以前にも書いたかもしれないけれど、
お雛様というのは、女の子にとって特別なもの。
お節句が終わったらすぐさま片付けないと、
嫁き遅れるなどという俗信もある。
女の子が生まれたら、母方の実家からお祝いに贈るというのが通例。
私が生まれた時にも、母方の祖母から七段飾りが送られて来た。
なかなか飾ることもなくなったけれど、それは処分せずに今も手元にある。
実家にいた頃、それらは雛祭り以外の時期、蔵に入れられていた。
そこにはガラスのほやのランプだの、古いつづらだのもあり、
薄いひかりのなか、ほこりくさく古めかしいにおいがしていた。
蔵の戸は重かった。
「前は御殿付きのお雛様もあったよ」と母に教えられ、
「御殿付きのが見たい!」と言ったら、
「それはもう燃やしてしまったの」と言われてショックだった。
「なんでなんで?御殿のが見たかったのに」と駄々をこねたら、
「ひとつのおうちにお雛様はひと揃いだけなの。
二つあると、お雛様が喧嘩しちゃうから駄目」となだめられたのだ。
よく分らないけれど、お雛様同士の喧嘩というのは、
なんだかすさまじいもののような気がして、不承不承納得させられた。
でも、燃え上がる炎のなかのお雛様のイメージも、
やはりすさまじく強烈に心に焼き付いた。
ずっと後になって、梨木香歩さんの「からくりからくさ」を読んだ時、
幼い頃に焼きついたそのイメージがぱあっと甦って、
思わず声をたてそうになった。鮮烈で残酷で見事な作品。
昔ながらのつくりの家、和の暮らし、織物、草木染め、人形、伝説など、
私の関心のあるものすべてが入っていて、やられた!と思った。
ちなみに、梨木さんは私と同い年の方。
通じるところがあるように思えて、親近感を抱いています。
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