mixiユーザー(id:949383)

2008年11月21日03:17

663 view

「陽炎の辻2」第十一回<夢はるか>(11月15日)

演出:梶原登城

メインエピソードは、原作第十六巻『蛍火ノ宿』第二章「白鶴の身請け」
第三章「禿殺し」第四章「四人の容疑者」第五章「千住大橋道行」 の要所要所。
今までどんな客の身請け話にもなびかなかった白鶴花魁が、出羽の国山形の
紅花商人・前田屋内蔵助の申し出を受けたと聞き、心波立ちながらも寿ぐ磐音。
しかし、そのために白鶴に陰湿な嫌がらせが相次いでいることから、
吉原会所に泊まり込みで警護につとめる。
一連の騒ぎは、白鶴を逆恨みした遣手と遊女の姉妹、
以前袖にされた恨みのある大口屋がぐるになっておこしたものと知れ、
かどわかされた彦屋の女将は救出したものの、黒幕たちを取り逃がしてしまう。
なんとか白鶴が吉原を発つ前日を迎えた夕べ、磐音は思いがけず呼び出され、
襖越しになつかしい奈緒の声を聞く。
その一方で磐音に置き去りにされ、今津屋での立場の変化も身に染みたおこんが、
次第に心鬱していくのは、十七巻『紅椿ノ谷』最初のあたりの状況をも含んでいる。

ここに来て白鶴の話も一気に大詰め。
吉原舞台、奈緒と磐音の話とくれば、演出は言わずと知れた梶原さん。
吉原の紅、夜の青など、画面は鮮やかな色に染まり、
カメラはぐぐっと一気に迫り、回り込み、魔法にかけられたように時が過ぎ去り、
いつのまにか終わりとなっている。しかしここで次週に持ち越しとは!
最後の「つづく」の文字が、今回ほど衝撃的だったことはなかった。
まあ、時間的に多分こうなることは分かってはいたのだが…
それにしても、苦悩する磐音の姿は、なんと色っぽいのだろう!
切ない顔をさせたら天下一品。冒頭、夢から覚めてがばっと起きる場面の
玉のような汗も、放心した表情も、目に焼きついてしまう。

奈緒の揺るがぬ毅然としたうつくしさにも目を奪われたけれど、
今回のおこんは本当に可哀想でならなかった。けなげに振る舞っているものの、
仕事の面でも磐音のことでも、自分の立場のあやうさに心が屈してゆくのが
手に取るように分かる。これでは気鬱にならないほうがおかしいというもの。
おこんの心が沈んでいく描写は、ドラマならではで繊細。
ああ、あと一回で決着をつけるのが勿体ない。もっとたっぷり!と叫びたくなる。

<種々雑感>

・奈緒への想い

白鶴の身請けが決まったことを知らされた磐音の目は、
さざなみの立つように揺れ動く。
聞けば聞くほど、まぶちが赤らみ、うるんでくる瞳。
頭では奈緒と白鶴は別人、もう自分とは関わりのない者だと
割り切ったつもりでも、湧き上がる感情には逆らえない。
「それは重畳」と口角を上げながらも、なんと切ない目。
白鶴が、奈緒が、他の男のものになるということは、
やはり胸を刺すことなのだ。

身請けするのは出羽山形の紅花商人と聞いて、夢を思い出す磐音。
多くの人々が行きかう街道の真ん中に立ち、振り向く奈緒。
町娘のような橙色の着物に黒繻子の衿をかけ、手には紅花。
「磐音さま」と呼びかける声。あれは正夢だったのか。
そんな思いがつのって、四郎兵衛の声がふっと意識から遠のいてしまう。
本当に短いカットなのに、あのイメージショットは印象的。
(ちなみにこの撮影は8月31日に見学しているが、
 せっかく奈緒さんの帯に入っていた簪の模様は、
 短い映像ではとらえようもなくて、ちょっと残念)

・四郎兵衛

大きな神棚を背にして、どっしり構えた存在感の大きさ。
度量のある男とはこういうものか、と感じ入ってしまう。
「我々は花魁だろうと禿だろうと、
 吉原に居る者の身を守る務めを負わされております」
「何としてでも下手人を突き止めねば、会所の意地が立ちません」
今回はことに説明台詞の多い四郎兵衛だけれど、
その独特の節回し、舞台のように芝居がかった台詞は、
渋く深い味わいがあって、堪能した。
最後に星月楼に招かれて行く磐音を、見送る表情も忘れがたい。
まさに大人の男。

・吉原という世界

隠し扉のくぐり戸を抜けると、そこはもう別世界。
三味の音が聴こえ、ふわっとざわめきがやってくる。
青と銀の市松模様の襖、べんがら色の襖や格子。
通された部屋はこれまた豪華絢爛な絵天井、欄間の孔雀の彫り物、
青一色の壁に、螺鈿の屏風、真ん中は赤布を掛けた丸テーブル。
目黒雅叙園を思わせる、これでもかこれでもかの装飾。
磐音が思わずあちこち眺めてしまうのも無理はない。
あくまで人工的な、めくるめく世界。
映画「さくらん」の色彩の饗宴を思い出した。

