＜午前中は園内チェック＞
撮影は昼からと聞いていたのだが、今までも急に予定が変わって
早い時間からやっていた例もあるし、一応9時半開園と同時にワープ入り。
通い始めると、なんだかそれが当たり前の仕事のような気になってしまう。
しかしやはり予定通りらしく、スタッフも見えず静か。
とりあえず園内をぐるっと回り、撮影準備されている場所があるかどうか確認。
お太鼓橋近く、橋のたもとや廻船問屋付近に
葦張りの小屋が見えているがひと気はなし。
お太鼓橋を渡り、店の通りから折れて長屋ゾーンに向かうと、
初めてスタッフの方々の姿を見かけた。
狭い通路の上に、竿がたくさんかけられているのを目ざとく見つけたKさんが、
「あ、また染物の布を干すんだね」と言う。
長屋の入口門の上、「紺屋 宣助」「仕立」などという名札が
たくさん掲げられたなかに、「縫箔 江三郎」の名もくっきりとあがっていた。
やはり先日見た場面の続きで、おそめの弟子入りあたりを撮るのだろう。
磐音とおこんが付き添うのは確実だろうが、
このエリアの撮影には近づくことが出来ない。残念。
踵を返して、奥のオープンセットあたりも回ってみる。
荒れ寺になっていた館は、倒れた柱や大きな仏具などでいっぱいだった
先日ほどではないけれど、まだ少し道具が残っている。
つくりものの蜘蛛の糸が縁側に落ちていた。やはりこれは真綿だ。
昔は祖母が布団だの綿入れだのの中に、うすく伸ばして広げていたっけ。
真綿って綿じゃなくてくず繭だから、
実は絹だということは大人になってから知ったこと。
＜前日（2月12日）のトピックス＞
前日にメールで報告を受けてはいたけれど、
歩きながらもKさんから改めて12日ロケの詳細を聞く。
平日の連続見学はむずかしい私にとって、
見学皆勤の彼女の報告はいつもありがたい。
なんといっても橋の上でおこんと奈緒が出会う場面があったというのが、
一番の驚き。
シリーズ3のキャストにも笛木さんの名があがっていたのは知っていたけれど、
別人なのか、回想の奈緒なのか、
もしくは原作の最近の巻で再び奈緒が出てくる話をやってしまうのか、
ファンの間でも話題になっていたのだ。
ちなみに奈緒は紫の御高祖頭巾（おこそずきん）姿だったとか。
それは綺麗だったろうな。見てみたかった！
御高祖頭巾といえば『摂州合邦辻』の玉手御前を思い出してしまう。
原作ではおこんと奈緒は顔も合わさず、言葉を交わすこともないから、
「…奈緒さまではありませんか？」と、
おこんがためらいがちに声をかけるというのはドラマオリジナルの設定だが、
「大丈夫です。必ずなんとかなります。奈緒さまが選ばれたお方ですもの」
と励ましていたという台詞から推察するに、
やはり蔵之助（原作表記は内蔵助）が窮地に陥る第二十六巻『紅花ノ邨』の
騒ぎが描かれるのだろうか。
読本所収の番外編『跡継ぎ』エピソードも繰り入れられるようだし、
家基さまがらみで忍者の雑賀衆も出るようだし、
全14回がどの挿話をピックアップしどんな展開を見せるのか、気になるところ。
＜早めのお昼と午後準備＞
一回りして休憩所に戻ったが、時刻はまだ11時にもならず。
半分仕切られてスタッフキャスト食堂になっている向こう側からは、
揚げ物の匂いが漂ってきて、食欲が刺激されてしまう。
本日のメニューは魚のフライ（鯵かな？）、豚肉炒め、千切りキャベツなど
野菜の付け合せらしい。大量のフライがバットに並んでいる。
長屋での撮影にのぞむらしい職人姿のひとたちが、ちらほら姿を見せ始めた。
さきに撮ってしまうためか、お汁をさっと飲んで出てゆく。
藍染の紺屋職人らしく、手先を真っ青に塗ったのが青鬼めいているような。
おそめちゃんも食堂にやってきて、お行儀よく食べているのが見えた。
ジャケットの下の着物は黒地に花柄で、衣裳ではなく私物らしい。
撮影では地味な縞木綿姿ばかりだけれど、可愛らしいこと。
足下は銀色のヒールサンダル。やはりいまどきの女の子。
撮影開始時にさっと動けるよう、私たちも一緒に持参のパンなど食べる。
休憩所前の楽屋近く、芝居小屋の前あたりは、
