『
her/世界でひとつの彼女』
「完璧な人間はいない」
ある有名な映画の決め台詞だが、まさにその通り。人間が完全であるはずもない。
他人とコミュニケーションをとるのが苦手な人は今どき珍しくない。
また、コンピューターの発達でAI(人工知能)が人間と対話できる可能性も絵空事とは思えなくなってきている。
AIと恋愛すると書くと、どうにも嘘くさく安っぽいラノベの題材のようにも思えるが、これを手掛けたのは『マルコヴィッチの穴』『かいじゅうたちのいるところ』など独特の世界観で知られるスパイク・ジョーンズ。
…となれば、一筋縄ではいくまい。
近未来のLA、長く付き合った妻(ルーニー・マーラ)と離婚準備中のセオドア(ホアキン・フェニックス)。
彼は他人のために美しい文章を書く代筆業で生計を立てている。
他人のことは上手く表現出来ても自分の思いを伝えるのは下手くそ。
人間付き合いが下手な彼が新型人工知能のOSと恋に落ちたのは必然だったのかもしれない。
至れりつくせりの人工知能サマンサ(声:スカーレット・ヨハンソン)にメロメロなのも頷ける。
ユーモアとシリアス、ヴァーチャルとリアルの間で揺れ動く様子が手に取るように伝わる。
主演二人の芝居の難しさを感じる。
かたや声のみの芝居で感情や存在感を伝えなければならない。
もう一人も相手がいないのに、あたかも存在するかのような演技を要求される。
おそらくホアキン・フェニックス史上もっとも繊細で優男の役柄ではないか。
この二人の芝居に酔えるか酔えないかで評価は分かれるかもしれない。
言葉巧みにセオドアをころがすサマンサ(笑)に一つだけどうにもならないのは肉体の欠如。
しかし、“できる子サマンサ”の次なる一手に驚く。
止まることを知らずに学習し続けるサマンサと、過去から抜け出せないセオドアとで距離が開いていくのは当然のことだろう。
近未来のはずなのにファッションや回想シーンの色彩感覚などレトロっぽいのも
セオドアの“住んでいる現在地”を表しているように思えてならない。(エレベーターの表現がユニーク)
人間である以上、完璧であろうはずはなく、そこを受け止められない限り前には進めないのだろう。
単独での脚本化作業は初めてというスパイク・ジョーンズが綴った脚本はアカデミー賞を受賞。
『ガタカ』のアンドリュー・ニコルこそ早くこういう作品を作っておくべきだったのじゃないか…なんて思ったりもした。
6月28日より公開
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