『
チリの闘い』
<第一部:ブルジョワジーの叛乱>
9.11と聞けば大半は米国ツインタワーでの旅客機テロを思い浮かべるだろう。
しかし、歴史には他にも重要な9.11がある。
それは1973年チリで起きたクーデター勃発の日。
本作『チリの闘い』は史上最高のドキュメンタリー映画という触れ込みだが、あながちそれも誇大ではないと感じた。
モノクロの画面を通して、40年前の生々しい様子が伝わってくる。
全編通すと4時間半近くなるという大作に腰が引けていたが、観てよかったと思う。
1970年にチリで誕生したアジェンデ政権は自由選挙で選ばれたにもかかわらず、冷戦時代の社会主義体制というだけで裏から米国に理不尽な介入をされる。
(歴史は繰り返す…ではないが、確かアルカイダにも似たようなことを…。)
歴史的価値が高いのはもちろんのこと、右傾化がささやかれる日本にとっても他人事ではない気がする。
緊迫の軍事クーデターのいきさつは第一部と第二部でワンセットの構成。
動画でアジェンデ大統領を見るのは初めてだが、なるほどリーダーとしての風格を感じる。
目に付くのは富裕層の生活ぶりと庶民の素直な発言。政治が日常生活に浸透しているのだな。
同時期のチリを舞台にした『コロニア』を鑑賞していると理解の一助になるかと思う。
<第二部:クーデター>
民衆と右派&軍部との決裂が決定的になり、一気にクーデターへと突き進む過程が見て取れる。
クーデターには陰で米国(CIA)が仕掛けた事情があったので、米国テロの9.11の時に世界が同情していた時にチリの国民の多くは冷ややかだったと聞くが、これを見ればそれも頷ける。
思うようにアジェンデ政権を引きずりおろせない右派や米国の焦りが伝わると同時に緊迫度を増してゆく。
これほど卑劣な手段で米国が手を回していたとは、今見ても憤りや怒りを覚える。
後に独裁政権を敷くピノチェトの人物像も興味深いものだった。
教会を支持母体とする政党と与党との駆け引きもスリリングで見ごたえがあった。
労働組合の代表一人が不満を一気にまくし立てるシーンは圧巻。
この切実な願いに心を打たれる。
そして、その日が訪れる。
<第三部:民衆の力>
ガラリと変わって第三部は、政権抗争の裏で“国の主役”である庶民の姿を捉える。
個々が集まり、地域ごとに民衆の力を結束していく様子がうかがい知れる。
右派や地主など富裕層が理不尽で身勝手な搾取さえしなければ、彼らも集団を作って自衛することはなかったのではないか。
そう思うと、ソビエト型の社会主義に行きついたのも必然だったのかもしれない。
結局、米国は自分たちの影が敵を作っているのではないか。そんな疑問も浮かんでくる。
フィルムからはいかにアジェンデが庶民に愛されていたのかが手に取るように伝わる。
労働者は誇りと生きがいを感じているように見える。
歴史の表舞台である第一部と第二部を補足する構成は映画に厚みを増している。
逮捕・拘留されながらも運よくフィルムを運び出せたパトリシオ・グスマン監督の幸運もあるが、クーデターが起きる前からカメラを回していたという(これから起きる何かの)“匂い”をかぎ取る才能も確かなものがあったのではないか。
“自力で走る”リアカーも意味深だ。
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