『
インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』
カンヌでグランプリ受賞、全米批評家協会でも作品賞など4部門を受賞、そして監督がコーエン兄弟となればいやでも期待は高まる。
ただ、今回はこれまで得意なノワールっぽさは影を潜めていて、ボブ・ディランがあこがれたという伝説のフォークシンガーの人生転換となった1週間を描き出す。
1961年、NYのグリニッジ・ヴィレッジ。人生、ついてないときは何をやってもダメで、そこに輪をかけてプライドの高さだけは人一倍(さすがアーティストと褒めるべきか?)だけに、うまくいきそうなこともダメにしているルーウィン・デイヴィス。実力だけでは世渡りできない。
だが、これがなかなか憎めない人物で、窮地に救いの手を伸べる人が現れるあたりはアメリカの良さだろうか。好転しない<今の状況>を受け入れることで好転していく…皮肉とともに暖かさなまなざしを感じる。
才能があっても思うように評価されない人々に勇気づけるような作品で、主演オスカー・アイザックの演技や存在感と相まってシンプルだけど味わい深く、まさに彼の紡ぎ出す音楽のような作品に仕上がっているのではないか。
当時を思わせる色褪せた映像の質感も適切だと思うし、オスカー・アイザック自身の歌唱&演奏力も実に見事であるし、(歌手が本業のジャスティン・ティンバーレイクはともかく)『SHAME/シェイム』ですでに披露しているもののキャリー・マリガンの渋い歌声も中々のもの。
しかし、何よりもネコ!もう猫好きなら最初の登場シーンだけでも蕩けてしまいそうである。(笑)
人生、何が幸運を運んでくるかわからない。まさに
「塞翁が馬」ならぬ「塞翁が猫」である。
この猫は、筋書きを象徴しているかのような存在なのではと、名前に匂わせる遊び心も憎い。
丁寧に伏線を回収するタイプではなく幾分喉元に棘が残るけれど、語り口のうまさはさすがコーエン兄弟といった印象。狭い廊下に笑った。
(それでも“あの子”の行方は気になる。)
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