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2009年07月05日12:23

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「陽炎の辻3」第九回<女の覚悟>(6月27日)

*演出 周山誠弘

<原作出典とオリジナル部分>
遠州相良で磐音暗殺の話をもれ聞いた鶴吉が、
恩人の大事とばかりに江戸に舞い戻って磐音にそれを伝えるのは、
原作第二十四巻『朧夜ノ桜』第三章「小さ刀吉包み」。
もっとも原作ではその時点で磐音はすでに関前で仮祝言もすませ、
佐々木家との養子縁組も済んでいるから、状況はだいぶ異なる。

鶴吉がひそかに女房を連れて来ていたことや、
彼に三味芳を継がせるべく磐音が吉原会所の四郎兵衛に協力を仰ぐのは、
二十四巻第四章「三味芳六代目」。

田沼の命を受けて雑賀泰造がすべて仕切っているのは設定のアレンジ。
刺客たちの名も少し違っている。
原作では四出縄綱はこの刺客の書き付けに名前は挙がっていないし、
今回登場する木幡闇斎もしかり。
この名の刺客の登場は原作第二十巻『野分ノ灘』第五章「遠州灘真っ二つ」。
関前に向かう磐音とおこんが乗った正徳丸にひそみ、
最後におこんを人質にとるのが、木幡民次闇斎である。
(流儀は東軍流ではなく本間流槍術)

佐々木道場での稽古で、霧子が壁を走るなど、
忍びめいた動きを見せながら磐音と激しく打ち合うのは、
第十五巻『驟雨ノ町』第一章「暗殺の夜」。

いまだにおこんが悩み続けていること、
まるでそれを見透かしたような奈緒からの手紙を貰うこと、
速水左近と偶然出会って胸の内をさらすこと、
その後一度見かけた刺客らしき男を付けてゆくことなどは、
すべて脚本のオリジナル。
おこんに比重を置きすぎるようなこの部分には、
どうにも違和感を感じるので、縷々述べたい。

<鶴吉との再会>
二年ぶりに磐音を訪ねてきた三味線作りの鶴吉。
磐音にとって大事な情報を持ってきてくれたわけだが、
相変わらずすっきりといなせで若々しく、磐音とのツーショットは眼福。
初対面のおこんのあいさつに、
「こいつはどうもご丁寧に。鶴吉と申しやす」と膝をつき、
「旦那も隅に置けねぇや。それじゃあっしはこれで」と出て行くまで、
流れるように粋で、江戸弁もキレが良い。
「涼しげな人ですねえ」とおこんが感心したように見送るのも分る。
「はい」と答える磐音もすっきりとやさしげで良い顔。

<おこんの稚気>
それにしてもおこんはこのところ立ち聞きばかり。
ドラマのおこんは、潔くて賢い原作に比べ、大人になっていない感じ。
磐音に次々と刺客が迫ってくるのを知って、不安にさいなまれるのは分るけれど、
おこんの揺ればかり見せられるのは、はがゆくて仕方ない。
ついため息ついてぼんやりして、お佐紀にまで心配をかけてしまう。
磐音の前ではなんとか気丈にふるまっても、お社の前で泣き崩れる。
おまけに奈緒からの手紙にさらに心が揺れ、
ふらふらと今津屋を出て、偶然遭遇した速水左近の言葉に甘え、
その揺れまどう心のうちを包み隠さず話してしまう。
ここまでやられては、その子どもっぽさに物申したくなる。

仕事中にお店を抜け出すなんて、あまりに無責任。
奥向きを預かる役を担っているとも思えない考えのなさ。
その上速水さまにまでいつもの調子で、あたしなんか駄目だと愚痴る。
あまつさえお惚気に等しいことを延々。
相手がそこにいることも完全に忘れて、自問自答の問わず語り。
またしても「はっ!あたしったら…」いつもこればかり。
そんな彼女をよしよし、と好意的に見る速水さまをいいことに、
お店を無断で抜けたことも忘れて夜が更けてからご帰還のうえ、
ついうかうかと見かけた刺客らしき男の後を追うなんて、
考えなしも極まれり!どれだけ心配をかけてるのか分かってない。
もちろんその責任は脚本にあるのだけれど、オリジナルのおこんは減点続き。

<また責められる磐音>
そんなおこんに、どうして皆こんなにやさしくて寛容なのだろう。
お佐紀も由蔵もまるで大事な姫がいなくなったような騒ぎ。
おこんは奉公人というより、今津屋の大切な看板娘なのですね。
責められるのは姿をくらませた彼女ではなく磐音のほうなのだ。
お佐紀さんの「女の気持ちは揺れ続けるもの」は、
わが身に引き付けての意見だが、
鶴吉のために奔走してきた彼に向って、
「人のために動かれるのも結構でございます。ですが…」
とまで踏み込むのは、磐音が可哀想。

自分を捨て、人のために動いてしまうのが坂崎磐音というひと。
あなただって彼のおかげで今日があるようなものなのに、
いままでの恩を忘れたように厳しいのですね。
立派に貫禄がついてきたのは認めるけれど、あまりにおこん贔屓すぎる。
今津屋の面々が、これほど武家に対して警戒心が強いとは知らなかった。

ついでながら、速水左近が「それがしが坂崎殿を引きずりこんだようなもの」
と頭を下げるのに対し、「なんの。磐音とて覚悟の上のこと」と
玲圓先生があっさり返すのは、磐音がちょっと不憫。
身を尽くして働いたがゆえに、彼だけが集中して命を狙われるなんて、
本当に割に合わない。先生はあまりに恬淡としているなあ。

