＜日替わり陽気＞
本日は磐音の出番は夜のみなので、姿を見ることは出来ないし、
撮影自体も昼からと聞いていたので、
みらい平駅前10時10分発のバスに間に合う程度に、ゆっくり出た。
コミュニティバスはワープまで100円なので助かるけれど、
日に四便のみだし、おまけに日祝は動かないので、
結局土曜日くらいしか利用の機会がない。
今回の第一次ロケは2月10日〜14日だったわけだが、
晴れて暖かい日と陽射しがなくて寒い日が交互にやって来て、
10日は暖かく、11日はたいそう寒く、12日はまた暖かく、13日はちょっと冷えた。
私のこれまでの見学は11日と13日だったのでいずれも寒いほうで震えたけれど、
日替わりの法則（？）通り、14日は見事晴れて、ぽかぽか陽気となった。
しかし最高20度だなんて2月の気温じゃない！
昨日は手放せなかったストールやコートはお荷物となり、日傘をさしたくなるほど。
急激な気温変化に体がびっくりしてしまう。
あまりの暖かさに、行きのバス車内で眠くなってしまった。
＜午前中はまた園内チェック＞
到着は10時25分。休憩所にはすでにKさんたちが来ている。
昨日はファン見学者が多く20人を超えていたのだが、
磐音さまが見られない本日は、片手で数えられる人数。
今日来ているのは原作も熱心に読み、家基さま登場を見逃したくない面々。
動きがない園内はしーんと静かなもの。
座っていてもつまらないので、また園内を回って様子を見る。
昨日磐音とおこんが歩いていた路地の暖簾類は皆片付けられていた。
撮影のたび、どの場所も違う顔で登場するのだ。
音がしたので振り向くと、ワープ施設スタッフのかたが、
あちこちの戸口や窓を開けていくところ。風を通すのだろうか。
眠っていた街が、ようやく目を覚まし始めたような感じ。
昨日撮影が行われた長屋エリアも、干されていた染物などはすでになし。
干し竿だけが残って、青空にくっきり浮かび上がっている。
長屋手前の建物は、しばしば飲み屋や料理屋として撮影されるが、
のぞき込んでみると「陽炎の辻〜蕎麦屋の中〜」と書いてある
荷物札が残っていたので、先日ここは蕎麦屋として使われたようだ。
長屋エリア脇の奥の方に、新たなセット増築中。
江戸以降の、明治大正昭和の撮影に使える建物らしい。
オープンセットゾーンの武士の館の中は、
荒れ寺の小道具がすべて取り払われ、きれいさっぱり無くなっていた。
館の奥のほうまで進むと、江戸城ゾーンへ向かう白壁の塀の後ろ側に出る。
こちら側に足を踏み入れたのは初めて。
塀の後ろを見ると、まさしくお芝居の大道具のように、
つっかえ棒で支えられたうすっぺらいもの。
道はそのまま林につながっていて、視界から建物が消え、
勾配に沿って木立の続く山の景色となった。
小鳥の声しか聞こえてこない。ああ気持ちいい。
ここがロケ地用の施設の一角だということなど忘れてしまう。
まあ、ここは見学して回るようなあたりではないのだけれど、
ワープステーションは本当に田舎の自然の中に作られているんだなあ。
＜小道具と履物あれこれ＞
ゆっくり回ってもお昼にはちょっと早いが、とりあえずまた休憩所へ。
戻る途中、撮影スタッフが弓を持って帰ってくるのが見えた。
矢が何本も刺さった霞的（かすみまと）を持つひともいる。
家基さま関連のものだろうか。にわかに浮き立ってしまう。
休憩所からは、ガラス越しに楽屋近くの動きが見える。
芝居小屋の看板がかかった建物も楽屋の一部で、
キャストは履物をここで履き替えることが多い。
昨日も見たえんじ色の布草履が表に干してあるが、本日は二足のみ。
「二つだけってことは、きっと霧子とおてんだね」とKさん。
原作第14巻『夏燕ノ道』で、老中田沼意次は家基を暗殺しようとたくらみ、
雑賀衆を差し向けるが、その総頭である雑賀泰造の情婦・女狐おてんと、
磐音に助けられて雑賀衆を抜けることになる少女・霧子は、
女忍者中、重要な役どころ。間違いないだろう。
そのそばには黒い地下足袋も二足。
気になって近寄ってみたら、裏返すように干されている内側の白い部分に、
ちゃんと「霧子」「おてん」と大きく書いてあった。
霧子用のものはマジックテープで留められるようになっているが、
おてん用は12枚こはぜである。大変！
私なんて普通の4枚こはぜでももたついてしまうのに、時間かかりそう。
ちなみにメーカーは地下足袋では有名な「力王たび」。
「はきよい 強い カッコいい」というキャッチコピーが印象的なところだ。
http://www.rikio.co.jp/index.html
小道具係のスタッフが、ぱん、とはたいてそばに置いていったのは、
綺麗な赤い縁取りがされた毛皮ブーツ。
小動物のイタチやテンなどを思わせる明るい茶色の毛。
