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2024年11月14日04:23

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『ルックバック』

「描いても意味なんかないのに…」

 話題作『ルックバック』が早くもプライムビデオで登場。
『チェンソーマン』などで知られる藤本タツキの同名原作漫画の中編アニメ化。(58分)
監督はこれが初の監督作となった押山清高。
分業制が当たり前のアニメ制作において、脚本、絵コンテ、キャラクターデザイン、”大半の”原画を担当。(ここまでやるのは宮崎駿くらいか)

 当初はもっと短編の予定だったそうだが、”間”を大切にする演出のためにどうしても尺が伸びてしまったそうだ。
同じアニメでも『鬼滅の刃』のようにすべて内心を独白で説明する作品もあるが、本作は極力説明セリフを避けている。

 内容としては「まんが道」や「バクマン」のように共同でマンガ制作をする少女たちの友情物語が基本だが、本作の本当の姿は後半に表れる。
原作者の藤本は秋田生まれで山形の大学を卒業している。
若き日に体験した3.11の震災が大きく影響を与えていたようで、人が生きるか死ぬかの大事な局面で「漫画に何ができるのか」を抱えて生きてきたに違いない。
その命題が再びぶり返す京アニ事件がバックグラウンドにある。

 引きこもりで不登校だった同級生(京本)の絵のうまさに打ちのめされ、漫画家になるという夢を手放そうとしていた藤野だったが、京本とともに漫画家の道を目指す。(この辺は上記の「まんが道」や「バクマン」にも通じる友情譚)

 この二人、何から何まで対になっている。
まず利き腕が逆(左脳タイプの藤野と右脳タイプの京本)。
ヘアスタイルも活発な藤野がショートで、シャイな京本が伸ばしっぱなしの長髪。
おしゃれに気を遣う藤野と無頓着な京本。
話しやキャラクターに力を入れる藤野と背景画に魅せられる京本。
お互いが足りないものを補う共依存の関係が見て取れる。
(この二人の共同ペンネームが藤野キョウとそれぞれの名前から持ち寄っている。そして既に気が付いていると思うが、藤野と京本の名は原作者の藤本から一文字ずつ取っている。)

 順風満帆に見えた二人のコンビにひびが入るところから大きく動き出す。
将来の進路のことで別々の道を決意するシーンが象徴的で、二人を分かつようにそびえる冬枯れした木の枝が、あたかも二人に間に入ったひびのように見える。

 藤本タツキの映画ファンぶりは知られているようで、その趣味が本作でも見て取れる。
原作漫画のラストでは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 のブルーレイパッケージらしいのが描かれているそうだ。本作も”シャロン・テート事件を未然に防ぐ”という意味合いと重なる部分がある。
それ以外にもアニメの中で藤野の部屋に貼られたポスターが内容を示唆するかのような映画(パロディ風)が描かれる。
一瞬なので一時停止しないと分からないだろう。

 彼女たちが使う道具や参考にする美術書も実在するものばかり。(分かる人にはわかる)
実際、我が家にも劇中に登場した美術書や道具類もいくつかある。

 終盤に意外な形で登場する京本のシーンで、それまでと違う箇所があることで、このシーンが現実ではないと知ることができる。(間違い探しレベルでよほど注意しないと分からないかな。それこそ京本のように背景に関心がないと見つけられないかも。)←分かった俺はえらいだろうという自慢です。(笑)

 藤野の背中から始まる本作。
「振り返ろ」という意味の「ルックバック」のバックには背中の意味もあろうが、マンガ制作においては背景画のことを「バック」というのだ。
この”バック”を見て、というバックは誰のことを指すのかは言わずもがなだろう。

 やたらめったら作画に凝っていて、ともかく映り込みが多い。
ガラスやテーブル、そして瞳にも。
一カ所、瞳に映った学級新聞は向きが逆じゃないかな?(と思ったんだが)
気になったのは京本の家族の存在が感じられない点。
いくら子供で同級生でも、なんの応答もないのに家に入り込むのも無理臭い。
(地方の小学校だから、近所の人なら不登校の生徒がいても自宅はだいたい知っているのじゃないか。「京本さん家はあそこよ。」くらいは藤野も親から聞いている方が自然ではないか。そして一度や二度くらい京本の親と道であいさつくらいしておけば、卒業証書を届けに行く際に上がりこむのも不思議じゃないかも)

 監督は原作漫画にない要素はなるべく入れないようにしたというが、漫画とアニメでは表現が違うからここは思い切って追加してほしかった。

 ロッテントマトでも批評家100点、ユーザー99点と高評価。(11月13日現在)
YouTubeでの海外の反応を見ると感情豊かで面白い。

 漫画に限らず、何かに取り組んで現実の壁にぶち当たりあきらめた青春時代の苦い記憶を想起するという意味では普遍性のある物語。

フォト


 余談だが、配給のエイベックスは本作のおかげもあって事業黒字だったそうです。

※スマホでHello Movieというアプリで音声解説が楽しめます。
アマプラで本編音声を流しながらイヤホンをして見てください。
(アニメ現場の専門的な内容ですが…)笑


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