白鶴を脅すために荒らされた座敷の場面なぞは、梶原映像美の面目躍如。
青い光に照らされ、打ち掛けも青の白鶴が、
おびえて抱きつく禿をかかえ、屏風を見つめる斜めや俯瞰の構図。
腕をすり抜けて歩み去る猫。撒き散らされた夥しい紅花。
倒れた雪洞といい、ひっくり返った雛壇のよう。
第四回「白鶴の宴」の、血染めの折鶴を彷彿とさせる。

それにしても、どう飾っても、ここは色街。
男と女がことを為す世界であることに変わりはない。
去年のシリーズでも、吉原に初めて入った磐音が、
座敷奥の緋色の布団や二つ枕に反応して、動揺していたことを思い出す。
吉原にいる間中、磐音は愁いに沈み、何かに耐えているような
けむった表情をしていると思う。
あ、でも刀を一閃して下手人の小勝の髷を落としたあと、
ニッと笑みを浮かべたのは、いささか磐音らしくないような。

・磐音の誠意

「いかようにもこの身ををお使いください」と四郎兵衛に言い切り、
最後には「それがし、影となって山形城下まで従います」という決意に、
吉原を守る四郎兵衛は得心の笑みを浮かべるが、
見ているこちらはおこんの気持ちを思って、はらはらする。
いかにも磐音らしい献身だけど、一点集中型の彼は、
その場その場で誠意を尽くそうとするあまり、
他のことが頭から消し飛んでしまうのだろう。
ここ数回は、奈緒のことなど無きが如きふるまいだったのに、
今回は、完全におこんのことが抜け落ちている。

つい先頃、「誠心誠意おこんさんに尽くします」と言ったのも本気なら、
去年のシリーズで、藩騒動の決着をつけるため、関前藩に立ち戻った際、
妹の伊代に「兄上、いつかお戻りになってください」と言われて承知するのも
決して嘘ではないのだが、余所目には不実な八方美人のように見えなくもない。
むろん磐音が他を傷つける気などさらさらないのは分かっているけれど、
つくづくうまく立ち回ることが出来ない、損な性分だなあ。

・おこんの立場

幼い時から今津屋に奉公し、若いながらも奥のことを取り仕切ってきたおこん。
前のお内儀・お艶は体が弱かったから、実際の采配はおこんの肩にかかっていて、
大変ながらもやり甲斐があったことだろう。
お艶は姉のようにやさしく、彼女も心から慕い、主人夫婦に尽くしてきた。

旦那様のお出かけと言えば、お着物はこれ、と用意して来てみれば、
吉右衛門はお佐紀が誂えた着物を着せられて悦に入っている。
あ、もう自分の出る幕ではない。このさみしさ。
彼女の気持ちが痛いほど分かる。可哀想に。
さすが吉右衛門は、おこんの気持ちに気付いて彼女を立てようとするが、
基本的に今は新婚ほやほやラブラブ状態で浮かれがちなので、
身の回りの世話をお佐紀に引き継がせるというシフトを、
よく考えていなかったのは否めない。

お佐紀のほうは、完全におこんへの配慮が足りない。
今は幸せに夢中になっているせいもあるが、これが若いということか。
傷つけていることに気付いていない、無邪気な残酷さ。
(お佐紀の名誉のために言えば、原作ではこのようなことはなく、
 この場面はドラマのオリジナルなので、ちょっと印象が違う)

磐音の顔を見たくて長屋に来て見れば、大事なひとはお留守。
吉原へ行ったというだけでなく、余計なことまで聞かされて、さらなるショック。
私っていったい何なんだろう。私は必要とされてないんだろうか。
磐音の部屋のあがり口に座り込んで、ひとり夜空を見上げるのは切ない。
ああ、また月を見ているおこん。さみしい後ろ姿。
「婿どのもつれないねぇ。
 今津屋に寄って一言言ってくれりゃいいじゃねぇか、なあ」
金兵衛さんの親心も泣ける。

お位牌にお花をそなえて、けなげに耐えているのは、留守宅を守る女房の趣。
おこんが供えるお花、原作では菊の花のはずだけど、
まるで小さなひまわりのように見えた。
まあ、ひまわりもキク科の仲間ではあるけれど。

・武左衛門と柳次郎

柳次郎くんは、なんだかいつも金兵衛長屋に入り浸りで、旦那とセット行動。
母上の内職を手伝わず、竹村の旦那にばかり付き合ってて大丈夫なのかしら。
旦那ときたら、おこんにも磐音にも、ずけずけぐさぐさの台詞続き。
「花魁のために泊り込みか。
 もしかすると久しぶりの逢瀬を楽しんでおるかもしれんの」
「許婚だった女だ。身請けが決まったとはいえ、坂崎さんだって会いたいはずだ」
いかにもオヤジ的発想で、にやにやしながら繰り出されるこれらの言葉は、
おこんの胸を突き刺して、どれほどダメージを与えたことだろう。
しかも本人は全然気付いてないのだからタチが悪い。
ああもう、柳ちゃん、もっとちゃんと止めてよ、とやきもき。