小道具大道具の出し入れが目に付く。
オープンセットの荒れ寺付近のものを撤収してきたらしい
石灯籠だの破れ壺なども置かれていたが、
草鞋のようなものがずらりと並んで色とりどりなのは何だろうと思い、
そばに寄ってよく見ると、布草履だった。えんじ色と黒もあって目立つ。
草鞋と思ったのは、足に結わえ付けるための長い紐が垂れていたからだが、
Kさんの説明によれば、これらは雑賀衆の履物。
えんじ色は女忍者たちの着用分だとか。なるほど。
納得して休憩所に帰ろうとしたら、楽屋からさっとおこんちゃんが出てきた。
夏にも見た黒地に大きな花柄の浴衣のようだったが、
足下は薄い青磁色というか、白緑のような色のムートンブーツなのが可愛い。
冬には冬の装いが見られて楽しいな、と思った折も折、
小道具担当のスタッフが、黒いブーツを持ってきて、ぱんぱん、と叩いた。
これもムートンブーツのようだが、なんと足首部分に赤い紐が巻かれている。
黒に赤の差し色のブーツ！
スタッフ手作りの磐音仕様防寒靴？！と見学者一同色めき立つ。
すごいなあ。スタッフのこだわりは徹底している。
確かに肌色足袋より、こちらのほうが暖かいでしょうね。
耕史くんのお兄さんが姿を見せ、食堂から二人分のお盆を運んで行った。
戸口はどうやって開けるんだろうね、と皆して心配してしまったが、
とにかくそろそろ主役のご登場らしい。
＜午後撮影は長屋から＞
そうこうするうち、衣裳に着替えたおこんとおそめが並んで長屋のほうへ。
おこんちゃんは上着を羽織っていないので、衣裳がよく見えたが、
11日と同じ青磁色の着物に薄紫の帯。着物とブーツの色みがほぼ同じで、
ちゃんとコーディネートしてるんだ、と感心。
おそめちゃんも先日と同じ縞木綿。
磐音と三人揃っての「外での昼餉」に出かけた時と同じ格好だ。
磐音さま用防寒ブーツも運ばれていったので、
そろそろお出ましかと待つほどに、予想外に遠い戸口ががらっと開いて、
黒ブーツを履いた磐音さまが、早足でずんずん大店通りに向かうのが見えた。
お太鼓橋まで一直線。皆々あわてて後を追う。彼は本当に足が速い。
あっという間に一人で橋を渡って、長屋ゾーンに行ってしまった。
少したってからお兄さんとお世話係のスタッフが、息せき切って走ってきたのは、
遅ればせながら置き去りにされたのに気付き、あわてて来たものらしい。
御付きの者、殿に遅れを取るの図。
狭い長屋での撮影は、そばに近寄ることさえ出来ないので、
見学者は廻船問屋側に張られた規制チェーンぎりぎりに待機し、
建物の隙間から、はるか彼方を透き見するかたち。
その隙間も葦掛けがふさいでいるので、お姿は御簾越しという感じ。
もどかしいけれど、あのすらりとしたシルエットは遠くからでも分かる。
横からだとなおのこと目立つ大刀の長さ。
長屋入口から狭い通路奥への動きを繰り返して、ここの場面は終了した模様。
＜おこんとの二人歩き＞
いったん引っ込んで、おこんちゃんは衣裳替え。
耕史磐音は廻船問屋側へ回り、そこでしばらく関係者の方と熱心に話をしていた。
私たちのほうが橋の上から川縁の磐音を見下ろすという、いつもとは逆の構図。
橋の上に立つとあたり一面視界が広く、ああ、彼はいつもこういう景色を
見ているんだなあと実感した。橋の上の撮影を見ることが多いので、
私たちはなかなかここでゆっくり見回すことがないのだ。
ややあって彼の姿は見えなくなり、しばらく待機状態。
手持ち無沙汰の見学者たちは、動きを求めてお太鼓橋の上からあちこち眺める。
笠をかぶった怪しげな浪人が現れて、「あれ誰？」といっせいに向けられる双眼鏡。
しかしその時磐音もおこんと共に姿を見せていた。
お太鼓橋のたもとからほど近い、大店通りの裏手水縁に立っている。
油断大敵。各々方、監察に気を緩めることなかれ。
再登場したおこんの姿は、紫地の絣の着物に、帯はクリームがかった白地、
草色で花菱や唐草が入った柄。
二人並んで、小橋の見える小路を歩いてゆくのを撮るらしい。
見学者は各々どこから見るべきか思案し、二手に分かれた。
