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2011年04月11日00:18

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ドキュメンタリー映画『ピュ〜ぴる』

4月1日、渋谷ユーロスペースにて鑑賞。
http://www.p2001.com/index.html

二ヶ月前、ここで偶然予告編を観た時からとても気になって、
フライヤーを大事に持ちかえっていた。

”ただ、愛してほしい”
 性同一性障害の現代アーティスト ピュ〜ぴる。
 「彼」が「彼女」へと変わってゆく8年間に
 寄り添った感動のドキュメンタリー。
   松永大司監督作品

というのがフライヤーに記された惹句。
使われた図柄は、巨大な花の山の頂に埋もれ、
手にした造花を掲げているピュ〜ぴる。
実の祖母の死から着想を得たという
この『GRANDMOTHER』と題した立体作品は、
葬儀の献花で構成されている。

私はこの映画によって初めてこのひとの存在を知ったのだが、
仲間から付けられたあだ名で活動しているのは、
本名の男性の名前で活動するのが嫌だったからとのこと。
それはともかく、その作品群には本当に圧倒された。
度肝を抜かれる巨大で奇抜なコスチューム。
土星や金星や木星などをイメージした
『PLANETARIA』のユニークなニット作品。
それを身に付けてのパフォーマンス。
誰に習ったというのでもなく憑かれたように創り続け表現し続ける。
それこそが自分の存在意義。やらずにはいられないことなのだろう。

予告編では”男子の女装”だということがはっきり分る写真と、
「まさかうちの息子がそんなオカマみたいな恰好して」
というような父親の述懐が重なる部分にひやりとしたのだが、
本編を見ると、彼と家族との関係に予想したような齟齬はなく、
むしろ良好な感じでほっとした。
完全に理解することは不可能にしても、突き放してはいないし、
普通の親なら「いつまでも芸術を気取っててもしょうがない」
「はやく何とかなってくれ」というのはごく正直な台詞。
ちょっとずんぐりしたお兄さんは、もっと身近な理解者。
弟が最初にカミングアウトした時、「ああそうなんだ」と受け入れたという。
「ひとそれぞれだし、肉まんが好きかあんまんが好きかっていうようなこと」
弟のパフォーマンスの手伝いまでしている姿にじーんとしてしまった。
良いひとだなあ。身内に理解者協力者が居るピュ〜ぴるは幸せだと思う。

ドキュメンタリーを観ていると、
自分がすべてに立ち合っているようにどきどきする。
対象者との間にカメラが入っていることを忘れそうになるのだ。
このカメラは本当によくこんなところまで、というところまで密着している。
ピュ〜ぴると家族が焼き肉店で食事している時の会話や、
大作を創るなかで迷い、苦悩する姿を長時間映し続けてるところ、
そして何よりショックだったのは、去勢手術の日の表情。
手術前の様子と手術直後、横たわったまま涙を流している姿。
こんなプライベートな姿を見てしまって良いのだろうか、という動揺。
これは本当に15年来の友人という松永大司監督しか撮れなかっただろうし、
彼の腹の括り方と、すべてをありのままに見せるピュ〜ぴるの覚悟を、
粛然と見つめるしかない。

アーティストとして活躍する姿を冒頭で見せた後、
ぽん、と数年前の素朴な素顔に飛ぶ構成は巧みだ。
どちらかというとまだ垢ぬけない、無精ひげも見える彼が、
その後髪を伸ばし、脱毛し、女性ホルモンを投与し、
どんどん女性的に変貌してゆくのに見入ってしまう。
一方で、創作する姿勢の一途さ、純粋さに打たれる。
そして恋。相手はストレートの男性。
「パパ」と呼んでいるその彼を語る時の嬉しそうな様子は女の子そのもの。
”この世には愛というものが存在します”
という字幕が画面に出たあたりから、
尋常ならざる吸引力に一瞬も目が離せなくなった。
真剣な思いと冷静な理性。そのあとの手術と涙。
”パパと結ばれることはなかった”の字幕に、私も涙がこみあげる。
追い打ちをかけるように二人のツーショットが続く。
もちろんパパの顔はぼかしてあるけれど、
幸福そうに微笑むピュ〜ぴるの女らしさに胸を突かれてしまう。
その目から流れる真っ赤な血の涙。
客席のそこここからすすり泣きの声が聞えてきた。

痛ましい涙の赤は、クライマックスのパフォーマンスの赤い毛糸へとつながる。
以前の『PLANETARIA』のニットコスチュームを身に付けて登場し、
観客の目の前でそれを少しずつ脱ぎ捨ててゆく。
組まれた高い足場の上でポーズする緊迫感。視線の集中。
被り物を取り、顔の白塗りと真っ赤な口紅をぬぐい取る。
衣装の胸からこぼれおちる真っ赤な毛糸の玉にはっとする。
何かたくさんの生命を産み落としたように。
最後はほとんど全裸になったその身体はもはや女性。
ゆるぎなく引き締まってうつくしかった。

『LOVE REINCARNATION』(愛の生まれかわり)と題され、
横浜トリエンナーレ2005で演じられたこのパフォーマンスは、
ヘドウィグのラストを連想させられた。
苦しみと悲しみを突き抜けたあと、生まれ変わったような姿。
表現し続けるひとでこそ為し得た新たなステージだと思う。

*ユーロスペースでの上映は4月22日まで
*現在発売中の『キネマ旬報』(4月下旬号)に、
 松永大司監督のインタビュー記事あり(p.144-145)
http://www.kinejun.com/tabid/62/Default.aspx
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