なにか素晴らしいものをみて魂を揺さぶられた時、
私は書かずにはいられない。
自分の記憶に鮮明に焼き付いているうちに。
舞台はどんなに素晴らしいものでも消えてしまう。
たとえ映像が残ったとしても、それは自分の目でみたものとは違う。
同じということは有り得ない。
舞台は生きている。日々変っているし、見る位置からでも印象が違う。
観るひとの観たステージ数だけ、違う舞台がある。
あの夢のような時間。
魂を奪われて、吸いこまれるように見つめた世界。
それが消えてゆくことへの狂おしさ。
あの時の気持ちをもっともっと反芻したい。
でも記憶はいつのまにか薄れてゆく。
のみならず勝手に組み替わる。
自分でも気付かぬ自己補完をしてしまう。
無意識に自己流の脚色をし、勝手な装飾をまぶしたり。
だから記録するのだ。
書く時点で、自己解釈故の誤解があったとしても、
もう一度深く記憶の底を辿り、
書いて、眺めて、突きつめて考えてゆくうちに、
ふいにぽん、と思い出すこともある。
カメラの焦点をしぼり、ズームアップして見えてくるわけではない。
それは暗闇からいきなり出現するのだ。
記憶とは本当に不思議なもの。
昔たった一度だけ観た舞台でも、
全身全霊をこめてそのひとを観た記憶は残っている。
どんな衣装でどんなしぐさだったか、私は懸命にノートに絵を描いていた。
記録したいという気持ちを持つのは、宿命なのかもしれない。
頑張れ私の海馬(かいば)。
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