『
セールスマン』
アスガー・ファルハディ監督は『別離』の時も感じたが、日常の生活から究極の選択を通して社会問題を抉り出す。
深みは『別離』に譲る気がするが、ストーリーテリングの技は本作の方が勝っているかもしれない。
同監督作『彼女が消えた浜辺』でも共演したシャハブ・ホセイニ&タラネ・アリドゥスティと再びコラボした作品。
話は突然住む家を失った劇団員夫婦が転居した先で、妻が暴行を受けるという事件に巻き込まれることから始まる。
少ない手掛かりで夫が犯人を探し出す行程がミステリアスに描かれるあたりの仕掛けの上手さは光る。
イランの性のタブーや女性の地位の低さは日本の比ではない。そこを踏まえて夫婦の気持ちを推し量るに、これこそがイラン社会なのだと痛切に感じさせられる。
妻を凌辱された夫はメンツのため行動するのだが、監督がそこにしたためたのは世界で巻き起こる<負の連鎖>が念頭にあったのではないか。
観客は誰しもが非道な犯人を追い詰める夫に共感を持つだろうが、他方で真相が詳らかになった時の現実をどう受け止めればいいのかに苦悶するのも実際なのではないか。
報復は正義なのか、大義があるのか、それが万能の解決策なのか様々な思いが去来する寓話に最後まで引き込まれる。
読み解くヒントには、この劇団員夫婦が演じるアーサー・ミラーの「セールスマンの死」が大いに関係していよう。
この芝居の意味合いが多層的に物語にのしかかる。
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