磐音は自らを語るひとではない。
でも本当に他人のことを親身に思いやり、いつも黙って考えているのだ。
おこんのことだって気遣って、
あんなに目で撫でるようにやさしく見つめていたのに。
養子話を金兵衛さんに話せないでいたのも、
早くに余計な心配をかけたくないからであろうに。
八つ当たり気味の竹村の旦那にまで罵倒されては立つ瀬がない。
そんな中なのに、鶴吉の三味芳の店のために動いている彼を、
「相変わらずお人が良すぎる…」と微笑む吉原会所の四郎兵衛。
このひとくらい酸いも甘いも噛み分けた度量の大きいひとでないと、
磐音は理解してもらえないのかもしれない。

<霧子との稽古>
そんなもやもやした気持ちのなか、とても見応えあったのが道場場面。
まるでもう先生から代替わりしたように、
ばしばしと門弟たちに稽古をつける磐音の雄姿に惚れぼれ。
「次!」の声に我先にと飛び出そうとする門弟たちから、
さっと抜きんでる霧子のすばやい動き。
上段に構えたあと、フェンシングのような片手突き、体を回しての足払い。
たたたと壁伝いに走るのに目を奪われる。
原作にも出てくるこの動きが見られるとは思っていなかった。

回転しての着地。磐音もまた彼女を抱えあげて回す。
活劇風の音楽もテンポよく、ここはまるっきりダンスのようだった。
しっかりと組み合う、というより
抱き合っているとしか見えない二人の姿にどきどき。
片手でぽんぽん、と竹刀をはずませるように右から左へと持ちかえ、
また軽やかにぐるぐる回し、さらに磐音の竹刀に足をからめて奪い、
突きに入り、また側転。
ぐるぐる回し、自らも回り続けている霧子。こちらも目が回る。
それでもとうてい磐音にはかなわない。
追い詰められ、片手を突き出して負けを認める顔を見せるのが彼女らしい。
すぐさま「次!」と叫ぶ磐音。「お願いします!」と駆け出す門弟。
このきびきびとした一連の場面は、じっくり見返したところ、
一分間にすぎなかったのだが、素晴らしかった!霧子は良いなあ。
磐音と相似形のようなポニーテールが揺れるのも素敵で、
からだ全体から発する気合いも好ましい。

<細々雑感>
・金兵衛さんはいつも絶好調。
袖をぱたぱた、植木ばさみちょきちょきの冒頭も愛らしいし、
お有の台詞から養子話を知った後、怒りで顔をぴくぴくさせ、
手にした巾着袋を右に左にぶん回していってしまうのも、
可愛らしいったらない。

・豊後関前の坂崎家では養子話に大騒ぎ。
照埜さん、かなり感情的になってらっしゃいましたが、
あんな素敵な息子を取られるのでは、無理もない。
お気持ちお察し致します。
それにしても坂崎家の女たちは気丈ですね。男はたじたじ。

・柳次郎とお有の台詞が妙に軽く聞こえたのは、
スピンオフの「プチかげ」の影響なんでしょうか。
鶴吉たちのことを話す柳ちゃんの言い方、
「仲むつまじそーに」と現代風。ちょっとハネすぎ。

・おこんが長屋でお土産を渡したあと、包んでいた風呂敷を畳んだり、
宮松から手紙を差し出されて、帯にはさんだ手ぬぐいで
さっと手を拭いてから受け取るようなところは、細やかな動きで好き。

・でも奈緒からわざわざこんな内容の手紙が来るのは
やはり不自然で作為的な感じを受けてしまう。
奈緒とからむのは一度きりで充分だったのに。
ロケ見学で見た時には、てっきり公的で大変な書状なのかと思っていた。

・速水さま、大変な要職の方なのに、あまりに気さく。
お供二人だけであんなに気軽に徒歩なさるとは。
気軽すぎて、ちょっとおじさんのナンパに思えたり(失礼!)。

・刺客の木幡闇斎、小枝なんぞくわえていかにもうさん臭い。
ちんぴらレベルというか、隙だらけで強そうに見えません。
四出とは雲泥の差。磐音をなめるんじゃないよ。

<ゲスト俳優>
・鶴吉役は第2シリーズに引き続き賀集利樹(かしゅうとしき)さん。
http://www.propaganda.co.jp/k_profile.html
原作よりずっと爽やかで涼しげ。仮面ライダーアギトで主演。
背の高い方だけれど、着物はよく似合うこと。

・刺客の一人・木幡闇斎(こばたあんさい)役は山口洋行(やまぐちひろゆき)さん。
まとまった紹介プロフィールは見つからなかったのだが、
雑賀泰造役の竹内力さんとは映画『岸和田少年愚連隊 カオルちゃん最強伝説 』
シリーズ『マレーの虎』で共演しているようなので、そのご縁かしら。

・田沼家の用人・竜間直澄(たつまなおずみ)役は鶴田忍(つるたしのぶ)さん。
http://talent.yahoo.co.jp/pf/profile/pp12195
俳優座のご出身。旧芸名は嵐 堪忍。
時代劇の悪役のみならず、出演作は数多い。

・鶴吉の女房おこね役は近衛(このえ)はなさん。
http://homepage3.nifty.com/officesasaki/p-konoe.html
なんとなくほわっとした雰囲気で、鶴吉さんとお似合いな感じ。
女優やレポーターだけでなく、NHKドラマ『白州次郎』の脚本まで
執筆されているとは、多彩なご活躍の才女。

・磐音の義弟・井筒源太郎役は朽木正伸(くちきまさのぶ)さん。
http://www.toranoko.info/modules/cont4/index.php?id=8
劇団虎のこ所属。
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