「坂崎さん、あんたの本音はどこにある」
「花魁、いや、奈緒という女を出羽の国なんぞにやっていいのか。
 男と女はそう簡単に割り切れるものでもあるまい」
原作では、この台詞は磐音に関わる浮世絵師北尾重政の言葉なのだが、
痛いところを突いている。
「それがしとは無縁の者です。そう決めたのです」と、口角を上げて
応える磐音だけれど、その視線は伏せられている。
「人それぞれ、歩む道は違います。しかし、ありがたい」
磐音は微笑んで言うけれど、武左衛門はあきらかに承服し難い顔。

そのあとの見張りは、久しぶりの凸凹三人組の絵が面白かった。
雛菊につなぎをつけに来た菅笠の男を追う磐音と柳次郎に対し、
角を曲がると竹村の旦那はひとり握り飯を頬張っているのが笑える。
ほんとにこのひとは可笑しいなあ。

・破れ寺での殺陣

原作では、黒幕となる雛菊の客は、傾きかけた蝋問屋の主だが、
ドラマでは分かりやすく、「白鶴の宴」の時と同じ大口屋。
その腹違いの弟・野狐の豹次ややくざ者、剣客などが潜んでいる破れ寺に、
踏み込んでいく磐音たち。
「会所の犬が!」との声を浴びせられながらも、
すさまじいスピードで切り込んで行く。
外へと逃れる一同を追い、かかってくる二人同時の攻撃を、
前に後ろにと振り回す刀の動きはあまりに早く、
何が起こったのか追いつけないほど。
ひらりと飛び、続けざまに刀が振るわれ、瞬時につけられる勝負。
このひとの立ち回りは、どこまで進化してゆくのだろう。
青い月光のなか、竹と茅葺屋根をバックに立つ磐音のうつくしさと、
鬼神のようなすさまじさ。いつも息を詰めて見てしまう。

・襖越しの再会

一味にかどわかされていたのを救われた彦屋の女将が
礼を言いたいということなので、星月楼に出向く磐音。
通された部屋に陽は傾き、金屏風や窓のすだれが見え、
遠くかなかなの声が聞こえる。
襖向こうの音に気付いて「女将どのか」と声を掛けた時、
しばらくの間のあとに返って来たのは、
「…お久しぶりでございました」という、忘れもしない静かな声。
目を瞠って声も出ない磐音と、見えないながらも頭を下げている奈緒。
襖のあちらとこちらで、万感胸にせまる二人。

花魁の化粧をしていない奈緒。八朔の白袷の白無垢姿。
どんなにどんなに、磐音に会いたかったことだろう。
見ているものまで、胸しぼられるよう。
ここにインサートされる、橋の上で鼻緒を切ってしまうおこんの姿。
何か不吉な虫の知らせのように。

このあとの展開は分かっているとはいえ、
ここで切られてしまっては、なんとも落ち着かない一週間。
ついに次回で最終回。心して見届けます。

<ゲスト俳優>
今回は人数が多かったので、手早くご紹介。

・お柊(しゅう)役は月船さらら(つきふね さらら)さん。
宝塚の男役だったかた。退団後、映画「さくらん」にも出演されたとか。
http://www.cubeinc.co.jp/members/prf/115.html

・妹の遊女雛菊は吉田彩香(よしだ あやか)さん。
モデルさんだけあって綺麗でぱっと目立ちました。台詞は特になし。
http://www.gunns.jp/model/print/ayaka_yoshida.html

・彦屋の女将お久美役は、吉本選江(よしもと よりえ)さん。
青年座所属のかた。
http://www.weblio.jp/content/%E5%90%89%E6%9C%AC%E9%81%B8%E6%B1%9F

・野狐の豹次役は、新家子一弘(しんやこ かずひろ)さん。
スタントマンなども勤めるアクション俳優で、
ブレイクダンスや殺陣が特技とか。
http://www.weblio.jp/content/%E6%96%B0%E5%AE%B6%E5%AD%90%E4%B8%80%E5%BC%98

・小勝役は、大竹周作(おおたけ しゅうさく)さん。
劇団円所属。「こころ」「徳川慶喜」などTV出演もあれこれと。
http://news.goo.ne.jp/entertainment/talent/M93-0590.html

・剣客の財膳役は横山一敏(よこやま かずとし)さん。
JAC所属のアクション俳優。仮面ライダーや戦隊ものなど、特撮作品に
多数出演。
http://www.wildthing.co.jp/wolves/shout/prepre/cs/yokoyama.html

・仁科役は縄田雄哉(なわた ゆうや)さん。
こちらもスタントや殺陣主体のアクション俳優。
http://news.goo.ne.jp/entertainment/talent/M08-0705.html
0 7

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2008年11月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      

最近の日記

もっと見る