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2009年08月31日07:15

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二階席からのドリアン(8月30日)

今回は初めての二階席。
当初チケットが来た時には、S席なのにちょっと遠いなと思い、
友人と二人分だし、人の多い日曜日だから割りを食ったのかと残念だったが、
公演が始まってみると、近すぎると全体が見辛いことはよく分かり、
この席で見ることが、逆に楽しみになってきた。
二階最前列、センターよりやや下手寄り。
三人打ち揃ってシビルの芝居を見に行く場面では、
上段に座っているドリアンが、ほぼ真正面に見える良席。

ここから見ると、舞台で何が起こっているか、本当によく分る。
何よりも照明の細かな移り変わりに目が吸い寄せられてしまう。
冒頭の場面で、下手側だけから差し込んでいた光が、
上手側にあらわれると、あ、ドリアンの登場だ、と胸が高鳴る。
中央から照らされるライトとともに、
この舞台の象徴である肖像画の額縁がすうっと降りてくる。
まさに降臨というイメージ。
背景のライトには青いものもあって、神秘的な感じ。
照明はくっきりと照らすばかりではなく、
全体的にもやったような幻想的雰囲気を出している気がする。
ドリアン自ら光を発しているような、不思議なひかりもあった。

シビルの稚拙な演技を見てショックを受ける場面では、
ライトが向きを変え、かっと客席を照らし出す。
一階席で見ていた時は、はっとして息が詰まったものだった。
シビル演じるジュリエットが立ちつくしているところと、
芝居のあと、ドリアンがよろめくように歩き、
聞こえてくるノイズに「やめろ!」と叫ぶところの二回。

段差のあるセットで、ドリアンはしばしば上段に位置するが、
ピンスポットに浮かび上がる彼の立ち姿のうつくしさには見惚れる。
離れているほうが全体の動きもくっきりと見えるので、
手の動き、腕の位置、歩き方にいたるまで、
いかにも青年貴族らしい、細やかで優雅で流れるような動きに改めて感心。
また、上から見下すように相手を見やる、
ドリアンのつめたい目線がぞくっとするほど良い。

ヘッティを見かけて一段飛ばしで駆け上がる躍動感、
ジェイムズと組み合って銃を奪うところや、
最後にナイフで肖像画を切り裂くダイナミックなアクションには、
眼が釘付けになってしまう。
あの肖像画は自分にははっきりと見えていると言っていたけれど、
何もないはずの空間に、ナイフを突き立て、切り裂く時の、
カンバスの存在感、抵抗感が確かに表わされていて、
ちゃんとこちらにも、その実在感が伝わってくる。
このひとの身体能力の高さ、表現力のなせる技だ。

それにしてもつくづく黒い(暗い)舞台だと思う。
小鳥の声が聞こえるところもあるが、背景はずっと暗いので、
常に夜の世界のような気がするほど。
一面黒のなかだからこそ、そのなかの紅の色に目が吸い寄せられる。
芝居小屋の椅子や、ドリアンの手にする一輪の薔薇。
阿片窟の紅い照明も実に妖しい。

上段はフラットではなく、傾斜がつけられているのもよく分る。
それがぐるぐると回転するものだから、
なんだか常に不安定で、めまいを感じてしまう。

バックスクリーンに投影される、変化する肖像画のイメージは、
これまでで一番くっきりと見えて、怖かった。
綺麗な空色の瞳が、インクのようにどろりとした藍色に沈んでゆき、
血のような赤に変化し、次には緑に移り変わる。
色を濃くした目玉が、どろりと流れてゆく。
まるで腐乱死体のように。
顔全体が塵のように崩れてしまうのを見る時、
無常を感ぜずには居られない。

この緊迫感あふれる舞台も、東京公演は残すところあと一回。
公演が始まってから、原作本や「サロメ」を読み返している。
それと舞台との対比を含め、感想はまた別項で書きたい。
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