mixiユーザー(id:2938771)

2015年07月16日13:21

239 view

その場所には熱があった(09)

 大きさは小さな野球グラウンドぐらいあるだろうか。高さは四階建てぐらいで、それを斜めに切ったような、横から見るとちょうど直角三角形の奇妙な建物だった。何かの批難施設だということだったが、その真相は分からない。
 周囲は緑地公園と工場で、その辺りは昼間でも人が少なく、子供の頃は、その奇妙な建物の斜めの部分を度胸試しに登ったりしていた。
 しかし、子供の頃の最大の楽しみは、その建物の裏だった。裏には工場との間に細い道があり、そこにエロ雑誌が落ちていたのだ。
 筆者はぼんやりとその建物の裏を歩いていた。どうして自分がそこにいるのかを考えた。咳が激しくて眠ることが出来ず、咳止めを飲んだら、今度は頭がぼんやりとして来たので、これは咳止めが効き過ぎたかと、近所のコンビニに飲み物を買いに出たのだ。覚えているのはそこまでだった。手にはペットボトルのコーラを持っていた。まだ冷えている。近所のコンビニで買って歩いて来たようには思えなかったので、この施設の近所で買ったようだ。
 足元を見ると、エロ雑誌がいくつかころがっていた。あれから四十年以上が過ぎているが、こうしたものの捨て場所というのは変わらないものなのだなあ、と、そんなことを思いながら、足で少しページを捲るのだが、裸の女らしい写真があるのは分かるものの、それがどんな状態なのかまでは暗過ぎて分からなかった。
 この場所で筆者はマニア雑誌を拾ったのだ。しかも、そのマニア雑誌には、女の筆跡でいろいろと悪戯書きがしてあったのだ。それに筆者は興奮したのだ。そうだ。あのとき、筆者は、この悪戯書きをした女が、また、マニア雑誌を捨てに来るのではないかとドキドキさせられていたのだ。
 そんなことを考えながら歩くのだが、建物が思った以上に大きく、なかなか端に出ない。冷えたコーラを飲む。咳は止まっていたが、喉の痛みはそのままだった。頭が痛い。コーラを飲みながら左右を見る。まだ、入って来た側の端の方が近い。考え事をしながら、けっこう歩いた気がするのにおかしかった。
 せっかく、ここまで来たのだしと思い、そのまま、歩いた。もっと、いろいろなことを思い出せるかもしれないじゃないか、と、そう思いながら歩いていた。それにしても長かった。そういえば、この建物の裏で、筆者は誰かに、エロ専門の秘密組織があり、その組織はエロのために女を誘拐しているのだ、と、そんな話を陰謀論のように語ったことがあった。相手が誰だったのか、男だったのか、女だったのかも思い出せなかった。
 ようやく建物の端に着いたときには、筆者はかなり疲れていた。時計を見ると、家を出てから二時間以上が過ぎていた。この建物までは歩いて三十分程度だ。コンビニで買い物をしたにしても不自然過ぎる。
 やはり、体調が悪いのだ、と、そう思い家路を急いだ。帰りの道で、筆者は、ああ、あれは貴子という女の子で、話を聞かせていたのではなく、二人で、エロ秘密組織が何のために女を誘拐し、そこで、何をしているのか、と、そんな話を作り合って遊んだいたのだ、と、思い出した。彼女は小学校四年生のとき、喘息が悪化して田舎に引っ越したのだった。貴子、苗字までは思い出せなかった。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2015年07月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031