一瞬、誰の履物だろうと思ったけれど、あとで調べてみると
これは馬上沓（ばじょうぐつ）らしく、狩装束や旅装に使用され、
走る馬の上から的に矢を放つ流鏑馬（やぶさめ）においても使われる。
おそらくは家基さま用のものであろう。
小道具や衣裳の一部などをみると、想像がふくらんでわくわくする。
＜本日の主役、私服でご登場＞
そろそろ食堂にスタッフのひとたちが入り出した。
本日は暑いくらいなので、半袖Tシャツ姿のひとも多い。
去年、9月24日に見学していた時に、これから作るというお知らせがあって、
見学者一同大騒ぎしていた「陽炎の辻」オリジナルTシャツを初めて目にした！
前面に「妄想磐音夢心地」の文字。
後ろには「かげろうの辻」だの「磐音」だのの文字が丸で囲われている。
黒地に赤文字のひとも、黒地に黄色文字のひとも居る。いいなー。
関係者だけのスタッフTシャツだけど、一般販売していただけたら良いのに。
にぎやかになってきた食堂に、すらっと細身の若者が入ってきた。
あれはもしや？と見学者の視線が集中。
昼食のお膳を持って席に着いたのは、予想通り徳川家基役の中村隼人くんだった。
http://www.actors.or.jp/meikan/members/actors/a1145_hayato.html
黒のパーカーに白のインナー、ジーンズ姿は今時の男の子だけれど、
年齢よりずっと大人っぽく端正で、品の良さは隠しようもない。
髪はすっきりと短め。面長で、やはりお父様に似ていらっしゃる。
平成5年11月生まれだから、現在まだ15歳とは信じられない。
Kさんは彼のお父様である元・中村信二郎さんの後援会にも入っていて、
彼のことは赤ちゃんの頃から知っているから、感激もひとしおの様子。
私も彼の初舞台は拝見している。平成14年2月歌舞伎座『寺子屋』の小太郎役。
母親である松王丸女房・千代は玉三郎さんが演じられた。
あの小さかった子が、もうこんな立派な若者になって…としみじみ。
長年の歌舞伎ファンというものは、先代からの移り変わりや、
跡継ぎの誕生、成長も目にしてきているので、なんだか身内感覚なのだ。
お父様の信二郎さんは、一昨年長らく途絶えていた中村錦之助を襲名なさった。
時代劇の大スターだった叔父・萬屋錦之介さんの歌舞伎役者時代のお名前。
二代目となった錦之助さんは端正な二枚目で、私にはいまだ若衆のイメージが強い。
同じく容姿に恵まれた隼人くんも、お父様の役を継いで頑張っていただきたいな、
などと感慨にふけっている間に、若君はお行儀よく食事を終えられ、
お付きのかたと共に出て行った。
殺陣師の竹田先生もやってきてお食事。先生も今日は白の半袖Tシャツ。
耕史くん並みにさっさと食べて退出。
本日のメニューはカレーライスのようなお皿と具のように見えたけど、
香りはしなかったので、シチューか何かなのかな。
＜オープンセット池の土左衛門＞
さあいよいよこれから衣裳を着けた家基さまがお出ましなのだな、と
一同気持ちが高まったが、なかなかお姿は見えず。
風も少しあるようだし、段取りが整わないのかもしれない。
落ち着かないので、撮影準備はどんなものだが、江戸城ゾーンのお堀のほうへ
様子を見に行こうとすると、オープンセット側の門のあたりに人だかりが。
もう何か撮影してるのかな、と後ろから覗いてみると、
すっかりおなじみの小橋のある池に、役者さんが身を沈めている。
顔から胸にかけては水の縁にもたせかけるようにしているが、
下半身は完全に水のなか。額を割られたような傷が見え、動きはない。
そういえばさっき楽屋近くで、この傷メイクをしたひとが歩いてたっけ。
察するに、誰かに襲われて水死した土左衛門の役なのだろうか。
回りには大勢のスタッフが居て、忙しげにさまざま準備しているが、
アングルが決まらないのか、手間取っている様子。
役者さんはその間、まったく同じ姿勢で水に浸かりっぱなしだった。
カメラのかたも水に入ってゆくが、
こちらは釣りのひとが穿いているような長靴ズボンで身を守っている。
いくら今日が暖かいとはいえ、薄い着物でずっと水のなかに居るのは大変だろう。
先日のように寒い日だったら、と考えるだけでぞくぞくする。
今日の暖かさは、このひとの撮影のためにあったのかもしれない。
＜家基さま、江戸城へ＞
しばらく見ていたが、進展はなさそうだったので踵を返すと、
Kさんたちが向こうから駆けて来た。しまった！すでにお出ましか。
あわてて合流し、武家屋敷前の規制チェーン近くに急ぐと、
駐車場側から現れたのは、きちんと衣裳を着けて役の人となった家基さま。
まあ凛々しい！
細面に涼やかな月代がぴたっとはまり、
綺麗な水色の小袖に濃藍の文様、白の袴には金の模様。
