部を取り巻く状況が分る。
道長のサポート役・藤原行成もご登場。

「我は光。世の中をあまた照らす光だ」と言い放つ道長。
冒頭の場面で彼が言う「私は何をしても許される身分なのだ」という台詞も、
後に源氏がそのまま言っているのは、まるで鏡に映したよう。
道長への恋慕と恨みが綯い交ぜとなった式部が、
物語の中の光源氏に道長を重ね合わせ、
行き場のない思いがあふれて生霊となってしまう御息所に
自らの思いを投影する、というように見えてくる。
そのため道長のそば近くに居る陰陽師・安倍晴明に、
「あの者、凶相が出ておりますぞ」と懸念を抱かれてしまう。
現実と物語がどんどん密接に交わってきたあげくに、
物語のなかに入り込んだ晴明が御息所の生霊を封じてしまったのには驚いた。
そんなのあり?!

安倍晴明が道長に重用されたのは史実通りだけれど、
弓争いで道長に敗れた甥の伊周の亡霊が鬼と化して襲ってくる場面なども、
まるっきり映画『陰陽師』ふうな特撮が前面に出て来るのには閉口。
派手にやればやるほどほど反比例して気持ちが引いてしまう。
確かに平安の闇は濃く、霊のざわめきも強かったかもしれないが、
もっと違う見せ方もあっただろうに。
結局すべては紫式部の精神世界の中、ということなのだろうか。
終盤、「どこまで私を苦しめれば気が済むのだ!」と涙ながらに言う源氏に、
「たくさん愛される者は、たくさん苦しまねばならぬのです」
というような言葉を返す式部。
まるで自分の筆で源氏(=道長)を追い詰め、復讐を果たしているかのよう。

弘徽殿女御の桐壷更衣への露骨ないびり方は漫画のようだった。
「卑しい身分のお前になんか」という言い方があまりに現代的で苦笑。
せめて「お前になど」くらいにはして欲しかったな。
頭中将が源氏に「光」と呼びかけたり、妹のことを「葵」と言ったりするのも、
違和感を感じるのだが(あれは名前じゃない!)、便宜上仕方ないか。
それよりびっくりしたのは、葵の上と御息所の車争いが描かれなかったこと!
あんな屈辱を受けたればこそ、御息所の無念の思いも無理はないと思うのに、
それもなしに生霊となって取り殺そうとするのは、あまりに安直。
なにしろ六条御息所には一番思い入れがあるので、この扱いはあんまりな。
ただただ"情がこわい女”という印象で、彼女に対して失礼だと思う。

苦言ばかりを並べてしまったが、気を取り直して生田源氏評。
初々しく、豪華な衣装もよく似合い、美しさの点では満足。
優雅で鷹揚な雰囲気もあり、頭中将と青海波を舞うところは綺麗で良かった。
清潔でお行儀が良く、あやうい色気にはいささか欠ける気もするけれど、
いかにも皆から愛される貴公子に見えるのは上々。
素直で気障じゃないのが良い。

以下、キャストひとくち感想。

<物語枠>
室井滋@弘徽殿女御の怪演ぶりは漫画のよう!
ライバルをいびり倒し、むきになって自己主張する姿を、
滑稽味を感じさせるほど思い切り見せつけて気持ち良さそう。

真木よう子@桐壷更衣/藤壺は、綺麗と言えば綺麗だけれど、
どうもこの方だと気の強い現代女性のイメージが強すぎて、
しっとりした感じを受けない。
結局源氏を煽ってしまってるような。

田部未華子@葵の上は童顔のせいもあり、幼い印象。
女三宮あたりのほうがお似合いの気がする。

芦名星@夕顔は、どうも薄倖の美女という感じではない。
源氏が何故このひとに魅かれたのかよく分らないな。

田中麗奈@六条御息所は思ったほど悪くはなかった。
意外に平安時代の髪型や装束も似合っているし、
ちょっと目の間隔の離れた顔立ちは、ク・ナウカの美加里さんふう。
鏡のシーンはちょっと西洋の魔女っぽいイメージかな。

尾上松也@頭中将はさすがにさまになっている。
実際に生田くんとは高校時代からの親友だそうで、
源氏との親密さも自然で良い雰囲気。

榎木孝明@桐壷帝は、品良く、慈愛に満ちた感じが役にぴったり。

<現実枠>
中谷美紀@紫式部
中谷さんは近年、痛みを抱き、苦悩を背負いながらもにっこり笑うような、
複雑な感情を秘めた大人の女性役が多くなってきたなあ。
そういう表現はお上手だけれど、どうも平安朝の扮装とお顔が合わない気が。

東山紀之@藤原道長
憎らしいほど押しが強くて万事に長けているのは似合いの役。
好きにはなれないけれども。

窪塚洋介@安倍晴明
すっきり細くて衣装はなかなかお似合いだけれど台詞は棒読み。
どこか宙に浮いているようで、世離れした感じは出ている気がする。

甲本雅裕@藤原行成
甲本さん、こんな貴族の役もやるんだ!とびっくり。
なにせ今は、朝ドラ『カーネーション』の木之内のおっちゃん役で、
毎日顔を見ているから、全然違う役柄で驚いた。
生真面目な人の良さは出ていたけれど、
この方はやっぱり庶民的なほうが似合うなあ。

東儀秀樹@一条天皇
実は途中まで東儀さんだと気付かなかった。
衣装装束が板についているのは当然として、顎鬚があると誰だか分らなくなる。
自ら篳篥も奏されているのはさすが。

連佛美沙子@彰子
出番は多くないながら、髪型も衣装もとてもお似合い!
清らかなイメージで貴族の娘に相応しい。(はっきり言って他の誰よりも)
彼女が夕顔などやったら、どんなにしおらしく哀れだっただろう。
もっと登場してくる役で見たかったなあ。勿体ない。

しゃらしゃら鳴る衣擦れの音はやはり臨場感があり、
それぞれのラブシーンでは、なによりその音にときめいた。
衣装や部屋の調度品、御簾などもたいへん凝っていて豪華。
その部分では目を楽しませていただいた。

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