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2009年08月21日02:24

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「陽炎の辻3」最終回(第十四回)<磐の音>(8月8日)

*演出 清水一彦

<原作出典とオリジナル部分>
シリーズ3の締めとなる今回は、殆どが原作第二十一巻
『鯖雲ノ城』を基としている。

個々のエピソード)
・照埜との対面も無事に済み、磐音の嫁として認められるおこん。
(第一章「白萩の寺)

・正睦が磐音の今後の報告とともに、井筒遼次郎を養子に迎え、
坂崎家の跡継ぎとすることを伝え、一同安堵する。
(第一章「白萩の寺)

・おこんが江戸から運ばれて来た長持ちを開き、
中に入っていたお佐紀の手紙で仮祝言の支度が整えられていることを知る。
(第二章「中戸道場の黄昏」)

・磐音はおこんを伴い、猿多岬にある三人の友
(琴平、舞、慎之輔)の墓に詣でる。
(第三章「三匹の秋茜」)
*ただし琴平、舞、奈緒の母であるお鶴と遭遇するのは、
ドラマのオリジナル。

・正睦が磐音にその名の由来を初めて説明する。
(第一章「白萩の寺)

・二人の居ない江戸では、今津屋の由蔵が不機嫌をつのらせている。
(第四章「長羽織の紐」)

・磐音たちが関前で買い求めた揺り籠が、今津屋に届き、
涙もろくなっている由蔵は、仮祝言の知らせに泣いてしまう。
(第五章「坂崎家の嫁」)

・坂崎家では、磐音とおこんの仮祝言が粛々と執り行われる。
(第五章「坂崎家の嫁」)
*婚礼の夜、磐音が亡くなった友たちと心のうちで会話するのは、
ドラマのオリジナル。

<貴種流離譚の終わり>
今回は、本当に最終回なのだなあということをしみじみ思った。
磐音のここまでの物語は、
「本来高貴な生まれの子が、事故や陰謀により陥った不幸な境遇で育ちながら、
旅・冒険・活躍をする」という貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)の典型。
それがここで終わったのだ。

シリーズ1の第一回で描かれた、あまりに辛い友たちの死。
若手の藩政改革を嫌った当時の国家老の陰謀にはまり、
三人の幼馴染みと許婚の奈緒を一時に失った悲劇。
磐音の運命は、あの日から激変した。
その出来事の重みをずっと抱えてきた彼が、
ようやく気持ちの決着をつけて、新しい生活へと歩みだす。
この回は、その決着をつけるための終止符。
良かった良かった、と思う反面、寂しさは否めない。

思えばシリーズ1もシリーズ2も、磐音とおこんの道中で終わっていた。
それは、まだこの先をも予感させるものだったけれど、
シリーズ3で坂崎磐音としての物語は、はっきりと区切りがついた。
これから先は佐々木道場を継ぐ「佐々木磐音」。
もう長屋に住む着流しの浪人さんではない。

回想で流れる第一回の「友よ」の映像は、何度見ても胸がふるえる。
江戸勤番から希望に満ちて帰って来た三人のむつまじさ。
嫁菜の花をくわえ、横になってまどろんでいる磐音のあどけなさ。
皆若く、健やかで明るかった。それが一夜にして破滅する。
舞を斬る慎之助、慎之助を斬る琴平、琴平を斬る磐音。
上意により、無二の親友を手にかけねばならなかった時、
磐音の顔は、すうっと表情をなくしている。
感情にフタをしなければ、出来るようなことではない。
どんな悲痛な表情よりも、この静かな顔に打たれてしまう。

ドラマ放映前のインタビューで、原作者の佐伯先生は、
とにかくこの話だけはきちんとやって欲しいとおっしゃっていた。
そのご希望通り、この悲劇の果たし合いは原作に忠実で、
非常に丁寧だったと思う。だからこそその後が深まった。
一話限りの登場ではあったが、琴平と慎之助、舞は、
磐音の心中の要となるキーパーソン。
その彼らと、祝言の夜に会話する場面は、やはり感慨深かった。
「すまぬ。それがしだけが幸せでおる」
「何をいうか、磐音」「我等が分まで幸せになってくれねば困るのだ」

坂崎家の跡継ぎを井筒遼次郎に定めることなども含め、
いささか律儀すぎるほどの収め方ではあるものの、
磐音の喪失と再生を、きちんと見せてくれたことには感謝したい。

<磐音の背負ってきたもの>
「上意とはいえ、それがし、この手で琴平を殺め、
その上、許婚であった奈緒殿までも捨て、申し訳ござらぬ」
琴平たちの墓の前で、小林家の母・お鶴に手をついて詫びる磐音。
原作にはないこの場面で、胸がいっぱいになった。
奈緒のふびんさを思うと、原作ファンからも磐音の出奔に非難の声は
多々出ていたようだけれど、真正面から謝ってくれたのだもの。

親友を殺し、その妹である許婚を置き去りにした。
致し方ない状況だったとはいえ、
奈緒を「捨てた」と自分から口にしたのは初めてのこと。
彼の背負った十字架の重みを改めて思う。
この時、後ろでおこんははっと驚いたような顔をしていた。
この話を知っていたとはいえ、彼女が磐音の辛さを実感したのは初めてなのだろう。
ひとは自分の生活範囲でしか物事を理解できないものなのだから。

お鶴の声はやさしかった。おこんに対してさえ。
本当は自分の娘が連れ添うはずだったのに、
とってかわったように一緒になる娘に対して。
出来たひとなのだなあ。さすが奈緒の母上。