お手洗いのある、廻船問屋裏側からの隙間からだと、遠目ながら顔が見える。
お太鼓橋たもと側から見えるのは歩き出す前の後ろ姿だが、
どきっとするほど近々と見え、絵のように綺麗。後ろ姿も惚れ惚れする。
歩き出すと見えなくなるけれど、この近さは捨てがたく、
最初はしばらくお太鼓橋側から眺めていた。
テスト、本番と繰り返されるので、その都度二人はこちらに帰ってくる。
監督が「おこんさん、ちょっと磐音の後ろに。心持ちね」と
動きを修正する。肩を並べて、ではなく一歩下がった感じか。
さきほど橋の上から見えた怪しげな浪人は、廻船問屋側の物陰から
様子を伺っていたらしいが、見える範囲で磐音たちとのからみはなかった。
店の角から歩き出す二人。
「ほんっとに長屋の人たちったら口さがないんだから」とおこん。
「それもまた良し」と、穏やかに磐音が返す。
台詞はせいぜいこのあたりまでしか聞き取れなかったので、
対岸側にも回って眺めてみると、
おこんはくるりと磐音に向き直り、「大変よー！」と脅かし、
「冗談よ。ちょっと驚かせたかっただけ」とおどけてみたとたん、
「あ！」とバランスを崩す。さっと手を伸ばして助けようとする磐音。
動きと台詞はこれだけだが、例によって何度も何度も繰り返し。
＜鼻緒挿げ替え＞
おこんはこの時、ぷっつりと鼻緒を切ってしまうらしく、
磐音が助け起こして、鼻緒を挿げ替えてやるらしい。
しゃがみこんでの芝居ではあるし、遠目にはまるで見えない。
路地の入口付近に移動しても、スタッフが折り重なるように見えるばかり。
しかし、その手前に陣取ったテントの中のモニターが、
珍しく私たちにも見える位置にあったので、画面に集中。
袖か懐あたりから取り出した小布をぴりりと割き、くるくると縒ってゆく磐音。
おこんは彼の肩に手を掛けて立っている。
カメラがおこんの表情に迫り、回り込む。
足下で一心に作業している磐音を見おろすその顔は、
本当に彼を信頼しているというか、しみじみと嬉しそうに見えた。
いいないいな。
切れてしまった鼻緒を挿げてもらうというのは、
胸がきゅん、とときめくような状況だなあと思う。
樋口一葉の『たけくらべ』の中でも、雨の中で鼻緒を切ってしまった真如を
見かけた美登里が、端切れを渡してあげようとする場面があったっけ、
などと連想してしまった。
＜床机でひと休み＞
このシーンの撮影はかなり長引いた。
切れた鼻緒を見せるため、おこんの足下アップなどもあるらしく、
彼女単独の撮りの時、磐音は床机に座って待機。
休憩中の足下は磐音カラーのブーツである。
本日もそこそこ寒いのだが、足下の暖だけで足りるのか、
綿入れはまったく使っていない。
座って足を組んでいると、黒の着流しの裾の赤、黒ブーツ、赤紐が
段重ねに響き合って、とても綺麗。
黒と赤のブーツ姿は、ちょっと中国の武術家のようにも見える。
少し風が強まってきて、布がはたはたとなびく。
足を組み替えたりする時、着物の下に黒のスパッツをはいているのが分かった。
私は遠くても肉眼でしか見ないけれど、双眼鏡で見ていた人によれば、
口の動きからすると、何か歌っていたようだとか。
以前も橋の上の撮影の合間に歌っていたことを思い出す。
彼の体のなかには、いつも音楽があるのだろう。
＜本日はまずこれ切り＞
冷たい風の吹く中、ジャケットを羽織って待機中のエキストラさんも見えたが、
風のせいで思うような絵にならないのか、動きはない様子。
ともあれ、いったんこの場は終了のようで、磐音とおこんは楽屋へ。
すでに閉園の4時までそう時間もない。
翌日がバレンタインデーのせいもあってか、ファンからプレゼント攻め。
両手いっぱいになって引っ込む耕史磐音。
おこんちゃんにも見学者からプレゼントあり。
翌14日の磐音の出番は夜のみとのことで、お姿はまず拝めないようだが、
家基さまご登場とのことなので、張り切るKさん。
私もそれは是非見たい。翌日を約して家路につく。
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