左半身につけた弓籠手（ゆごて）は細かい文様の入った橙色。
弓掛けはえんじ色の地にからし色の梅紋のような模様。
足下は清らかな白足袋。お草履の鼻緒は金茶がかった有職模様。
身に付けたすべてがしっくりと納まって、なんと素敵な西の丸さま。
聡明そうで品があって、まさに磐音がお守りすべきお方と見える。
若君はお付きのかたや小道具さんと一緒に江戸城へと歩を進められ、
恐れ多いことながら、我らも御側に付いて同行。
小道具さんが持つ家基さまの刀は、柄巻（つかまき）も下緒（さげお）も白で、
黒い鞘には、鯉口近くと、真ん中と、鐺（こじり）近くの三箇所に
金色の葵のご紋が入っている。
弓も黒と金のだんだら縞。長さはやや短めのよう。
お堀を渡り、正面の大手門をくぐったあと、右手へ。
扉の向こうには日本庭園があり、すぐそこに大きく葵のご紋の天幕が張られていた。
天幕の手前側は引き上げられていて、若君はそこに立ち、弓を持たれる。
奥にある的までは見えないが、そちらを向いて構えるので、
門の手前に立つ私たちから見えるのは、横顔と左半身。
ここで弓を引かれるんだな、とどきどきしたが、この時は位置決めだけだったらしく、
すぐに今来た道を戻っていくので、同じくお供をして待機。
あまり間をおかず、再び同じコースを辿って江戸城庭園へ。今度は本番のよう。
＜弓を引く家基さま＞
家基さまは姿勢よくすっくと立たれ、両足を踏み開き、
弓構えして矢を番え、きりきりと弓を引く。
矢を放ったあとの残身も綺麗。すっと手がまっすぐ伸びている。
向こうでぱん！と良い音がしたので、筋は良いらしい。
やはり午前中、ここでお稽古をしていたのだろう。
しばらくはまだ練習のようだったが、小気味のよい音が続く。
竹田先生が側に立って動きを付けているのも見えた。
先生は斬り合いの殺陣だけじゃなく、何でもなさるんですね。
そのうち、御側の家来衆と思われるエキストラさんたちもやってきて、
本番撮影という感じになると、天幕は全部下ろされて、
残念ながら私たちの視界からお姿が見えなくなってしまった。
それでも今まで、予想したよりずっと良く見られて幸運だった。
江戸城ゾーンの撮影だと、まず殆ど見られないだろうから、
行き帰りのお姿を拝むしかないだろうと思っていたのに、
弓を引く場所は、見学規制チェーンの間近と言えるあたりだったし、
途中まで天幕が一部下ろされていなかったのもありがたい。
幸運はさらに続き、時折強まる風が天幕を揺らして、
その時だけ、お姿は雲が吹き払われたように垣間見られた。
すぐそこなのに、きらきらと明るい別世界。
暑いような陽気のなか、若君たちは大変だったことだろうが、
見学の私たちは門の陰で楽に見られて、申し訳ないくらい。
水筒でのどを潤しながら、この場にずっと立ち会っていた。
＜早めの切り上げとバス路線＞
弓場面の撮影は、2時をだいぶ回ってから終了。
城をあとにする家基さまに「お疲れさまでした」と声をかけて、
私たちも休憩所のほうへ。
さすがにほっとしたような表情の若君は楽屋のほうへ。
しばらくして、鬘はそのままに、素肌にパーカーだけはおった姿で
出てくるのが見えた。頭があれではTシャツはかぶれませんものね。
3時近くなったし、4時の閉園まで、もうあまり動きはなさそう。
Kさんほか3人は最後まで居るということだけれど、
私は一緒に来たお友達と共に、3時34分発のコミュニティバスで帰ることに。
このバスは循環で駅までぐるっと大回りして行くから、
来る時と違って50分ほどかかってしまうが、先を急ぐわけでもないし、
一度乗ってみたかったのだ。
http://www.city.tsukubamirai.lg.jp/map/community/south/south_map.htm
狭い道はもとは田んぼ道だったのだろう。実際あたりは田んぼだらけ。
田んぼの中にお墓が立っているのも、あちこちで目に付く。
いかにも昔ながらの田舎の景色。神社と竹林と川の流れ。
途中にある「間宮林蔵記念館」がどんなものだが、一度見てみたいけれど、
ここで下車しては次のバスがないので、致し方ない。
伊奈町の図書館は近年建ったものらしく、デザインも素敵で良い感じ。
のんびりとローカル路線を楽しんで、みらい平へ。
4時までワープに居てからタクシーで来たKさんたちのほうが先に着いていて、
同じつくばエクスプレスで帰途に着く。
これから磐音たちがワープ入りするのだと思うと残念ではあるけれど。
次のロケ予定は3月10日頃とのこと。でも予定はあくまで予定。
近くなってみないと分からないが、都合が付く日だと嬉しいな。
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