残された小林家たちの面倒をひそかに見ていてくれていた正睦。
そのことを初めて知って、
「それがし、己一人の身ばかりを案じておったことを恥じております」
と言う磐音を励ます声のあたたかさは胸に染みる。
そして語られる、磐音という名の由来。
「磐音という名はな、
何千何万という時が作った巨岩が発する音という意味で名付けた。
何千何万の時が作った巨岩の風格と同時に、
堅い磐がきしむかすかな音にも耳を傾けられる人間たれとな」。
この言葉を涙を湛えた眼で聞いている磐音の表情は素晴らしかった。

<ドラマのおこん>
照埜が結局はおこんを受け入れることは分かっているのに、
初対面をあんなに緊迫したズームアップでひっぱるのは、いささかやりすぎ。
きっぱりとして潔い、良い母上ではありませんか。

そもそも第3シリーズの後半は、おこんの嫁入りに対する不安と揺らぎを
不必要なまでにひっぱったのが、見ていてどうにもやりきれなかったのだ。
やっとおさまったかと思うと、旅立ちの直前になっても、
お佐紀様が心配、こんな時に関前に行ってもよいのかどうか、
などと言い出す始末で、さすがに私も堪忍袋の緒が切れそうになった。
こんなに抑えのきかない彼女なのに皆に愛されて、
磐音と幸せに結ばれることがはがゆくて得心がいかない。
ずるいなあ、彼女ばっかり。
確かに可愛くて綺麗だけれど。

原作のおこんはこんなに幼稚ではなく、もっと気配りのきく大人だ。
磐音に対しても、ぽんぽん言う場合もあるけれど、
基本的にはもっと敬意をもって接している。
「ちょっと坂崎さん!」なんてタメ口をいつまできいてるんだ、と気になっていたので、
祝言の夜にようやく「磐音さま」と頭を下げたことにほっとした。

<正装磐音のうつくしさ>
祝言の席の磐音の凛々しさ、素敵さには言葉を失った。
きちんと結った髷が新鮮。
肩衣や袴をきちんとつけ端坐していると、その品位にひれ伏したくなるほど。
そう、うつくしさという点では、ドラマの磐音は原作をはるかに凌駕している。
原作ではもう少し茫洋としていて、花嫁をにこにこと迎えるのだが、
ここでは眉のあたりにまだ少し憂いがあって、それがまた何ともいえぬ風情。
花嫁よりも綺麗で、どきどきしてしまった。

そしてその夜の床でおこんの肩を抱きながらも、
亡き友たちと対話した後、静かに閉じた眼からこぼれたひとすじの涙。
ひさしぶりに磐音の顔に見惚れてしまった。
眼福としか言いようがない。

<細々雑感>
・とんびが出てくると、ああ、海と山に囲まれた土地だなあと実感する。
ピーヒョローの鳴き声。高くゆったりと旋回する様子。
お江戸の真ん中にはいませんからね。

・照埜さまから贈られた紅葉と菊の菊は本当に綺麗。
ご対面ではお太鼓結びにしてましたが、
いずれ正式に武家の娘ともなれば、おこんも文庫結びですね。

・正睦さまの言い方は、ほっこりしていて良いなあ。
「そのことじゃがのぉ、照埜」とか、
「いやー安堵いたしたー」とか。なごみます。

・老眼鏡が画面に出てきて、あ、と思った。
原作だと、今津屋から正睦への土産として、おこんが長持ちから出して手渡すのだ。
そこまで描くのは、時間がなくて無理だったのだろうが、
原作ファンとしては出てきただけでも、そのエピソードが思い出されて嬉しい。

・照埜がおこんに懐剣を渡す夜の場面、
リーリーと秋の虫の声がする。やはり秋が始まっているのか。
でもさすがに三匹の秋茜までは見られなかったのが残念。

・中居さまは祝言の席の高砂まで一手に引き受けて大活躍。
原作での三度目のお家騒動をさっぱりとカットしているので、
関前藩の代表者として全面的に押し出している感じ。
それはそれでまとまっていて良かったけれど、
若き関前藩士・伝之丈くんなどももう一度見たかったなあ。

・由蔵さん、なんだか面白くないのが昂じてひがんじゃってますね。
「何しろお武家さまですからなぁ。
我々とはちと考えが違うかもしれません」なんて、最後まで皮肉っぽい。
お佐紀さまにも失礼でしょうに。

・花嫁おこんを先導する女の子、着物の柄は琉球ふうに見えますね。

・笹塚さまが産湯を沸かそうとするなんて!
気が付くところはさすがですね。世話場に強そう。

<ゲスト俳優>
重要な役ながら、最初と最後の二回分しか出なかった、
磐音の幼馴染みたち。皆存在感がありましたね。
ちゃんとずっと見守っていた感じがあって良かった。

・小林琴平役は塩谷瞬(しおやしゅん)さん。
http://www.stardust.co.jp/section3/profile/shioyashun.html

・河出慎之助役は柏原収史(かしわばらしゅうじ)さん。
http://www.tamura-pro.jp/sakimoto.html

・河出舞役は菊池麻衣子(きくちまいこ)さん。
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/meikan/ka/kikutimaiko.html

・小林家の母お鶴役は野平(のひら)ゆきさん。
http://talent.yahoo.co.jp/pf/profile/pp355

・井筒源太郎役は朽木正伸(くちきまさのぶ)さん。
http://www.iijimaroom.co.jp/profile/kuchiki_masanobu.html

・井筒遼次郎役は崎本大海(さきもとひろみ)さん。
http://www.tamura-pro.jp/sakimoto.html

・井筒洸之進役は永幡洋(ながはたひろし)さん。
http://seinenza.com/profile/data/nagahata_hiroshi.html

・井筒綾役は三谷侑未(みたに ゆみ)さん。
http://www.seinenza.com/profile/data/mitani_yumi.html
 
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