http://www.nhk.or.jp/hiroshima/program/etc2009/drama09/
NHKのドラマは比較的見ているほうだけれど、
この作品はタイミングが合わず、3月の放映時は見逃していた。
その後評判が良く、各国のテレビ祭などで数々の賞を受賞したことは耳にしたが、
9月に再放送された時も、うっかり見過ごしてしまった。
そんな私に、「再放送を見たら面白かったから、良かったらどうぞ」と、
友人が録画した盤を渡してくれた。感謝感謝。
島に住む老作家と、原稿担当の女性編集者とのやりとりに、
生と死の問題がからむというようなあらすじは何かで読んだ覚えがあるが、
実をいうと配役も何も知らず、まっさらの状態で見たので新鮮そのもの。
制作はNHK広島。
かつて文壇のプレスリーと呼ばれ、無頼派めいた無茶な暮らしの果て、
身体を壊したことで起死回生の摂生生活に切り替え、
今は故郷の島に引きこもって執筆している作家・村田省三。
頑固でわがままで、なんとも憎ったらしい言動なのにどこか愛嬌がある。
この人物を演じるのは、原田芳雄さん。相変わらずヤンチャでお茶目。
憎まれオヤジの作家を相手に回して一歩もひかず、
生硬な言葉遣いで斬り結ぶ女性編集者・折見とち子を尾野真千子さん。
最近では『Mother』の憎まれ役である虐待母・道木仁美を
見事に演じきったのが記憶に新しいけれど、
きりりとした風情といい、滑舌の良さといい、
うってかわって見せる表情の揺らぎといい、やっぱり上手いなあと感嘆。
にこりともせず「恐れ入ります」とか「感謝の言葉もございません」とか、
作家の連載作品について「中高年の男性を中心に人気絶大でございます」とか、
木で鼻をくくるような応対にいらつく村田が、なんとか本音を引き出そうと、
「お前の好きな作家は誰だ」と問い、
「カポーティ、チェーホフ、横光利一、でしょうか」と言われ、
（この好みも古風で思わず笑ってしまった）
「それを読んで素晴らしいと思うお前が、
本当にこれを素晴らしいと思うのか？」と突っ込む。
ややあって居住まいを正し、
「申し上げてよろしいのでしょうか。実は思っておりません」から始まる、
辛辣ながら整然とした長台詞は、まさにコトバの機関銃。
たじたじとなる村田が小気味よく、喝采ものだった。
彼女がただの無愛想な編集者ではなく、
今まで彼の作品をすべて読みこみ、
誰よりもよく作家の世界を理解していることや、
絵心があり、影絵芝居をひとりで演じたりすることなどから、
作家はしだいに彼女を好ましく思い、惹かれていく自分に戸惑う。
金魚娘が出てくる連載をまとめる際、
金魚の魚拓を表紙にすることを思いつき、
父親を手伝って魚拓をとったことがあるという彼女にそれを命じる。
魚拓をとるには、魚を殺さねばならない。それは辛いことだ。
彼女のこの時の表情は、見ていて切ないほどだった。
村田もあとで苦い思いを味わうのだが、後悔先に立たず。
しかもそのあと、姿を見せなくなった彼女が、
実は病に侵され死と向き合っていることを知り、
そんな女にちいさいながらも生き物の命を絶つことを強いたことにうろたえ、
矢も楯もたまらず入院先に見舞いにゆく。
金魚のように真っ赤な花をとんでもなくたくさん抱えて。
初めて儚げに見えた彼女が、作家を認めて気丈にふるまうのは胸に染みたが、
ここのあたりがしめっぽくならず、ユーモラスですらあったのが良い。
彼女の折り目正しい言葉遣いが素晴らしく効果的。
確かにこれはユニークで非常に印象的なドラマ。
正味58分というのもちょうど良く、見終わって清々しかった。
*11月12日から、NHKオンデマンドで公開予定とのこと。
http://www.nhk-ondemand.jp/share/calendar/#caltokusen
ログインしてコメントを確認・投稿する